越川優、イタリアでの経験と代表への思い=男子バレー

田中夕子

イタリアで見いだした新たな発想

「チームが勝つためならどんなポジションでもいい」と越川は代表への思いを語る 【坂本清】

 サーブレシーブでの意識の変化は、攻撃面にも新たな発想をもたらした。
「日本にいる時は『1本目(レシーブ)、2本目(トス)が崩れても3本目はスパイカーが絶対に決めなきゃいけない』と思っていました。でも、向こうは違う。レシーブもトスも崩れているのに、スパイクが決まるはずがないという発想です。『自分が何とかしなきゃ』と気負わないようになったし、自分の出来だけにこだわらなくなりました」

 代表チームでの自分の立ち位置についても、「何が何でも出たい」とがむしゃらだった以前とは、捉え方が違う。
「自分に期待される役割があるならそれに徹するだけだし、チームが勝つためならどんなポジションでもいいと思っています」

 13位と惨敗に終わった10年世界選手権の直後、越川は首脳陣に不満をぶつけた。
「ワールドカップに向けて、五輪に向けて、本気で勝ちにいくと思っているならば、変えなければならない要素が幾つもあります。これからを、どう描いているんですか? その中で自分は何をすべきで、チームから求められる役割は何ですか?」

 否定されても、明確な答えが欲しかった。だが、返答は違った。
「チーム全員で頑張らなきゃならないのが、チームスポーツだろう」

 どうしても納得できなかった。
「『お前はコレをしてほしい』と期待されているものが見えないと、選手もビジョンが見えない。『余計なことを言わなくていい』と言われるかもしれませんが、僕は、曖昧なままではプレーできないと思ったので、そこは譲れませんでした」

 主張をぶつけることは必要だが、相手の立場からすれば受け入れられることばかりではない。越川の言い分ばかりが正しいのではなく、おそらく受け手にも意図するものがあったはずだ。だが、互いにそれは伝わらないまま、イタリアに戻る越川はチームを離れた。
 そして翌年、ワールドカップに臨む14名の中に、越川の名はなかった。

ロンドン五輪へ、代表への思い

相手を圧倒するような越川のサーブ。代表で見られる日は来るのか 【坂本清】

 準々決勝で堺に敗れ、サントリーの、越川の黒鷲旗は閉幕した。
 この大会は代表へのアピールではない、とはいえ、間もなく始まるロンドン五輪最終予選、さらには五輪本大会へ向けた思いがないはずはない。

「イタリアに行ったのも五輪で勝負するためだし、僕自身は五輪には行きたいです。でも、それは監督が決めること。たとえ今からでも『お前がこういう理由で必要だから、代表に来てくれ』と言われたら、僕は喜んで代表に行きます」

 グループリーグでサントリーは昨年の大学王者、東海大と対戦した。
 サントリーが2−1とリードして迎えた第4セット、28−28ともつれ、同点とはいえ主導権は東海大に握られていた。その場面で、越川がコート後方へクロスに放ったサーブがそのままエースになり、最後は3−1でサントリーが押し切った。

 1年時から試合に出場し、安定したサーブレシーブ力を買われて昨年は代表候補にも選ばれた東海大の星野秀知は、そのサーブコースに入っていたはずだった。しかし、触ることもできずにノータッチエース。試合後、思わず苦笑いを浮かべた。
「越川さんのサーブ……、あんな場面で、あんな場所に打つことができる。あんなすごいサーブは、初めて見ました」

 勝負の世界にタラレバがないことを承知で言うならば、五輪を決める場面で、相手を圧倒するような、勝利を引き寄せるサーブを打てる選手が見たい。ましてや、昨秋のワールドカップで、終盤のサーブが勝敗を分ける場面を何度も見てきた後だから。
 そう願うのは、はかない幻想にすぎないのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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