“和製ボルト”飯塚、次世代をけん引するスプリンターを目指して=陸上

折山淑美

ロンドン五輪は「出て戦わなくてはいけない立場」

“和製ボルト”と称される飯塚は、これから世界でどのような活躍を見せてくれるだろうか 【Getty Images】

 大会へ入っても飯塚は、完ぺきともいえるレース作りをした。200メートルの予選は21秒13、準決勝は20秒93と余裕を残して走った。さらにライバルになるのは準決勝で20秒81を出していたアリクサンドル・リニク(ベラルーシ)だと意識し、決勝でもひとつ外側のレーンの彼を見ながら走り、後半で勝負を決する完ぺきな勝ちレースをしたのだ。
 彼を“19秒台も可能な大器”と期待する理由は、184センチ、79キロの大きな体だけではない。「中学時代からケガが多い選手だったので、高校時代のテーマはとにかくケガをさせないこと。練習は、彼の能力に対して50パーセントくらいしかさせていないし、レースでも余力を残して勝負させた」と藤枝明誠高時代の恩師・佐藤常保コーチが話していたような、伸びしろの確かさだ。世界ジュニアの決勝でもまだ力を出し切った走りではないように見えた。それに対して飯塚は、「力を出していないように見えるのが僕の理想の走りですから」と笑顔を見せる。
「今年はしっかり練習して、来年からはシニアでも戦えるようにしたいですね。五輪は小さいころからずっと目標にしていたし、絶対に出たいと思っていました。でもこれで、ロンドンも『出て戦わなくてはいけない立場』になったと思います」
 こう話す飯塚の今年の世界ジュニア制覇とならぶ目標は、高校時代にはほとんどやっていなかったウエートトレーニングなどを取り入れて、体づくりに励むことだ。しっかりと土台を作り上げ、来年から世界へ挑戦するというスケジュールをかたくなに守った先に、“和製ボルト”と称される彼の、本物のスプリンターへ成長する道が開けてくるはずだ。
 今回の世界ジュニアで日本は、飯塚以外にも銀2、銅2のメダルを獲得した。その中でも男子やり投げで自己記録を2メートル38センチ更新し、昨年の世界選手権(ベルリン)銅メダリストの村上幸史(スズキ浜松AC)が持つ日本ジュニア記録にあと10センチまで迫る、76メートル44を投げて2位になったディーン元気(早大)の健闘は見事だった。昨年の世界選手権で村上が世界と戦えることを示した直後の結果だけに、彼も今後は、しっかりと世界との戦いを視野に入れて挑戦できるはずだ。

飯塚の金メダルを含め、合計5個のメダルを獲得した日本。陸上界をけん引する力となることを期待したい 【Getty Images】

 また、男子走り高跳びで3位になった戸辺直人(筑波大)も期待の一人だ。身長193センチと体に恵まれた彼は昨年、2メートル23の高校記録を樹立。今回は2メートル21に止まったが、3回失敗した2メートル24では惜しい跳躍もあったという。この銅メダルは、これから彼が世界へ挑んでいくための弾みになったはずだ。
 今回の世界ジュニア選手権に出場した選手たちは、これまで日本陸上界を引っ張ってきた“末続世代”(※)の再来を感じさせる活躍を見せてくれた。

※男子短距離の末続慎吾(ミズノ)のほか、同短距離障害の内藤真人(ミズノ)、同棒高跳びの澤野大地(千葉陸協)、同走り高跳びの醍醐直幸(富士通)、女子走り幅跳びの井村久美子(iDEAR)ら陸上界で活躍を見せる1980、81年の生まれの選手たち

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント