“カテナチオ”の常識を覆したユベントス=地に堕ちた名門はいかにして復活を遂げたのか

ロベルト・フルーゴリ

“カテナチオの国”というイメージを覆す2チーム

第20節終了時点で単独首位。コンテはアグレッシブなスタイルでセリエAに旋風を巻き起こしている 【Getty Images】

 今季のユベントスをくまなく見続けながらシーズンを折り返した今にして思うのは、まず何よりもやはり自分には先見の明などみじんもなかったという自戒である。率直に言って、“名門復活”を強く期待していたとはいえ、今季開幕前において今日のユベントス――20戦無敗で単独首位――を予想することなどできなかった。良くて3、4位に辛うじてつける程度であろうと。

 そしてさらに思うのは、ユベントスに限らずあらゆるクラブのさまざまなサッカーを語るには、やはりその実態を目の当たりにすることを欠いてはならないということだ。現場を見ることなく例えば固定概念だけで論評するようなことは、それが往々にして当事者のへの敬意を欠く行為であるからこそ、やはり厳に慎まなければならないと、ここでも自戒を込めながら思う。

 とはいえ、現実を直に見ることなくイメージ(あるいは偏見?)だけで語られることは、言ってみればこの世の常なのだろうが、やはりスポーツ、もちろんサッカーに関しても時に恣意(しい)的に編集された感のあるダイジェスト映像を見るだけでは、当然のことながら本質は理解されないはずである。そして、引き続き以下に余談ながら述べるのは、例えば、いまだに“カテナチオの国”という言葉を平気で使う人々が日本には少なくはないということへの見解である。そうした記述を目にする度に、彼らは果たして今季のセリエAを一度でも現地で見たのだろうかという率直な疑問を抱かざるを得ない。きっと間違いなく、仮に今季のユベントスの試合をひとつでも見れば、それを“カテナチオ”とは決して言えないはずである。

 加えて言えば、これは実にマイナーなセリエBの話なので補足にすぎないのだが、あのズデネク・ゼーマンに率いられたペスカーラは、まさにガードを知らないボクサーのような戦い方を実にゼーマンのチームらしく続けている。愚直なまでに。ちなみに、そのペスカーラは現在セリエBで首位と勝ち点1差の単独の2位に付け、得点53はリーグで圧倒的首位だが失点35はワースト5位(第24節終了時)。それこそカテナチオなどとは無縁のサッカーを展開し、その中でロレンツォ・インシーニェという実に興味深い20歳のFWを飛躍的に成長させている。形はユベントスと同じ4−3−3。現在、実に攻撃的なこの両チームこそが国内で最も注目されている。だけでなく、こうした積極的なスタイルが主流だ。代表以下サッカー界全体が総じて歩調を合わせているとも言えるだろう。これが、過去とは違う今日のイタリアのサッカーに見る現状である。

4−2−4よりもアグレッシブな4−3−3

 とはいえ一方で、ほかの国と明確な一線を画すサッカー文化――いわゆる勝利至上主義なるもの――が確かにこの国の内部に依然として横たわっているのも事実。それもまたサッカーという競技に対するひとつの考え方であり、別段この国のそれを擁護するつもりも、またその義理も何も筆者にはないのだが、堆積された“伝統”の中でしかし懸命に新たなスタイルを構築しようと日々の仕事に勤しむ者がいるのも事実だ。そこに目を向けず、過去のイメージにとらわれ続けたまま件の言葉を今なお使い続けているとすれば、やはり、それは厳に慎むべきだろう。

 そして、前述の通り今季のユベントスは、ほかの国とは明確な一線を画す自らのサッカー文化に小さくはない一石を投じている。無論、そのチームを今季から率いる監督、アントニオ・コンテの挑戦は当然のことながらまだまだ道半ばであり、序盤を単独首位で折り返したとはいえ、総合力で上を行くはずの現在2位ミランとの差はわずかに「1(第20節終了時)」しかない。そして、あえて先見の明など持たぬことを承知の上で結末の予想から述べれば、最終的には、極めて高い確率でそのミランと競い合った結果として、シーズン佳境で急激に増す重圧に屈する公算が大きいと思われる。

 だが、あくまでも今季これまでに限って言えば、コンテのユベントスは今日のセリエAで最も「スタジアムへ足を運びたくなるチーム」だ。新スタジアムと熱いサッカーに引き寄せられる形で開幕以来(カップ戦を含む)12戦連続でチケットは完売。監督が身上とする4−2−4、その超攻撃的な形はやはりセリエAでは継続不能と判断され、開幕から4試合目にして変更を余儀なくされた格好だが、新たに採られた4−3−3は変わらずに、というよりむしろ4−2−4にも増してアグレッシブだと言える。

 前線からのプレス位置は非常に高く、それに費やす人数は常に4枚を優に超える。コンテの言う“走り倒すサッカー”とのスローガンは確かに前時代的な響きを持っているが、実際には、猛然とプレスに行くFWとMF陣の動きは実に計算されたものだ。もちろん、この“ウルトラ・オフェンシブ”のプレスを継続する上で欠かせないディフェンスラインの高さが常に堅持されていることは言うまでもない。この点についてコンテは、「カウンターを被るリスクは織り込み済みだ」と言い切る。つまり、やや無謀な感すらある前掛かりな攻めの過程でボールを奪われ、そして裏を取られてカウンターの危機に陥るとしても、その場合にはそれこそ件の“走り倒す”気概を持つ選手たちが猛然と戻り、それでいて実に正確な動きで守備網を瞬く間に再構成する。

 例えば今季のユベントスが最も苦戦した試合、アウエーでのウディネーゼ戦(第1節)だ。後半に2度にわたり敵のカウンターを食らい、決定的なピンチにさらされたユベントスだが、明らかな数的不利の状況下でDF陣が見せた守りと、MF陣のカバーリングは秀逸。その走りの速さは驚異的だった。要約すれば、まさに現役時代の守備的MFアントニオ・コンテに見た闘争心、絶対にあきらめない姿勢がチーム全体に深く浸透しているというところか。

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