前口上に代えて(2月21日/雪のちくもり)=宇都宮徹壱のSAPPORO日記
「これがサッカーの取材だったら…」
間もなく世界選手権の開幕を迎える札幌だが、街は静まり返っている 【宇都宮徹壱】
22日、ここ札幌においてノルディックスキーの最高峰の大会「FISノルディックスキー世界選手権大会 SAPPORO2007」が開催される。この2年に一度のスキーの祭典こそ、私が札幌にやって来た唯一にして最大の目的であった。ただし、単なる物見遊山ではない。大会が閉幕する3月4日までの2週間、私はここ札幌に滞在しながら、ジャンプ、クロスカントリー、ノルディック・コンバインドの合計18種目の競技を取材するのである。
もっとも私は、これらの競技というものを、これまで一度も現場で見た経験がない。スキーのジャンプ台を仰ぎ見るのも、クロスカントリーのコースに近づくのも、いずれも今回が初めてである。ついでに言えば、各競技のルールもいまひとつ把握できていないし、どんな選手が有名で、どの競技にどこの国が強いのか、そういう基本的な知識や情報についても心もとない。現地に来た今でも勉強中という有様である。これがサッカーの取材だったら、取材先の基本情報だけ頭に入れておけば、あとは何とでもなるのだが……。
ご存じの方もいらっしゃると思うが、私はこの10年ずっとサッカーの取材ばかりを続けてきた。それも、ワールドカップから地域リーグまで、日本代表からフェロー諸島代表まで、メジャー/マイナーの見境なしに、である。ただサッカーというキーワードがあれば、どんなレベルの試合であっても面白がって取材できたし、それらを写真と文章で読者に伝えることにかけては、すでに自分なりのスタイルを確立しているという密やかな自負もある。そうやって、私はずっとサッカーばかりを追いかけてきた。
ちっとも盛り上がらない開催地
自分のこれまでの方法論が通じないジャンルに、あえてチャレンジしてみる。もちろん、そのために不安になったり、困ったり、恥ずかしい思いをしたりすることもあるだろう。だが、そうした本来若者だけに許される“特権”を追体験することは、いささかマンネリ気味になっていた自分の仕事に、新たな息吹を与えることになるかもしれない――。
そんなわけで、しばしの間サッカーには距離を置いて、ここ札幌からノルディック世界選手権の模様を、自分なりの視点、自分なりの言葉で日々お伝えしていこうと思う。もっともスキーに関しては本当に門外漢ゆえ、時にスキーファンをあきれさせるような感想を吐くかもしれない。とりあえずは知ったかぶりなどせず、純粋に感動したことや、ふと疑問に思ったこと、そして何よりスキー競技が持つ特有の魅力(それがどのようなものなのか、今はまだ具体的なイメージが沸かないのだが)といったものを、できるだけストレートな気持ちで表現することを心掛けるつもりだ。今後2週間、最後までお付き合いいただければ幸いである。
……と、ここまで書いて、早くも最初の不安が。
冒頭に書いたとおり、大会開幕まで24時間を切ったというのに、いまだに札幌の街からは世界大会を迎えるという高揚感がまるで伝わってこないのだ。タクシードライバーに聞いても「ああ、あるみたいですね」。飲み屋のおねえさんに聞いても「何ですか、それ」。ことあるごとに地元の人々に大会の話題を振るのだが、その反応は妙に鈍かったり、冷淡だったりする。そういえば今日の午前の会見でも、チケットの売れ行きについて質問された組織委員会の会長が「開幕式は満員になると確信している。他の競技については努力中」と語っていたっけ。
かくして一抹の不安を抱いたまま、明日、世界のスキーファンが待ち望んだ祭典が厳かに幕を開ける。
<翌日に続く>
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