横地愛、ライバル村田を破り日本のトップに=新体操世界選手権日本代表決定競技会

椎名桂子

村田を抑え、ついに日本のトップに立った横地(写真) 【榊原嘉徳】

 新体操の世界選手権(9月16〜23日、ギリシャ・パトラス)日本代表を決定する競技会が5月5、6日の2日間、東京・代々木第二体育館で行われた。
 世界選手権への切符は4枚。昨年末の全日本新体操選手権の上位20人(うち6名は引退)と推薦選手二人によって競われたこの大会は、紛れもなく現在の日本の新体操界におけるトップレベルの戦いであった。

横地、逃げ切り勝ち 重圧との戦い

 トップ通過で世界選手権への出場を決めたのは、1日目で首位に立ち、そのまま逃げ切った横地愛だった。
 初日のフープ、ロープでは目立ったミスもなく、情感あふれ、音楽と一体となった演技を見せた横地。しかし2日目のリボンでは、珍しくリボンが体につくなど細かいミスが出てヒヤリとさせた。さらに最終種目のクラブでは、スピード感あふれるクラブさばきを見せながらも演技中盤でまさかの2本落下。手具操作の巧(うま)さには定評のある横地らしからぬミスに場内はどよめいたが、これがプレッシャーというものか。

 1日目終了後の記者会見で横地は「首位といっても通過点なので、最後まで集中を切らさないようにしたい」と語った。今までにも折り返し地点では“女王”村田由香里を上回っていたことは何度かある横地である。ただ、最後まで村田の上にいたことはない。そのことが、横地の頭にまったくなかったとは思えない。考えないように、無心であろうとしてはいても、やはりプレッシャーはあったはずだ。「結果よりも、明日は自分のやりたいと思っている演技が見せられるようにしたい」その横地の言葉は心から出ていたと思う。その“こだわり”が横地らしさであるから。ただ、そう思うことで平常心で2日目を迎えたい、そうしなければ、という気持ちの表れでもあったのだろう。
 後半2種目は横地にとって満足のいく出来とは言えなかっただろう。しかし、試合には勝った。そんなこともあるのだ。「十分にやれた!」という演技でも勝てなかった、そんな思いも何度もしてきた横地だから、こんなことがあってもいい。何度も何度も2位に甘んじてきた横地愛を、新体操を長く見てきた観客はよく知っている。それでも輝きを増し続けてきた横地愛を多くの人たちが知っている。長い長い時間がかかったが、横地愛は日本のトップ選手としてギリシャに行く、そのことに拍手を送りたい。

「五輪の枠を取ってきます」村田の強い決意

世界選手権の代表切符を勝ち取った(前列左から)大貫、横地、村田、日高。後列は団体の日本選抜メンバー 【榊原嘉徳】

 2位の村田由香里(日本体育大学大学院)も、現役続行か否かという迷いのなか、「北京五輪出場権の懸かった世界選手権」に向け自分を奮い立たせて、この試合に挑んできたという。確かに迷いがあった分、調整が間に合わず一時期の精度には欠ける演技もあった。そのため、万全ではなかった横地を逆転することができなかった。それでも2位。やはりまだ“日本の新体操は村田の力を必要としている”と言わざるを得ない結果だった。「代表になれた以上、必ず五輪の枠を取ってきます。そうでなければ意味がない」と決意を口にした村田。村田もまた強い思いをもってギリシャに向かう。
 3位の日高舞(東京女子体育大学)は、2日目の2種目ではいずれも1位。まだ大学1年生ながら見事な追い上げを見せた。2年前の世界選手権では団体とかけもちで、個人は1種目しか出場していない日高だが、今回は日本選手団の大きな戦力になりそうだ。4位の大貫友梨亜(東京女子体育大学)も、2年前は日高とともに団体のメンバーとして世界選手権を経験している。その経験はきっと生きるに違いない。

ユース世代も大健闘

演技中に鼻血を出すアクシデントに見舞われながらも、会心の演技を見せた遠藤 【榊原嘉徳】

 今大会では、ユース世代(高校生)の健闘も光った。7位・穴久保璃子(イオン)、9位・中津裕美(エンジェルRGカガワ日中)、そして2日目1種目目のクラブの演技中に鼻血というアクシデントに見舞われた遠藤由華(STELLA)。遠藤は初日から順位は下げたものの、最終種目のリボンでは7位に入る会心の演技を見せた。
 この3人の選手たちの美しさ、また能力の限界を超えたところまで、本番で見せようとする果敢さは多くの人の心に響いたはずだ。彼女たちは、無難な演技での「そこそこ上の位置」など目指していない。「トップ」を目指している。その志の高さ、潔さが必ず未来を切り開いていくだろう。北京五輪、いや、その後かもしれないが、彼女たちの時代は必ずやってくる。そのとき、日本の新体操は大きく変わる、大きく前進する。そう信じたい。

<了>
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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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