和泉竜司、市船を優勝に導いた主将の矜持=起死回生のゴールで見せた成長の跡

安藤隆人

苦しい時期を乗り越え精神的に大きく成長

初戦の長崎日大戦でも残り5分から2得点。和泉の勝負強さは際立っていた 【たかすつとむ】

 しかし、和泉はインターハイで見せたまぶしい輝きを持続できなかった。昨年度の選手権千葉県予選では存在感を放てぬまま、流通経済大柏の前に屈し、全国大会への切符を逃した。そして今年に入ると、今度はけがに苦しむ。復帰後もなかなか存在感を示すことができないでいた。
「個人的にはプレーの質が落ちたとは思っていなかった。ただ、結果がついてこなかった。プレー自体はいいと思っていたので、あとは結果さえ出せれば、絶対にやれる自信があった」

 焦っていた昨年と違って、彼は精神的に大きく成長していた。チームは選手権予選から、これまでの攻撃にウエートを置いた4−4−2ではなく、守備を重視した3ボランチの4−3−2−1にシフトチェンジした。和泉はトップ下の位置に入ってからも、「チームとして守備のところでリスクマネジメントするようになったので、より得点に絡む機会は少なくなりましたが、それも市船の一員としての自覚があるし、その中でも自分がしっかり点を取らないといけないと、これまで以上に思うようになりました」と自身の役割を受け入れていた。

 県予選決勝の流通経済大柏戦では守備がはまり、相手の攻撃を凌いで、数少ないチャンスを確実にモノにする市船らしいサッカーで勝利した。和泉はゴールこそ決められなかったが、まずは全国の切符をつかんだことで、全国では絶対に結果を残すという強い気持ちを持っていた。

「市船の主将は背負っているものが違う」

 そして、迎えた今大会。初戦となった2回戦の長崎日大戦では、0−1とリードされた後半36分からチームを救う2ゴール。昨年のインターハイ同様に、幸先良く2点を取れたことで、彼のエンジンは全開となった。3回戦、準々決勝こそゴールは生まれなかったが、清水商も矢板中央も彼に相当な警戒を払っており、その分、周りの選手が生きた。準決勝の大分戦では、後半11分に岩渕のパスを冷静に蹴り込んで決勝ゴールをたたき出すと、決勝では昨年度のインターハイを思わせる値千金の同点ゴールを挙げた。

 さらに延長戦では“あの夏”には奪えなかった、チームを優勝に導く決勝ゴールまで決めてみせた。この得点こそ、彼が1年間で大きく成長したことを証明するゴールだった。
「市船の主将は背負っているものが違う。今日はそれが出せた」と大きく胸を張った和泉。卒業後は大学サッカー界屈指の強豪・明治大学で4年後のプロ入りを目指す。市船で培ったメンタリティーを武器に、大学でのさらなる爆発を期待したい。4年後、Jの舞台であの勝負強さを、ゴールという形で見られるように――。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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