李忠成の楽しみ方=文字情報で見えてくる真の存在価値

平床大輔

新聞報道、出場データ……そこから見えるクラブからの期待

 インターネットというメディアの発達に伴い、開高さんのご時世と比較すると、情報収集という面では、そのスピードと量が格段に進歩したわけだが、文字は文字であり、写真は動かないのである。例えば、李は1月31日、前週のFAカップに続き、リーグのカーディフ戦にも途中出場を果たしたわけだが、BBCのサイトを見る限り、李に関する文章や画像はなかった。ただゲームのスタッツから、ホームのサウサンプトンが1−1の同点に追いついた直後、後半残り30分のあたりで中盤の選手と交代して出場したという事実が分かるのみである。以上から、この交代が追加点を取りに行くためのものだったと推測され、李忠成が監督から攻撃的な一オプションとしてテストされる段階までは達していることが分かる。

 ちなみに、サウサンプトンは来季プレミアリーグへの自動昇格権が与えられるリーグ2位につけており、対戦相手のカーディフは1ポイント差の3位である。俗に6ポインター(※勝ち点6の価値がある試合)と言われる直接対決で、加入間もない日本人ストライカーが、もう1点取りに行く場面での交代要員として使われ、しかも30分ものプレータイムを与えられたのだから、既に一定の信頼を勝ち得ているのではないかという見方もできないでもない。第一、サウサンプトンは今シーズン、リーグトップの51ゴール(※1月31日時点)と、得点力には何ら問題を抱えていないのであって、この李の移籍は、今季2位以上を確かなものにするだけでなく、既に来季のプレミアリーグ昇格後の選手層増強も視野に入れての動きではないかと、クラブ関係者でもファンでもないのに、うまく行けば、来季のプレミアリーグには宮市亮(ボルトン)と李、二人の日本人FWがそろうことになるぞ、と何となく遠大なぬか喜びまでしてしまうのである。

強力なライバルに打ち勝てるか

 しかし、そうかと思って数日後に再度サウサンプトンのホームページをのぞいてみると、新たに別のFWを獲得していたりするので、油断はできない。サウサンプトンと同じチャンピオンシップのドンカスターより加入したビリー・シャープは、今季すでに10ゴールを挙げており、実績は十分だ。しかもこのシャープ、現在サウサンプトンを率いるナイジェル・アドキンス監督のかつての教え子ときている。旧知の仲だけに、信頼も厚いのか、いきなり背番号11をもらっているところに一抹の不安を覚える。選手の入団会見の場では、監督と新加入の選手が寄り添って新しいユニホームを持つ、ほとんどお約束になっているシーンがあるが、李の隣に立つアドキンス監督よりも、シャープの隣に立つアドキンス監督の方が心なしかうれしそうな気がする。大丈夫なのか、李忠成。

 サウサンプトンの次回対戦は、2月4日に行われるアウエーゲーム。対戦相手はきん差でリーグ4位につけるバーミンガムだ。1年でのプレミアリーグ復帰を目指し、知将ヒュートン監督が率いる相手にまたしても6ポインター。これは文字情報が楽しみである。開高先生も草葉の陰で微笑んでいるに違いない。

<了>

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著者プロフィール

1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」米国で過ごすも、94年のワールドカップ・米国大会でサッカーと邂逅(かいこう)。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿

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