西野監督の下で急速な進歩を遂げる神戸=名将就任で開けてきた未来への展望

永田淳

大きかった名将の存在

西野監督(右)の就任で神戸は確実に進化を遂げている 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

 第17節を終えて勝ち点24の12位という結果は、今季の目標を「AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得」としているヴィッセル神戸としては物足りないものである。降格圏から遠いわけでもなく、結果だけを見れば批判を受けてもおかしくない状況だ。しかし、今の神戸がサポーターからクレームばかりを受けているかというと、そうではない。彼らがチームを温かく見守ることができているのは、前半戦のうちに監督交代をしたチームでありながらも、ここのところピッチで表現しているサッカーがほんの2カ月前にしていたものとは違ってきており、確実に成長を遂げていることを感じられるものだからだろう。

 今季の神戸は、野沢拓也、田代有三、伊野波雅彦、橋本英郎、高木和道といった日本代表経験のある選手を獲得し、大きな飛躍が期待されてスタートしたにも関わらず、すぐに期待に応えることができなかった。リーグでは開幕からガンバ大阪、コンサドーレ札幌に連勝して周囲をにぎわせたが、3月20日のヤマザキナビスコカップ予選の鹿島アントラーズ戦から公式戦6連敗。その間一度もゴールを奪えないという危機的状況に陥った。リーグ第7節柏レイソル戦で連敗ストップはできたものの、続く横浜F・マリノス戦で再び敗戦。4月末にクラブは和田昌裕監督の解任を発表し、安達亮ヘッドコーチを監督代行に据えた。

 安達ヘッドコーチが指揮を執った間、神戸は大宮アルディージャ、セレッソ大阪に連勝するなど一度は息を吹き返した。しかし、本当の意味でチームが動き出したのは、5月19日に発表された西野朗監督就任からだった。昨季まで10シーズンにわたってG大阪を率い、クラブワールドカップ(W杯)の舞台にも立った名将の存在は、神戸でも変わることなく大きかった。

代名詞を捨てなかったのは大正解だった

 まず、日本屈指の監督が来たことで、選手たちの意識が自然と高まった。「結果を残してきた監督。アジアの頂点にも立ったことがあって、世界を見ている人と一緒にやれる喜び、誇りを感じる。ただ、それだけで満足はできない。僕たちも世界に行きたい。そのために監督の期待に応えたい」と野沢が話せば、吉田孝行も「練習にもこれまでとは違った緊張感がある。良い方向に動いているなと思う。常に練習中も見られているという感じがするし、話し方も独特。グッとくるような言い方をされる。(横浜FM時代に)岡田(武史)さんにも指導を受けたけど、2人は他の日本人にはない人を納得させる力を感じる」と印象を話した。

 モチベーションがアップしたところに、これまでの戦いをリスペクトしたチームづくりの方針が示されたことで、歯車がうまく回り始めた。西野監督は、新たなチームを率いるにあたり、「これまでの神戸の良さである堅守速攻を生かして戦いたい」と宣言した。西野監督といえば「ポゼッション」のイメージが強いが、最初からG大阪で築いたサッカーをすることを考えるのではなく、神戸の現状をしっかりと把握した上で、内容と結果を両立できる戦いを考えた。

「ハイプレスからのショートカウンター」という武器は神戸の代名詞とも言えるもので、それを捨てなかったのは大正解だった。「僕らには戻るところがある」(北本久仁衛)と言える強みを残しながら、「カウンターができなかった時にどうするか。その時のオプションを増やすために、ボールを大事にすることも考えなければいけない」とした方針が、奏功した。

 ただ、出足からスムーズだったわけではなかった。「自分の中でチームを持っていきやすいやり方でやる」という言葉通り、新指揮官がG大阪時代と同様の練習メニューを取り入れたことで、G大阪と神戸の違いが明らかとなった。G大阪では当然のようにつながっていたパスが、驚くほどつながらなかった。例えば、4対2の鳥かごで6本ボールをつないでから、縦パスやサイドチェンジを入れて崩していくメニューでは、まず鳥かごでのパスが6本つながらない。G大阪でプレーしていた高木和道や橋本英郎がその違いに「ここまでつながらんのか」と驚くほどで、これまでの「歴史」の違いを感じさせるスタートとなった。

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著者プロフィール

1980年生まれ。愛知県出身。小学3年からサッカーを始め、主にDFやMFとしてプレー。法政大学卒業後、商社勤務を経てフリーライターに。現在はG大阪・神戸を中心に少年〜トップまでカテゴリーを問わず取材している。Goal.comのDeputyEditor、少年クラブ指導者としても活動している。日本サッカー協会B級ライセンス保持。

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