五輪切符をつかむために必要なこと=バレー女子見どころ

ヨーコゼッターランド

全日本女子チーム、五輪切符獲得なるか!? 【(C)坂本清】

  バレーボールの北京五輪世界最終予選兼アジア予選女子大会が17〜25日、東京体育館で行われる。全8チームが出場する同大会では、アジア最上位チームか、アジア最上位チームを除いた上位3チームに五輪出場権が与えられる。
 スポーツナビでは、1992年バルセロナ五輪銅メダリスト(米国代表として出場)、ヨーコゼッターランドさんに、全日本女子の勝利のポイント、今大会の見どころを挙げてもらった。

竹下の負担軽減、センター線からの得点がポイントに

 4年の歳月は実に短く、駆け足で過ぎていくものだとあらためて思う。
 2004年アテネ五輪へは、アジア予選兼世界最終予選で韓国を破り、アジア代表として出場を決めた。キャプテンを務めた吉原知子を中心にまとまりが見られ、試合内容を見ていて実に気持ち良い勝ち方であった。
 あれから4年。北京五輪出場に向けて最後のチャンスとなる大会開催まであとわずかとなった。キャプテンでセッターの竹下佳江が前回出場の経験をもとに、どのように戦いをリードしていくか期待したい。

 今大会は五輪経験者がチームのほとんどを占めている。その分、セッターである竹下が抱える「リーダーシップを取る負担」を、ほかの選手が軽減させてあげること。そしてトスワークで何倍ものリーダーシップを発揮できるよう、集中させてあげることも大切な要素だ。
 また、センター線にはセット平均1.5本〜1.8本、欲を言えば2本のブロックを求めたい。25点中、センター2人で4点である。流れない、振られてもしつこくついて行き、ワンタッチを取るブロックも必要である。攻撃陣はラリー中の波状攻撃とその攻めの手を緩めないことだろう。ラリーを制することはチームがよりリズムに乗り、精神的にも相手より2〜3点は優位に立てるからだ。

「隠れたセッター」にも注目

 メンバーはファンの皆さんもご存じの通り。控えのセッターには、昨年のワールドカップメンバーにも選ばれた河合由貴。大会の流れによってはワールドカップ以上に出場機会が増える可能性もある。センター陣はスタメンが固い杉山祥子と荒木絵里香。攻撃もさることながらブロックで強烈な印象を残してほしい。加えてベテランの多治見麻子と大村加奈子。4人のフル稼働を望みたい。レフト、ライトと機動力がカギになる栗原恵、木村沙織、高橋みゆき、そして新加入の狩野美雪。セッター対角には狩野。そして事前合宿でのスタメンを見ると、レフト対角は栗原−木村のラインが固い。高橋がユーティリティーの役割を担うことになりそうだが、その働きを十分にできればチームにとってプラスになることも多いはずだ。

 そして守備では桜井由香、リベロの佐野優子。二人には「守備で点を取れた」と言わしめるぐらい、できれば玄人好みのボールさばきを見せてほしい。レシーブが乱れて竹下がトスを上げられないときにも、「隠れたセッター」としてアタックラインより後ろのゾーンで栗原らにバックアタックのトスを意識的に上げるところを、ぜひとも見せてもらいたい。

 今大会に臨む全日本に対しキーワードをあげるとしたら、「確実な意外性」をゲーム展開のあちこちにちりばめることだろう。これは五輪出場だけでなく、五輪での戦いを視野に入れてのキーワードである。

ポーランド戦、時差ボケは期待薄!?

 さて初戦は5月17日、18時からのポーランド戦だ。日本とポーランドとの07年の対戦成績は1勝1敗だが、内容は苦しかった。ワールドグランプリでは1−3で日本が黒星、ワールドカップでは3−2で辛勝だった。ただしポーランドも、エースのグリンカを起用したことがワールドカップの日本戦では裏目に出ていた。

 日本は開催国の権利として、2試合分の対戦カードと日程を指定することができる。今大会では、第1戦のポーランドと、第5戦の韓国を指定した。このところ「時差ボケ」も期待して、第1戦を試合指定日に持ってくることが多いようだが、最終予選に臨む外国勢はしたたかだ。日本にとっては何が何でも勝つことが絶対条件のポーランド戦も、中心選手のスコブロニスカ、そしてリクトラスなどを含めたセンターラインへの対策を十分に立てて戦うことが大切だ。

アジア予選を勝ち抜くために

杉山(右)のアタックもさく裂!ワールドカップ2007ではライバル韓国に完勝した 【(C)坂本清】

 アジア予選で勝つか、最終予選の3チームに入るか……。アジア予選の第1関門は20日のカザフスタン戦だ。新興国だが、その中身は旧ソ連の流れをくむ。05年アジア選手権で日本が苦杯をなめさせられたことを考えると、油断は禁物だ。エースのパブロワに注目が集まりがちだが、昨年のグランプリではルイコワやカルボワなどが鋭い速攻を打つ場面もしばしば見られた。今大会では、粗削りな部分がなくなり、粘りが出てくることが予想される。アジアの中で未知数値が高いゆえ、ストレートで下したいところだ。

 第2関門の韓国戦は休み明けの23日、日本にとって5戦目の相手となる。韓国は良い素材がそろいながら、けがの情報が絶えない。休養日明けが、どちらのチームに有利に働くか。ここ2〜3年の戦いぶりを見ると、韓国も星勘定ができるほど余裕があるとは思えない。「アジア枠で出られなければ、最終予選枠の3チームでも」という考えは、韓国にとってリスクが高すぎるだろう。
 韓国は、バックアタックの高さと速さに磨きがかかり、多用してきている。またかつて得意としたコンビネーションでもあるダブルBの攻撃が復活しつつある。高さのあるエース、キム・ヨンギョンが打てば、決定率もかなりのものになる。日本のブロック陣にとっては要注意だ。
 韓国は意外なようだが、精神的なスタミナ切れを起こさなければ、アテネに続く五輪出場にぐんと近づける位置にある。ゆえに一戦一戦必死になって臨むことは間違いない。日本も粘りのハートで必ず上回ってほしい。

北京五輪を見据えた戦い方とは?

 24日のタイも侮れないチームだが、アジア出場国4チーム(日本、韓国、タイ、カザフスタン)で大きな番狂わせがない限り、日本はタイ戦前のカザフスタン戦、韓国戦に勝った時点で、五輪出場をほぼ手中にできる。

 仮定の話をするのはあまり好ましくないが、仮に韓国戦に勝ったと想定して、その後を考えてみよう。タイ戦に勝利することを大前提とした上で、最終日にセルビア戦がある。4年前の最終予選では、アテネ出場を決めた韓国戦の2試合後にロシアと対戦し、完敗。当時、唯一の五輪経験者だったキャプテン吉原は、韓国戦の直後に「最終日にロシアに勝たなければ意味がない」とインタビューではっきり言い切っていた。五輪では何が待ち受けているかを知る者だけが言える言葉だ。あの時、ロシアに完敗した戦いはそのままアテネでの日本の戦い(※注)を予想させるものだったと思う。チームを強いリーダーシップで引っ張った吉原も、そのことが頭の中をよぎったと確信している。今大会の最終対戦相手であるセルビアをあの時のロシアに見立てれば、必ず勝利したいところだ。

 最後に伝えたいことは、今大会も星を数えないこと。五輪で世界を相手に戦うことが念頭にあれば、「全勝」以外の条件はないと考えよう。それは選手たちが一番よく分かっているはずだ。そんな全日本の姿を心待ちにしている。

<了>

(※注)最終順位=5位タイ/予選リーグ2勝3敗、決勝トーナメント1回戦(ベスト8)敗退

■全日本女子試合日程
5月17日(土) ポーランド戦
5月18日(日) プエルトリコ戦
5月20日(火) カザフスタン戦
5月21日(水) ドミニカ共和国戦
5月23日(金) 韓国戦
5月24日(土) タイ戦
5月25日(日) セルビア戦
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著者プロフィール

1969年、米国(サンフランシスコ)生まれ。6歳から日本で育ち、12歳で本格的にバレーボールを始める。早稲田大学卒業後に単身渡米し、米国ナショナルチームのトライアウトに合格。USA代表として1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得し、1996年アトランタ五輪にも出場した。現在はスポーツキャスターとして、各種メディアへ出演するほか、後進の指導、講演、執筆など幅広く活動している。

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