女子世界ランキング1位、アザレンカ選手をクローズアップ!=杉山愛コラム「愛’s EYE」

WOWOW

祖母の話をきっかけに、モチベーションアップ

今シーズン26連勝も記録したアザレンカ 【写真:AP/アフロ】

 ビクトリア・アザレンカ選手(ベラルーシ)が大きく変わったのは、去年の春、インディアンウェルズ(米国)からマイアミ(同)の頃です。その少し前まで、彼女はモチベーションづくりに苦しんでいました。そんな彼女に、ある時、祖母が話をしてくれたそうです。

「あなたには恵まれた環境があっていいわね、私の時代はね……」

 そんな苦労話を聞いた彼女は、自分はこんな恵まれた環境にいるのに、そのことに満足せず、感謝もせず、鬱々(うつうつ)とモチベーションづくりに苦しんでいるなんて、情けないなと思ったそうです。この出来事をきっかけに吹っ切れて、マイアミでは優勝を飾りました。

 これは去年の全米オープンで彼女が教えてくれたエピソードです。この出来事を境にモチベーションも高まり、自分のやるべきことも明確に見えてきたといいます。

 もともと彼女のテニスは攻撃的で、グラウンドストロークもサーブもボレーも上手でバランスがとれています。ただ、本当のトップに立つためには何かが足りませんでした。

 精神面で粗さがあったし、フィジカルもまだ伸びしろがありそうでした。しかし、今年の全豪オープンでは、本当に充実している彼女の姿を見ることができました。聞けば、去年のオフに相当、フィジカル面を追い込んだそうです。だから表情も充実していて、生き生きとした、太陽みたいな彼女がそこにいました。プレーを見ても、追い込んだことでキャパシティが広がったな、テニスの幅がでてきたなと感じました。

 全豪オープンの決勝の相手はマリア・シャラポワ選手(ロシア)でした。彼女もまた調子を上げていて、私の中には、シャラポワ選手の攻撃力にアザレンカ選手が押されしまうイメージがあったのですが、実際はそんな場面はまったくありませんでした。脱帽というか、彼女は本当にフィジカルを追い込んできたんだなと思わされました。そして、圧倒的な強さで全豪オープンのタイトルを奪ったことで、「彼女は今年、来るな」と感じました。

ポジティブさ、性格の陽気さがテニスにもよく表れています

 彼女はシーズン開幕から26連勝、出場4大会連続優勝を飾っています。勢いだけで26連勝もできるものではありませんから、本当に力をつけたなと感じます。また、この安定ぶりを見れば、気持ちの粗さも解消されたと見ていいでしょう。

 去年の全仏でオープンはWOWOWのブースにも来てくれましたが、テンションが一定して高く、エネルギーがある選手だな、とあらためて感じました。精神的に浮き沈みの激しい選手はそれが成績にも表れるのですが、彼女はもともとポジティブで、芯の強さ、性格の陽気さを持っています。それがすごくいい方向に出ていて、強気でアグレッシブなテニスを見せてくれます。

 全豪オープンでは、打つときのうなり声が物議をかもしました。相当タフな時間を過ごしたと思うのですが、その受け流し方も、さすがだなと思いました。2回戦で地元オーストラリアのケーシー・デラクア選手と対戦したときは、観客席の雰囲気は完全にアウェーで、80〜90%のファンが相手の側についていました。デラクア選手を応援する観客は、「フー、フー」と、アザレンカ選手のうなり声をまねて茶化したのですが、彼女は動じませんでした。どう反応するんだろうと思っていたら、「ヘイ! ヘイヘイ!」「もういいから。分かったから、いい加減にしてよ」という感じで切り返していました。

 私だったら嫌になってしまいそうな、厳しい状況です。ここで観客に対して何か言い過ぎたら、もっと嫌われてしまいますよね。でも、あくまでも陽気さを失わずにアピールして。上手だな、と思いましたし、この選手はこういう舞台に立つべき人なんだなと感じました。

 テニスの質も高いし、おもしろいし、このまま結果を残していけば、人気ももっと上がっていくと思います。トッププレーヤーには、風格というか、下位の選手とはまたちがうものが求められると思うのですが、全豪オープンのような厳しい経験から学ぶことも多いでしょう。成長していく彼女の姿を見るのがすごく楽しみです。

<了>
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