松本のJ2昇格とピラミッドの完成=ホンダロックSC 0−2 松本山雅FC

宇都宮徹壱

昇格争いに影を落とす震災の影響

「マジック2」の状態で敵地・宮崎に乗り込んだ松本の選手たち(白)。他会場の結果も気になるところだ 【宇都宮徹壱】

 多くのサッカーファンが、J1の優勝争いの行方とJ2の昇格争いの顛末(てんまつ)に熱い視線を注いでいた12月最初の週末。私はJFLの取材で宮崎を訪れていた。会場は新燃岳の噴煙がすぐそばで見える、小林総合運動公園市営陸上競技場。カードはホンダロックSC対松本山雅FCである。アウエーの松本にとっては、J2昇格の成績面の条件である「4位以内」が決まる、重要な一戦。メディアの受け付けを終えて、撮影用のビブスを求めると、係員から「今日はいいです」と言われてしまった。松本からメディアが殺到して、どうやらビブスが足りなくなってしまったらしい。いかにもJFLにありがちな話だ。そんなJFLから、今季で卒業できるか否か。松本の命運はこの一戦に懸かっている。

 前節を終えての松本の順位は3位、勝ち点56(得失点差+20)である。これを追う、4位の町田ゼルビアが55(同+30)、5位のV・ファーレン長崎も55(同+21)。Jリーグ準加盟であり、4位以内を確保すれば来季の昇格が決まる松本と町田にとっては、この日の試合は極めて重要であった(長崎は準加盟ながらスタジアムの問題が解決できず、Jリーグ入会予備審査申請は見送っている)。

 松本は、野球用語でいうところの「マジック2」の状態だ。この日、松本が勝利し、町田か長崎が敗れれば、4位以内が確定する。JFLは翌週が最終節となっているが(実際には前期第1節分)、松本がホームで行うソニー仙台戦は「災害復興支援試合」となっており、松本は勝っても引き分けても勝ち点はプラスされない。つまりこのホンダロック戦が、彼らにとっての「事実上の最終戦」となるのである。

 ちなみにこの日のゲームは、震災がなければ3月に行われるはずだった前期第2節分である。そして他会場のいずれの試合も、前週の11月27日に行われた後期第17節と、まったく同じカードとなっている。すなわち、松本はホンダロックと、町田はアルテ高崎と、そして長崎は栃木ウーヴァFCと、いずれも週をまたいでホーム&アウエーで対戦する。今回、いずれの上位陣もアウエーで戦うことになり、難しい試合を強いられることは間違いない。震災の影響は、JFLの昇格争いにも微妙な影を落とすこととなった。

個の力でホンダロックに勝利、4位以内が確定!

2−0でホンダロックに競り勝ち、4位以内を確定させた松本。松田直樹との「約束」は宮崎で果たされた 【宇都宮徹壱】

「マーツダナオキ、松本のマーツダナオキ、俺たちと、この街と、どこまでもー」

 試合前、遠くから駆け付けた松本のサポーターが、8月4日に亡くなった松田直樹のチャントを唱和していた。松田の突然の死から、早4カ月。その間、松本はなかなか浮上のきっかけをつかめず、もがき続ける日々が続いていた。しかし、後期第9節(対FC琉球戦)から、第12節(対栃木戦)まで4連勝。その後、第14節のブラウブリッツ秋田戦で手痛い敗戦を喫したが、直後の第15節(対ツエーゲン金沢戦)から4連勝し、何とか昇格圏内に踏みとどまった。松本の選手、スタッフ、そしてサポーターにとり、今季中の昇格は「マツとの約束」であり、かつまた「マツとともに戦う」という認識で一致している。その長く苦しい戦いも、事実上あと1試合。松本はとにかく目の前の相手に勝利するしかない。

 そのためだろうか。前半の松本はとにかく動きが堅かった。加えてノープレッシャーのホンダロックは、ホームの声援に背中を押されて積極的に前に出てくる。松本は何度となくセカンドボールを奪われ、自陣に押し込まれる場面が続いた。38分には、ホンダロックMF諏訪園良平のミドルシュートがポストをたたく。決まっていれば、後半もかなり苦しい展開になっていただろう。結局、前半は0−0で終了。急いで、同時刻キックオフの他会場のスコアを確認する。高崎対町田が0−0、そして栃木対長崎は――何と栃木が2−0でリードしている。もっとも前節、長崎はホームでの同一カードで2点先制されながらも土壇場で追い付き、辛うじて勝ち点1をもぎ取っている。松本にとっては、まだまだ安心できるスコアではない。

 小林で試合が動いたのは、後半7分であった。ハーフウエーライン左でFKを得た松本は、大橋正博のキックに船山貴之がゴールを背にしながら右足アウトサイドでうまく合わせて先制ゴールを挙げる。アウエースタンドが沸く中、勢いを得た松本は24分に追加点。今度も大橋のFK(右コーナー付近)から飯田真輝が高い打点から頭で合わせてネットを揺らす。飯田はDFながらチーム内得点ランキングの2位(8点)。大橋、船山、飯田という元Jリーガーの個の力がいかんなく発揮され、松本は2−0のスコアのままタイムアップを迎えた。この時、栃木では長崎が0−4で敗れ、高崎では町田が1−0で勝利したとの報が入る。ここに松本の4位以内が確定。長崎との得失点差を14に伸ばした町田も、ほぼ4位以内を決めた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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