日本バレー界、今後の課題とは=ヨーコゼッターランドの解説コラム

ヨーコゼッターランド

全日本女子は全体の3位で五輪出場決定。しかし思わぬ事態に涙をのんだチームも…… 【坂本清】

 5月25日、バレーボール五輪最終予選兼アジア予選が終了。これで女子は北京に出場する全12チームが出そろった。今大会での全体最終ランキングは1位ポーランド、2位セルビア、3位日本。いずれも6勝1敗となったがセット率、得点率でこのような順位となり、五輪出場権を獲得した。4位に4勝3敗でドミニカ共和国(以下ドミニカ)が入ったが、大会規定で出場権を逃した。日本が全体の3位以内に入ったため、アジア代表としてカザフスタンが出場することとなったが、カザフスタンはなんと2勝しか挙げられていない。ちなみにドミニカはカザフスタンに3−0のストレート勝ちをしている。2大会連続出場を狙っていたドミニカとしてはたまったもんじゃないというのが本音だろう。アジア大陸予選と五輪最終予選を完全に分けた形で開催していれば、最終枠3位のチームとして五輪に出場することができたのだから……。これが大会の形式だと言われればそれまでだが、今大会出場を逃した中ではもっとも惜しいチームだと言えるだろう。

五輪逃すも期待の4カ国

五輪切符は逃したタイだが、その可能性を見せ付けた 【坂本清】

 まず始めに、出場はかなわなかったが、この先の楽しみも含めて北京五輪で見てみたいチームを順に挙げるとすれば、タイ、ドミニカ、プエルトリコ、韓国の順だろうか。

 タイは全員が若く、それでいながら熟練した技術を持っている。正セッターのヌットサラは安定感と大胆さを持ち合わせたトスワークができる。五輪のような大舞台で国際経験を積めば、間違いなく試合巧者になれるチーム候補の筆頭に挙げられる。

 ドミニカとプエルトリコはセッターが安定すれば見違えるようなチームになる。つなぎに粘りが出たドミニカはそれが継続できれば北中米ゾーンの中でもっとユニークな存在になれる。タイプとしてはキューバに似ているようにも思えるが、異なるカリビアンバレーをつくり出せる期待感がある。プエルトリコは同じ北中米ゾーンだが、タイプとしてはブラジルのようなリズミカルなバレーができるだろうというイメージがわいてくる。両チームともに「セッター」が重要な鍵となる。

 韓国はその素材の良さに目を見張るものがあるが、現在のところは「仏をつくって魂を入れず」のようなチーム状態だ。かつてあったような泥くさい、技術もさることながら根性がゲームを支配するバレーは対戦した私自身も「敵ながらアッパレ」と何度も感じさせられたことがある。たとえ負けてもある種の充実感さえあったぐらいだ。「心・体・技」の順に磨きがかかれば、アジアの中でも世界トップの中国にとって脅威となりうるチームだ。期待感にファンの胸が膨らむような姿を1日も早く見せてほしい。

■カザフスタン、どんでん返しで五輪切符獲得

 五輪出場を決めたものの、前出の4チームに続く5番目に位置付けるのがカザフスタン。国としてスポーツがこれから発展していく環境になりつつあるところだろう。日本のレスリング関係者から聞いた話によると、スポーツ省がありスポーツ大臣が振興に尽力しているという。バレーもやがて態勢がより整ってくれば、ジュニア層からの強化にも力を入れてくるだろう。国ができて10年少々。今後の10年でカザフスタンのスポーツがどう変化していくか、見続けると面白いかもしれない。そのことを考えると当初、絶望視された五輪出場がかなったことは大きなきっかけとなりうるだろう。
 北京五輪ではもしかするとメンバーを入れ替え、若手を増やしてくる可能性もある。次世代につなげる構成で臨み、かつ小さくも台風の目となることも考えられるだろう。

1位通過のポーランド セッター2人の成長に期待

日本に土をつけたセルビア。今後の戦いにも自信をのぞかせた 【坂本清】

 さて、1位となったポーランドは日本に喫した1敗を守り、日を追うごとに調子を取り戻していった。エースのグリンカは、大会を通して5割のスパイク決定率を残し、スコブロニスカも大会前半と比べると動きが良くなった。攻撃陣が充実しているだけにセッター2人の出来、不出来によってチーム状態が変わることが気になる。五輪まであと2カ月。ボニッタ監督がどこまでセッターを鍛え上げることができるか注目したい。

■世界バレー3位のセルビア、五輪メダルに絡むか!?

 セルビアは初の五輪出場がかなった。2戦を残して出場を決めたセルビアは、五輪出場を決めた翌日のポーランド戦でスタメンの多くを入れ替える采配(さいはい)を見せた。結果としてフルセットでポーランドに敗れ2位となったが、五輪を視野に入れての戦いをすぐに見せ、負けの中にも意図をはっきりと読み取ることができた。だてに短期間でヨーロッパの強豪となり、2006年の世界選手権で3位となったわけではないと感じさせる動きだった。最終の日本戦では単調な攻撃とサーブミスの連発でフルセットと大苦戦したが、試合後の会見でテルジッチ監督は「今日は日本のバレースタイルにアジャストするのに2セットかかったが、次回は1セットだけかもしれないね」と語った。今のところアジアの国との対戦が少ないセルビアだが、今後慣れてくればもっと楽に勝てるとの自信をうかがわせる一言だ。サーブレシーブが安定し、セッターのオグニェノビッチがもう少していねいなトスを上げ、センターを多く使う展開ができれば、北京でもメダル争いに食い込めるチームであることはここ1〜2年の大会で実証済みだ。
 女子バレーは現在のところヨーロッパに好チームが集中している。オランダなどが最終予選にまわってくることがあったら全体の順位も変わっていたかもしれない。ヨーロッパの枠や、世界ランキングについても再考する時期かもしれない。

日本、2大会連続の五輪出場へ

主将として、司令塔として、日本を引っ張った竹下 【坂本清】

 最後に2大会連続出場を決めた日本。何はともあれ、まずは五輪に出場できるようになったことは喜ばしい限りだ。選手は自ら環境を作り出すこともできるが、大抵は与えられた環境の中で最善を尽くすしかないことの方が多い。
 今大会に向けて技術的な面ではバックアタックの打つテンポを上げるべく練習をし、センターラインも竹下佳江が「縦のBクイック」を使おうとする場面も以前より多く見られるようになった。これらのことを「日本の進化」としてとらえることもできるが、「世界のスタンダードに近づくことをようやく始めた」との見方もある。
 選手たちと話をしていると彼女たちは勝つためにより厳しい環境を求めているのではないかと感じられることが多々ある。それは五輪出場を決めた後の記者会見でも伝わってきた。技術的なこともさることながら、今の日本チームが一番進歩したのはこの点ではないだろうか。
 たくさんの声援を受けることは大いに励みになる。しかし選手にとって一番うれしいのは難しい条件を戦い抜いて目標が達成できた瞬間であって、その充実感と得られた自信は何人も与えることはできない。自分でつかみとったからこそ、至上の喜びとなるのである。全日本にとって一番の応援となるのは、厳しい旅路に送り出してあげることではないだろうか。この北京が大きな転換となることを切に願っている。

<了>
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著者プロフィール

1969年、米国(サンフランシスコ)生まれ。6歳から日本で育ち、12歳で本格的にバレーボールを始める。早稲田大学卒業後に単身渡米し、米国ナショナルチームのトライアウトに合格。USA代表として1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得し、1996年アトランタ五輪にも出場した。現在はスポーツキャスターとして、各種メディアへ出演するほか、後進の指導、講演、執筆など幅広く活動している。

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