日本バレー界、今後の課題とは=ヨーコゼッターランドの解説コラム
全日本女子は全体の3位で五輪出場決定。しかし思わぬ事態に涙をのんだチームも…… 【坂本清】
五輪逃すも期待の4カ国
五輪切符は逃したタイだが、その可能性を見せ付けた 【坂本清】
タイは全員が若く、それでいながら熟練した技術を持っている。正セッターのヌットサラは安定感と大胆さを持ち合わせたトスワークができる。五輪のような大舞台で国際経験を積めば、間違いなく試合巧者になれるチーム候補の筆頭に挙げられる。
ドミニカとプエルトリコはセッターが安定すれば見違えるようなチームになる。つなぎに粘りが出たドミニカはそれが継続できれば北中米ゾーンの中でもっとユニークな存在になれる。タイプとしてはキューバに似ているようにも思えるが、異なるカリビアンバレーをつくり出せる期待感がある。プエルトリコは同じ北中米ゾーンだが、タイプとしてはブラジルのようなリズミカルなバレーができるだろうというイメージがわいてくる。両チームともに「セッター」が重要な鍵となる。
韓国はその素材の良さに目を見張るものがあるが、現在のところは「仏をつくって魂を入れず」のようなチーム状態だ。かつてあったような泥くさい、技術もさることながら根性がゲームを支配するバレーは対戦した私自身も「敵ながらアッパレ」と何度も感じさせられたことがある。たとえ負けてもある種の充実感さえあったぐらいだ。「心・体・技」の順に磨きがかかれば、アジアの中でも世界トップの中国にとって脅威となりうるチームだ。期待感にファンの胸が膨らむような姿を1日も早く見せてほしい。
■カザフスタン、どんでん返しで五輪切符獲得
五輪出場を決めたものの、前出の4チームに続く5番目に位置付けるのがカザフスタン。国としてスポーツがこれから発展していく環境になりつつあるところだろう。日本のレスリング関係者から聞いた話によると、スポーツ省がありスポーツ大臣が振興に尽力しているという。バレーもやがて態勢がより整ってくれば、ジュニア層からの強化にも力を入れてくるだろう。国ができて10年少々。今後の10年でカザフスタンのスポーツがどう変化していくか、見続けると面白いかもしれない。そのことを考えると当初、絶望視された五輪出場がかなったことは大きなきっかけとなりうるだろう。
北京五輪ではもしかするとメンバーを入れ替え、若手を増やしてくる可能性もある。次世代につなげる構成で臨み、かつ小さくも台風の目となることも考えられるだろう。
1位通過のポーランド セッター2人の成長に期待
日本に土をつけたセルビア。今後の戦いにも自信をのぞかせた 【坂本清】
■世界バレー3位のセルビア、五輪メダルに絡むか!?
セルビアは初の五輪出場がかなった。2戦を残して出場を決めたセルビアは、五輪出場を決めた翌日のポーランド戦でスタメンの多くを入れ替える采配(さいはい)を見せた。結果としてフルセットでポーランドに敗れ2位となったが、五輪を視野に入れての戦いをすぐに見せ、負けの中にも意図をはっきりと読み取ることができた。だてに短期間でヨーロッパの強豪となり、2006年の世界選手権で3位となったわけではないと感じさせる動きだった。最終の日本戦では単調な攻撃とサーブミスの連発でフルセットと大苦戦したが、試合後の会見でテルジッチ監督は「今日は日本のバレースタイルにアジャストするのに2セットかかったが、次回は1セットだけかもしれないね」と語った。今のところアジアの国との対戦が少ないセルビアだが、今後慣れてくればもっと楽に勝てるとの自信をうかがわせる一言だ。サーブレシーブが安定し、セッターのオグニェノビッチがもう少していねいなトスを上げ、センターを多く使う展開ができれば、北京でもメダル争いに食い込めるチームであることはここ1〜2年の大会で実証済みだ。
女子バレーは現在のところヨーロッパに好チームが集中している。オランダなどが最終予選にまわってくることがあったら全体の順位も変わっていたかもしれない。ヨーロッパの枠や、世界ランキングについても再考する時期かもしれない。
日本、2大会連続の五輪出場へ
主将として、司令塔として、日本を引っ張った竹下 【坂本清】
今大会に向けて技術的な面ではバックアタックの打つテンポを上げるべく練習をし、センターラインも竹下佳江が「縦のBクイック」を使おうとする場面も以前より多く見られるようになった。これらのことを「日本の進化」としてとらえることもできるが、「世界のスタンダードに近づくことをようやく始めた」との見方もある。
選手たちと話をしていると彼女たちは勝つためにより厳しい環境を求めているのではないかと感じられることが多々ある。それは五輪出場を決めた後の記者会見でも伝わってきた。技術的なこともさることながら、今の日本チームが一番進歩したのはこの点ではないだろうか。
たくさんの声援を受けることは大いに励みになる。しかし選手にとって一番うれしいのは難しい条件を戦い抜いて目標が達成できた瞬間であって、その充実感と得られた自信は何人も与えることはできない。自分でつかみとったからこそ、至上の喜びとなるのである。全日本にとって一番の応援となるのは、厳しい旅路に送り出してあげることではないだろうか。この北京が大きな転換となることを切に願っている。
<了>
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