フッキ、成功への階段を昇り続ける“超人”=ポルトガルサッカー

日本の「フッキ」からポルトガルの「ウルク」へ

日本からポルトガルへ活躍の場を移したフッキ(左) 【Photo:ロイター/アフロ】

「ジバニウド・ビエイラ・ジ・ソウザ」という立派な本名があるにもかかわらず、自身が子どものころにあこがれ、愛読していたアメリカン・コミックの主人公ハルクのポルトガル語読みにちなんだ「ウルク」という呼称が、いつしかその男の“名前”となった。
 18歳で遠い極東の島国に新天地を求めたそのブラジル人は、Jリーグでストライカーとしての才能を覚醒(かくせい)させ、「ハルク」というオリジナルの英語発音と「ウルク」というポルトガル語発音をミックスした「フッキ」という愛称とともに、日本のサッカー界に強烈な記録と記憶を刻むこととなった。

 今シーズン、慣れ親しんだ「ウルク」という本来の“名前”を取り戻したフッキは、昨年7月25日のFCポルトの入団会見で、「自分の誕生日にポルトのようなヨーロッパのビッグクラブと契約を結べることができてとてもうれしい」と語りながらも、「オレがゴールを決める時、それはポルトの勝利を意味する。オレのゴールはポルトにリーグのタイトルとチャンピオンズリーグ(CL)のタイトルをもたらすだろう」と、日本でのプレースタイル同様、傲岸不遜(ごうがんふそん)なコメントを吐いている。

 だが、フッキの今シーズン序盤の道のりは決して平たんなものではなかった。リーグ開幕戦ではベレネンセス相手にゴールエリア外から“ボンバ=爆弾”と形容された破壊力抜群のゴールを決めてみせたにもかかわらず、今シーズン序盤のフッキのプレーは「個人プレーに走り過ぎる」として、監督のジェズアルド・フェレイラを大いにいら立たせた。
 さらに、前線でコンビを組む昨シーズンのポルトガルリーグの得点王であるリサンドロ・ロペスは最初、このブラジル人のプレーが理解できなかったという。
「ヤツは平たんなピッチの上でも、ボールを転がすことをしないんだ。明らかにこっちがフリーになっている場面でも決してパスを寄こさない。とにかくGKに向かって猪突(ちょとつ)猛進だ。ウルクはボールを力まかせに蹴るようなシュートが好きなんだろうね。チームメートの動きを全く見ていないのさ」と、腹立ち紛れに語っている。

監督、チームメートから信頼を勝ち取ったフッキ

 監督とチームメートの信頼を失っていったフッキはシーズン最初の10試合ほとんどで、ベンチを温めることに費やした。たまに試合に出たとしても、それはポルトの勝利がほぼ決定した後半の遅い時間帯からだった。
 しかし、首脳陣のフッキの評価を覆すゴールが生まれる。それは昨年11月9日のポルトガルカップ4回戦、スポルティング・リスボンとの大一番の試合だった。敵地ジョゼ・アルバラーデで0−1のビハインドを負っていた後半、味方のクリアボールを拾ったフッキは、そこから約50メートルの距離を1人でドリブルで持ち込み、値千金の“ミサイル”シュートを決めてみせたのだ。

 結局、試合は延長でも決着が付かず、PK戦でポルトが死闘を制することになるのだが、このフッキのゴールは“個人プレー”であったにもかかわらず、指揮官から手放しの賞賛を浴びることになる。昨シーズンのポルトガルカップ決勝でスポルティングに敗れ、準優勝に終わったポルトにとって、今シーズンの同大会でスポルティングとの直接対決に勝つことは至上命令だったのである。
 一方、敗れたスポルティングの監督、パウロ・ベントも「ウルクは脅威であり、驚異だった。彼は現代のサッカー選手に必要なすべての要素を兼ね備えている」と脱帽した。

CLの「注目の若手10選手」に選出

 ここから本当の意味での“超人”のシーズンが始まった。監督、チームメートの信頼をたった1つのゴールで取り戻したフッキは、徐々にチームのためにプレーすることを学び始め、チームもフッキのプレースタイルを生かすべく、彼に合わせるようになる。

 監督のジェズアルド・フェレイラは、フッキがボールを持ったときにリサンドロ・ロペス(トップ)、クリスティアン・ロドリゲス(左ウイング)、ルチョ・ゴンザレス(2列目)に彼を補完するような形で素早く四角形を作らせ、フッキがボールを奪われた場合に備えるような新しい戦術も取り入れ始めた。
 それと並行して、フッキも本来の得点力を発揮し始める。リーグ21試合出場で8ゴール(4月5日現在)は、ルチョ・ゴンザレスの9ゴールに次ぐチーム2位のゴール数である。さらにリーガ・サグレス(ポルトガルリーグ)のMVPポイントでは、そのルチョを抑えて全登録選手中5位というポイント数を獲得している。

 一方、CLでの出場8試合では、まさにチームプレーに徹していると言っていい。今シーズンのCL得点王争いで6ゴールの2位につけているリサンドロ・ロペスのゴールをお膳立てするプレーが光る。さらに、Jリーグ時代はラフプレーで警告・退場が非常に多かったフッキだが、今シーズンのCLでは警告2枚、退場はゼロ。ここにも、フッキのチームプレーの学習の成果が表れていると言えよう。事実、グループリーグ終了時点で、フッキはUEFA(欧州サッカー連盟)が選出する今シーズンのCL「トップ10・ライジングスターズ」(注目の若手10選手)にも名を連ねた。

 イタリアの『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙には、プレースタイルが似ていることからすでに比較対象となっているアドリアーノが、フッキのプレーを賞賛しているコメントが掲載された。ブラジル代表監督のドゥンガも、フッキの最初のプロクラブであるビトリア・ダ・バイーアの監督だったジョアン・パウロから、「直ちにフッキを“セレソン”(ブラジル代表)に招集した方が良い。彼のようなキャラクターのブラジル人選手は今のところいないのだから」と、フッキの代表招集を進言されたことを明かし、自身も「常にフッキのことは(代表候補として)わたしの頭の中にある」とコメントしている。

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著者プロフィール

1978年3月1日、リスボン生まれ。新リスボン大学在学中より、ポルトガルの一般紙『ジョルナル・デ・ノティシア』紙に2年勤務。その後、ポルトガル最大のスポーツ紙『ア・ボーラ』(ちなみに、ウェブサイトはポルトガル国内で最もアクセス数が多い)の記者に転身。2001年より国内最大の人気クラブであるベンフィカの番記者として活躍している。ポルトガル語、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語と5カ国語に堪能で、語学力をを生かしてペレ、ディ・ステファノ、プラティニらのサッカー界の重鎮の独占インタビューにも成功している

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