テニス選手にとって五輪は、重要な大会ではない!? 

内田暁

杉山愛、五輪がプレーを続けるモチベーションに

杉山愛にとって、4度目となる五輪。“愛弟子”森田あゆみとのペアで、メダル獲得を目指す 【Photo:アフロ】

 今回が4回目の五輪となるベテランの杉山愛は、「オリンピックが良いタイミングで、テニスを続けるモチベーションになってくれた」と、今大会の意義を口にした。前回のアテネ五輪では非常に良いプレーをしながらも、シングルスでベスト8、浅越しのぶと組んだダブルスでは4位と、惜しくもメダルを逃してきた。杉山本人も「とても楽しくプレーできた大会」と振り返ると共に、「あと一歩のところでメダルを逃し、とても悔しい大会でもあった」と述懐する。そして、そのアテネの時点では、「まさか自分が次の大会に出るとは想像してませんでした」(公式HPより)とも言っている。
 
 今年のウィンブルドンで、史上最多となるグランドスラム57大会連続出場という記録を樹立した杉山だが、ここ数年間は、いかにモチベーションを上げていくか、自分の気持ちとの戦いだった。特に昨年の夏ごろは、「自分のテニスが解らない」「何がテニスを続けるモチベーションなのだろう……」と困惑の色を隠そうとしないほどに苦悩したが、その後、テニスの調子が上向いてくるのに伴い気力も回復。そして同時に、「連続出場の記録樹立」と「北京五輪出場」という目標が、プレーを続ける決意を後押ししてくれたのだった。

 その、テニスを続ける上での目標の一つであった「連続出場記録」を達成した杉山だが、そのことによりモチベーションが下がるどころか、むしろ「リセットがかかり、また新たな気持ちでテニスに向き合えている」と、前向きな姿勢になれていると言う。そして、「新たな気持ち」で挑む今回の五輪において、杉山にはもう一つ、この大会を心待ちにする理由がある。それが、五輪でダブルスを組む、森田あゆみの存在だ。

錦織と共に飛躍を期する森田あゆみ

 現在若干18歳ながら、既に四大大会やフェドカップなど多くの国際大会を経験している森田は、「杉山愛ジュニア育成基金」の支援を受けて育った選手であり、現在も杉山が設立したテニスアカデミーに所属する。世界で活躍する杉山の姿を幼いころから間近で見てきたためか、世界を転戦するツアー生活にも「いろんな場所に行けて楽しい」と物怖じせず、これまで多くの日本人選手が悩まされてきた文化や食事の差異にも、「自分は何でも食べられるので、問題ない」と、実に頼もしい。その森田は五輪を、「スポーツをしている人なら、誰もがあこがれる大会。その舞台に立てることをうれしく思う」と心待ちにすると同時に、「尊敬する杉山さんにダブルスのパートナーに選んでもらえて、とても光栄です」と、自身の師ともいえる存在との競演に身を引き締める。
また、同じ18歳の錦織の活躍に触れ、「同世代の日本人選手の活躍は、とても刺激になる。将来、二人でテニス界のトップで活躍したい」と力強く語るが、今回の五輪こそが、その嚆矢(こうし)になる可能性は決して低くないだろう。


 三者三様、異なる位置付けで五輪をとらえ、異なる立場で五輪に挑む、日本のテニス選手たち。だがそれでも一つ、三人に共通して言えることがある。それは三人ともが、それぞれ自身のキャリアにおいて一つの大きな転機となるタイミングで、今回の五輪出場を迎える――ということだ。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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