錦織圭、世界ランク25位の実力とこれからの課題=上昇カーブの2011年を振り返る

内田暁

苦い経験を来季へつなげるために、早くも始動

世界ランク30以内でスタートする来季、錦織はどんな活躍を見せるか注目が集まる 【Getty Images】

 では、並み居る強豪たちとも互角に戦いうる錦織が、彼自身も“一握り”の内に入るには、今後何が必要だろうか?

 やはり一番に挙げられるのが、体力面の強化だ。
 テニス選手は世界を常に転戦し、毎週のようにトーナメントに参戦しながら、一年を戦い抜くことを強いられる。そのような状況では、一つのケガがスケジュールの混乱を招き、ランキングの急降下を引き起こしかねない。

 今季の錦織で言えば、象徴的だったのが夏の過ごし方である。7月に、肩の炎症のため1カ月間試合から遠ざかった錦織は、復帰後、目前に迫った全米オープン前に少しでも実戦経験を積もうと、連戦を重ねた。結果、最大の目標であった全米オープンの初戦で、腰に痛みが出て途中棄権。「やはりグランドスラムの前の週には、大会に出るべきではなかった」と、試合後には伏し目がちに吐き出した。

 もちろん、体力向上の必要性を誰より痛感しているのは、他ならぬ錦織自身だ。そして彼は、この苦い経験を来季に生かすべく、すでに動き始めている。

 ここ数週間、チャリティマッチ出場やテレビ出演など日本で多忙な日々を過ごした錦織は、12月には米国シカゴに行き、そこでハンマー投げの室伏広治のトレーナーであるロバート・オオハシ氏の指導を受ける予定だという。「臀部(でんぶ)の筋力が弱い」と指摘された錦織は、体幹や臀部の強化を中心としたトレーニングを、2週間におよび徹底して行う予定だ。

世界ランク30位以内にいる意味とは?

 また来季は、まずは年明け早々に始まるブリスベーンの大会に参戦し、その後は一週間あけてから全豪オープンに挑むスケジュールを立てている。もちろんこれは、開幕前に疲弊してしまった今年の全米の教訓があるからだ。さらには、このようなスケジューリングが可能なのは、30位以内のランキングがあってこそでもある。

 グランドスラムのような128人の選手が参戦する大型トーナメントでは、上位32選手にシードが与えられ、3回戦まではシード選手どうしが対戦することはない。つまり錦織は、2回戦までは下位選手との対戦が約束されているため、戦いながらピークを大会中盤に持ってくることが可能になる。
 
 現在、日本人女子1位の森田あゆみ(キヤノン)のコーチをつとめ、かつて杉山愛のコーチにも就いた丸山順一氏は「2大会に出て1週休むのを年間のパターンとし、グランドスラムの前の週は休むのが理想的。そのためにはシードが欲しい。杉山さんのコーチをしていた時、シードがあるというのは、こんなにも大きいものかと感じていた」と話してくれたことがある。来季の錦織は、そのシード選手の利を得た上で、まずは1月16日に開幕する全豪オープンに挑む。

「トップ10の選手にも勝ってきたし、これからが楽しみです」。
 これは11月20日にチャリティマッチに出場した錦織が、自分への期待を表した言葉だ。

 3週間前にフェデラーに敗れた時、錦織は何より「悔しかった」と言う。だが史上最高の選手に敗れ悔しさを覚えることは、その差を縮めることが可能だと信じ、頂点までの険しき道を歩む自らの姿を、リアルに想像できる者の特権でもある。

 勝利の喜びも敗戦の悔いも受け止め「楽しみ」だと笑う錦織の来シーズンが、それこそ楽しみで仕方ない。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント