寺川綾、ようやくたどり着いた舞台で見せた満面の笑み=競泳
「今日が最高の日だと胸を張って言える」
平井に師事し、初めて迎えた09年の日本選手権で50メートル、100メートル、200メートルを制し、3冠を達成したころから「復活」とうたわれるようになったが、寺川にとってはロンドンへの過程にすぎなかった。
今春の日本選手権100メートル背泳ぎを59秒10の日本新記録で制し、2大会ぶりの五輪出場を決めた後も笑顔はなかった。
「58秒台で泳ぎたかったんです。悪くても58秒9は出そうと思っていた。だから、オリンピックが決まったうれしさよりも、狙った記録を出せなかったことの方がショックでした」
ロンドン五輪に向けて100メートルのみに絞り、選考会からオリンピック本番までの約3カ月、スタートの反応から前半の加速、課題とされた後半15メートルの泳ぎ方、最後のタッチに至るまで、細かなポイントを追求し続けた。練習は厳しさを増したが、それもすべて、五輪で自己ベスト、目標とする58秒台を出すためだと思えば乗り切れた。
そして、迎えた本番。
前半の50メートルを28秒96の5番手でターンした寺川は、後半でさらに加速した。メリッサ・フランクリン(米国)、エミリー・シーボム(オーストラリア)に続く3着でタッチした寺川のタイムは58秒83。
「目指していた一番じゃなかったけれど、やっと目標だった58秒台を出すことができました。今日が最高の日だと胸を張って言える。続けてきて良かったです」
あのころの、自分を越えられた喜び。
涙で赤くなった目を光らせながら、寺川は、満面の笑みを浮かべた。
<了>