問われるサッカー選手とソーシャルメディアのルール=「ダニエルG」のサッカー法律講座

バベルはツイッター上での暴言により、FAから罰金処分を受けた 【Bongarts/Getty Images】

 サッカー選手がマスコミをにぎわすのは世の常。夜を明かしてのドンチャン騒ぎ、暴露本、莫大(ばくだい)な移籍金など、さまざまな記事が一面を飾る。従来、選手に関する報道は、選手・マネジャーとジャーナリストとの間の、相互に有益な関係の上に成り立っていた。そして、サッカーの報道や批評は、この双者間の同等なレベルに基づき行われてきた。しかし、ツイッターをはじめとするソーシャルメディア・プラットホームの到来により、人々のコミュニケーションは、今までになくストレートな性質を帯びるようになった。クラブや会社などの団体および個人は、ファンやフォロワーと瞬時にコミュニケーションすることができる。このコミュニケーションの即時性と容易さに、サッカー選手たちの瞬間的なツイートが相まって、厄介な失敗やご難が余儀なくされてきたのだ。ツイートする個人が今を時めく選手であればなおさら、話題性は高まる。今回は、サッカー選手とソーシャルメディアに関するルールについて考えてみたい。

ツイートは危険?

 ソーシャルメディアは、もはやごく一般的に浸透している。サッカー選手たちには、プレー中であろうとなかろうと常識を持って行動をすることが望まれ、クラブもまた、最悪の事態を覚悟しなければならなくなった。ファンやフォロワーにとっては、瞬間的にストレートなことが言える(読める)スリル満点の時代がようやく到来したと言える。

 ツイッターはパンドラの箱を開けてしまった。中から飛び出したのは「斬新な意見」という災難。法の抜け穴が多く、問題は必然的に発生する。例えば、クラブ側は選手のツイートを事前に調査することができない。よって、すべてがツイートする選手の判断に任され、「ツイートは危険と背中合わせ」とも言える。携帯電話をマルチ・プラットホーム・デバイスとして使い、テキストやインスタントメッセージを送ることができる中、自分のツイートが起こす波紋など一切考えることなく、多くの人々を対象に投稿することができる。時間を持て余し何か言いたくてたまらない選手たちは、ノキア、アンドロイド、アップルといったスマートフォンから、各種のツイッターアプリを簡単に操作し、瞬時に投稿するというわけだ。

 ツイッターなどのプラットホームの効用を肯定的にとらえる人々は、これらのプラットホームにより「歯に衣着せぬ発言」と「真に興味深いコメント」が可能になったと主張する。自由で斬新なコミュニケーションこそがこれらのプラットホームの人気の秘密と言えるかもしれない。

ツイッターでの暴言で移籍リストに

 しかし、ツイッターはユーザーをトラブルに巻き込むこともできる。物議を醸し出すような投稿は、削除はできても、フォロワーが情け容赦なくリツイートしていればダメージの修復は不可能だ。一連のリツイート行為は、瞬く間に雪だるま式に大きくなる。サッカー選手が泥沼にはまったツイッター発言をいくつか紹介する。

 まずは、アルダーショット(イングランド4部)のマービン・モーガンの例。彼は、ファンからブーイングされた後、ツイッター上で暴言を吐き、出場停止および減給2週間の処分を受けたばかりでなく、移籍リストに載せられてしまった。自らのクラブのファンに対し「みんな死ねばいい」とツイートしてから人気を取り戻すのは、一筋縄ではいかないだろう。「みんな死ねばいい」発言でクラブが同選手を法律的に解雇できたかどうかは別問題である。雇用問題専門弁護士の判断を待たねばならない。

 リバプールのグレン・ジョンソンは、ポール・マーソン(イングランドのサッカー番組に登場するサッカー評論家)に自らのプレーを批判され、「アルコール・薬物・ギャンブルの過去を持つマーソン氏のコメントは気にもならない」とツイッターに投稿した(実際には、もっと辛らつな言葉でツイート)。「毒をもって毒を制す」ためには、ツイッターこそ完ぺきな場所であるとジョンソンは判断したのであろう。

 ダレン・ベントは、トッテナムからサンダーランドへの移籍前、トッテナムのチェアマン、ダニエル・レビ氏に対し、サンダーランドへの移籍を早めるよう不謹慎な言葉を用いて非難した。数時間後にベントは謝罪の言葉を投稿している。

FAとツイッター

 上記の3例のほかに、FA(イングランドサッカー協会)が関与した2つの例を紹介する。まずは、FAカップのQPR対ブラックバーンの一戦で起こった出来事。QPRのジェイミー・マッキーはブラックバーンのガエル・ジベのタックルで足を骨折。マッキーのツイートによると、彼が骨折で倒れたまま苦しんでいると、ブラックバーンのエル=ハッジ・ディウフ(今冬にスコットランドのレンジャーズに移籍)が、マッキーを口汚くののしったという。そこで、QPRのブラッドリー・オールとパディ・ケニーがツイッターに、「次はディウフの番だ」「自分の行いは自分に返ってくる」と報復をにおわす投稿をした。

 現在、FAでは両選手のツイートを調査中で、何らかの懲戒処分が取られるかどうかは現時点では不明である。しかし、QPRのニール・ウォーノック監督はすでに、選手たちが同クラブについてツイートすることを全面的に禁止した。
「自分たちで罰金を科すようなことはしたくない。選手たちにはきちんと話をした。彼らは好きなだけツイートすればいい。ただし、クラブに関する発言は一切禁止だ。」
 確かに、クラブに関する発言の完全禁止は、今後の論争を食い止める一つの方策であるだろう。

 QPRがFAの審決を待っている間、すでに処分を受けた選手もいる。リバプールのライアン・バベルだ。彼は、ツイッター上での失言で、FAから1万ポンド(約131万円)の罰金を受けた。FAのウェブサイトは「バベル選手は、ハワード・ウェブ審判に対する自分のツイッター上の発言および画像が不適切であったことを認めた」と発表した。

 周知の通り、同選手は、マンチェスター・ユナイテッドのユニホームを着せたウェブ氏の写真を転送し、「彼がベスト審判の1人だって? 冗談だろ」とコメントした。彼の言いたいことが分からなくもないのだが。

 ツイートするサッカー選手の中では、バベルがFAから処分を下した最初の選手であるが、注目すべき点は、審判の信頼性を疑問視するコメントや画像にFAは飛びつきやすいということである。このことは、ツイッター関連で選手がスクープ記事になるのを防ぐため、クラブがソーシャルメディア対策を策定する際に念頭に置かれるべきことである。

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著者プロフィール

ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)

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