寺川綾、ようやくたどり着いた舞台で見せた満面の笑み=競泳

田中夕子

「今日が最高の日だと胸を張って言える」

 弱点だった下半身は週に2回のウエートトレーニングと走り込み、キックに重きを置いた水中練習で鍛え抜く。さらに09年から12年、ロンドンまでの長いスパンで計画を立て、日々の練習メニューだけでなく、日本選手権や世界選手権、出場する大会でもクリアすべき設定タイムを細かく設定した。
 平井に師事し、初めて迎えた09年の日本選手権で50メートル、100メートル、200メートルを制し、3冠を達成したころから「復活」とうたわれるようになったが、寺川にとってはロンドンへの過程にすぎなかった。

 今春の日本選手権100メートル背泳ぎを59秒10の日本新記録で制し、2大会ぶりの五輪出場を決めた後も笑顔はなかった。
「58秒台で泳ぎたかったんです。悪くても58秒9は出そうと思っていた。だから、オリンピックが決まったうれしさよりも、狙った記録を出せなかったことの方がショックでした」

 ロンドン五輪に向けて100メートルのみに絞り、選考会からオリンピック本番までの約3カ月、スタートの反応から前半の加速、課題とされた後半15メートルの泳ぎ方、最後のタッチに至るまで、細かなポイントを追求し続けた。練習は厳しさを増したが、それもすべて、五輪で自己ベスト、目標とする58秒台を出すためだと思えば乗り切れた。

 そして、迎えた本番。
 前半の50メートルを28秒96の5番手でターンした寺川は、後半でさらに加速した。メリッサ・フランクリン(米国)、エミリー・シーボム(オーストラリア)に続く3着でタッチした寺川のタイムは58秒83。

「目指していた一番じゃなかったけれど、やっと目標だった58秒台を出すことができました。今日が最高の日だと胸を張って言える。続けてきて良かったです」

 あのころの、自分を越えられた喜び。
 涙で赤くなった目を光らせながら、寺川は、満面の笑みを浮かべた。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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