チョン・テセ、エゴイストからの脱却=ボーフム移籍後の知られざる葛藤

安英玉

チョン・テセは、リーグ戦で8ゴールを決め、ゴールランキングの4位タイにつけている 【Bongarts/Getty Images】

 夢のワールドカップ(W杯)出場後、ドイツリーグ2部(ツバイテリーガ)VfLボーフムに電撃移籍を果たしたチョン・テセ。12日には、オスナブリュック戦で勝ち越しゴールを挙げ、勝利に貢献。今季8得点を挙げて得点ランキングはリーグ4位タイにつけている。古巣・川崎フロンターレでの異名「人間ブルドーザー」の本領発揮といったところだが、快進撃の裏には移籍後5カ月間の苦悩と葛藤があった。

監督から「お前はエゴイスト」

――以前から欧州でのプレーを希望していましたが、今回のドイツ行きを決心した動機は何だったのでしょうか

 W杯前、5月末のギリシャとの親善試合でゴールを決めた後に、現在所属するボーフムからオファーを受けていました。ほかにも、イングランドのチームからオファーがあったけど、ビザの問題で引っ掛かって、5月の時点で現実的な選択肢はボーフムだけになったんです。いろいろ悩んだけど、欧州でプレーするというのはキャリアアップのための第一歩だし、もう26歳でサッカー選手としては若くないことを考えれば、欧州でスカウトの目に留まる場で経験することは重要ですから。決めたのはW杯が終わってから。W杯で話題にしてもらった分、今を逃す手はないと思って移籍に踏み切りました。

――得点ランキングで上位にいる現状に満足はしていますか

 最低限の結果は出せていると思っています。(カップ戦を含め、11月の時点で)15試合で7点は悪くない。チームへのアピールとしてはまだ足りないけど、エースとしての自覚はありますね。

――フロンターレでは「人間ブルドーザー」の異名を取るほど、ゴールへの執念が人一倍強いことで知られていましたが、今のチームでもその持ち味は生かせていますか

 実はここにきて、これまでのプレースタイルや試合での立ち位置を見つめ直すようになったんです。当初、監督に言われた言葉が「お前はエゴイスト」(笑)。確かにそうだな、と。

自分に足りなかったものが見えてきた

――どのような点でエゴイストだったのでしょうか

 以前までは、自分は得点さえしていればいいと思っていて、チームの一体感を作るとか、味方がプレーしやすい状況を提供するという視点は一切なかった。ゴール前以外でも、自分のドリブルに固執したりして。良い意味で自信があっての行動だったけど、裏を返すとチームメートを信じていなかったんでしょうね。ボーフムでも、最初は「1人でやってやる」という意識でした。おれの調子が悪ければ、チームの調子にも響いてくるのは確かだけど「チームのためにプレーする」という考えは正直、なかった。

――見つめ直すようになった出来事があったんですね

 いろいろありましたね。トルコ系のマヒル・サーリュク選手と2トップを組む機会が多かったんですが、彼、メンタルがものすごく強くて。試合が終わるたびに「何でパスを出さないんだ」と責められて、しょっちゅう言い合いになって……。今は和解しましたけど(笑)。彼に言われてからは、ずっとパスを意識するようにしていたんです。といっても、おれはパスがかなり下手なんで、自分のプレーが封じ込められてしまった気がして、悩んだ時期があった。「何がエゴで、何がエゴじゃないんだ?」って。

――それでも前に進むきっかけとなったのは

 イエローカードの累積で、久々に試合を客観的に見たときなんですけど(10月下旬の試合)。その時、自分に足りなかったものが見えたんですね。FWも献身的に守備をして、チームの一体感を出すことに貢献している。ヨーロッパのチームはエゴイストが1人いて、そいつが点を入れて、というイメージがあるけど、エゴイストがいるチームが負けるのも、さんざん見てきた。自分のプレーをしつつも、周りも満足させなければいけない。これがおれにも必要だったのかな、と実感したことがきっかけですね。

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著者プロフィール

国際政治記者を経て2008年より週刊誌の特集記事を企画編集するほか、書籍編集、ウェブメディア編集、日韓翻訳、通訳、イベント企画など多岐にわたり活動している

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