新たな大会に隠されたプラティニ会長の狙い=ヨーロッパリーグ開幕コラム

豊福晋

チャンピオンズリーグ方式の「ヨーロッパリーグ」

「ヨーロッパリーグは成功すると確信している」と語るUEFAのプラティニ会長 【Getty Images】

 さて、来季から始まるこの「ヨーロッパリーグ」、最大の変更は本戦がいきなりグループリーグから始まる点だ。これまでのUEFAカップは1回戦があり、グループリーグを経て、CLのグループリーグ3位がパラシュート的に落ちてくるという、ちょっとややこしい大会方式だった。しかし、この新たな大会からは、成功したCLの方式を踏襲し、“チャンピオンズリーグ2”もしくは“ランナーズアップリーグ”といった方式で開催される。
 大会のロゴもどことなくCLを意識した作りに生まれ変わった。大会のテレビ放映権もCL方式を踏襲し、これまでの各クラブが個別に放映権を売却していた方式から、UEFAが一括して扱うように整備された。大会スポンサーもつき、まとまった額がUEFAから各クラブに分配されることになるわけだ。

 今後は、同大会に対するクラブのモチベーションも高まるはずだ。イタリアの『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は“大会優勝クラブは1000万ユーロ(約12億円)以上の利益を手にすることになる”と予想している。賞金に加え、入場料収入や分配されるテレビ放映権料など、収支はクラブにより異なるが、これまでよりも各クラブに入る額が大きくなるのはほぼ間違いないだろう。そうなると、欧州の中堅クラブはこれまでよりもさらにこの大会に力を注ぐことになり、自然と大会のレベルも上がるというわけだ。

 現在は出場クラブの間にも、“しょせんUEFAカップか”という空気が流れていたのは否定できない。特に普段ならCLに出場するようなクラブがそうで、例えば今季のミランはシーズンの目標の一つには掲げているものの、彼らにとってみれば当然リーグ戦の方が大事。ザンブロッタは「UEFAカップで優勝したい。そうすれば来季の欧州スーパーカップでCL王者と対戦できるから」と、UEFAカップ王者になる意味をスーパーカップに見いだしていたほどである。
 05−06、06−07シーズンにセビージャでUEFAカップ2連覇を成し遂げたファンデ・ラモス監督(現レアル・マドリー)も「優勝しても結局はUEFAカップということで、正当な評価を受けていない」と悲観していた。

UEFAのプラティニ会長の思惑

 もともとUEFAカップは、マニア受けする、通好みの大会だった。各国のビッグクラブは当然のようにCLへ出場する。資金が豊富なビッグクラブは海外の有名選手を集め、イングランド・プレミアリーグに代表されるように海外の有名監督に指導を任すことが多いため、その国独自のサッカーの特色が出にくい。しかし、UEFAカップに出場するようなクラブは、いい意味で国際化されていないため、ダイレクトにその国のスタイルが出るのである。

 この変更に、UEFAのミシェル・プラティニ会長は誇らしげだ。
「新たな大会方式によって、ヨーロッパリーグは成功すると確信している。この変更は、大会にとって大きなプラスとなる。ファン、選手、クラブにスリルを与えてくれるはずだ」

 プラティニが望むように、新たなスポンサーが集まり、まとまった額のテレビ放映権が同大会に出場する中小クラブに配られるようになれば、各国で差が広がりつつあるクラブ間の格差も少しは埋まることになる。そしてそれが、中小クラブをサポートするという意向を持つプラティニの意図でもある。大国と小国、ビッグクラブと小クラブの格差を縮めようとするプラティニの狙いは成功するか。
 来夏、新たに誕生する「ヨーロッパリーグ」に注目したい。

<了>

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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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