シティとレアルの影に隠れたユナイテッドの思惑=東本貢司の「プレミアム・コラム」
ユナイテッドの戦力補強は筋が通っているか
ユナイテッドのファーガソン監督(右から2人目)はオーウェン(右から3人目)ら3選手で補強を終了と宣言したが…… 【Man Utd via Getty Images】
ボルドー出のフランス・アンダーエイジの俊才、ガブリエル・オーベルタンの方は、当然ながら未知数。だが、ファーガソン一流のスカウト網に早くから引っかかっていたというからには、只者ではあり得ない。思わぬヒットの可能性もあり、ナニやアンデルソンと競り合わせる青写真が浮かんでくる。
実際のプレーを見ていない以上、何とも言えないのがもどかしいが、ひょっとしたらサー・アレックスは“ギグスかスコールズの器”を看破しているのかもしれない。ポジションは異なるが、獲り逃がしたベンゼマよりもお買い得、かつ、チーム構成の上で“ベター”だとしたら、実にしめたものである。
そして、マイクル・オーウェン。少なくとも、現地一般の感触に従えば、クリスティアーノ放出以上の驚きでもって迎えられたようだ。ただし、決定的に重要なのは、意外は意外でも、否定的意見は思った以上に多くないという事実だ。故障がち(オーウェン本人はこのレッテルを否定しているが)の不安さえ克服すれば、多くの関係者、識者、ファン、そして誰よりもサー・アレックス自身が、「今でもイングランド屈指のフィニッシャー」だと太鼓判を押している。つまり、適切な使われ方をされる限り、確実にゴールを積み上げてくれる、というのが大方の共通した観測なのである。分かりやすい意見を一つ挙げておくと「ユナイテッドなら、ニューカッスル時代の3倍の(シュート)チャンスがある」。
そして何よりも、サー・アレックス・ファーガソンという「実績のあるベテランの再生、およびその実力を最大限に発揮させる達人」にかかるのだから、という信頼感、期待感が圧倒的な“支持”の割合を占めているという点。いわく、過去の実例には事欠かない。カントナ、シェリンガム、ラーション、ファン・デル・サール……。
「クラブより大きなプレーヤーなどどこにも存在しない」
そこには、明らかにシティーとレアル・マドリードの傍若無人ぶりを苦々しくも批判しつつ、プロフットボール界全体に対するメッセージのようなものも見えてくるのだ。
“終結宣言”の際、彼はこう述べている。「一般社会の経済危機に照らし合わせるまでもなく、法外な、いや法外などという表現すら超越した金額が飛び交って、今この世界の金銭感覚はおかしくなっている。純粋な価値に見合う等価で語れない状況の中で、その波に飲み込まれたくない、飲み込まれるべきでもない」
だとすれば、オーウェンの獲得が「移籍金ゼロ」という事実にも、サー・アレックスのメッセージ性がそれとなく込められていると受け止めるのはうがち過ぎだろうか。そして、あまりに突出した存在になりすぎたクリスティアーノの放出には、マット・バズビー以来のユナイテッドの伝統の決めぜりふ「クラブより大きなプレーヤーなどどこにも存在しない」がBGMのように漏れ聞こえてもくる。いみじくもサー・アレックスはメディアを通して呼びかけて(?)いる。
「クリスティアーノには心からありがとうと言いたい。ただし、ユナイテッドにおける彼の役割は、おそらく一年前に終わっていたのかもしれないね」
その“役割”は、新たに黄金の「7」番を引き継いだオーウェンに託されるようだ。
<了>