福島千里、よぎる不安を乗り越えて 日本新で完全復活、いざ3度目の五輪へ

平野貴也

笑顔はじけた6年ぶりの日本新

日本選手権200メートル6連覇を日本新で飾った福島。久しぶりの“千里スマイル”が弾けた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 最速の女王が日本新記録で不安を一掃し、リオ五輪に弾みをつけた。リオデジャネイロ五輪の代表選考を兼ねた第100回日本陸上競技選手権は26日に最終の第3日を行い、女子200メートル決勝は福島千里(北海道ハイテクAC)が22秒88の日本新記録で6年連続7回目の優勝を飾った。

 スタートからゴールまで、会場のどよめきは福島の走りとともに大きくなる。1.8メートルの追い風に乗ってゴールを駆け抜けた福島は、すでに笑顔だった。日本新記録の誕生を場内アナウンスが告げると、その笑顔がさらに弾けた。

 自身が2010年に記録した22秒89を6年ぶりに更新。福島は「自己ベストが出せなかった時期は『自己ベストにはこだわっていない、それ以上を目指している』とか強がっていた部分もあった。でも、今日は0.01秒(の更新)でもすごくうれしいと思える。うれしいなと久しぶりに心から思える。『よし、またここから!』と弾みにして、次にスッキリと向かえる良いきっかけになったと思う」とレースを振り返った。

 前日の女子100メートル決勝でも7連覇を達成。両種目で元日本記録保持者の新井初佳の連覇記録に並ぶ活躍を見せ、3大会連続の五輪代表に内定した。今季の国内戦は棄権が続いていたために状態が心配されていたが、日本新記録で進化を証明。完全復活をアピールした。

自信と喜びを持って3度目の五輪へ

 100メートルと200メートルの両種目で日本記録を持つ福島は、日本女子スプリント界のエース。3度目の五輪で初の予選突破を目指す上で、可能性を広げるために自己記録の更新を常に狙って来た。しかし、結局、記録は更新されないままだった。加えて、充実ぶりが伝えられていた今季は、初戦となった4月の織田記念で右ふくらはぎのけいれんを起こして、決勝を棄権。5月の静岡国際も左太もも裏の違和感で棄権し、続くゴールデングランプリ川崎も同じ理由で欠場した。ステップレースを思うように消化できず、不安を抱える五輪イヤーのスタートとなった。

 調子自体が悪いわけではなく、6月に入ってからは欧州遠征を敢行。5日にポーランド、14日にスイスと好タイムで走って復調してきたが、心に1点の曇りもないわけではなかった。今大会の2日目に100メートル決勝を制したが、得意のロケットスタートは不発でタイムも11秒45と平凡。福島は「見事と言ってもらうには恥ずかしい部分がある。スタートはまずまずとも言えないくらいに遅かった」と苦笑いを浮かべた。やはり、走り切れれば日本では最速。しかし自己記録は更新できておらず、世界と戦う上で、どの程度の復調段階なのか気がかりとなっていた。

自らの走りで不安や焦りを払しょく。3度目となる五輪に向けて、弾みのつくレースとなった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 この大会に向けても、自信と不安は交錯していた。開幕前日には「(春先に予定していた)試合に出られなかったからと言って、冬季練習の全てを失ったわけではないし、この試合に向けて長い準備ができたと思って臨みたい。大丈夫かなと思うこともあったけど、自分自身の体や練習を(不安の大きさと)同じくらい(強く)信頼してきた」と不安解消を強調したが、100メートル決勝後には「けいれんを起こしたレースで自分がどんなことを考えていたのかを思い出すと(思い当たるところがある)。ただ、シンプルに走るだけ。不安は無かったと言っていても、隠し切れていないかもしれないし、ウソになるかもしれない。でも(今回はけいれんが)出なかったからよしとします」と不安や焦りとの戦いが続いていることを吐露する場面もあった。

 しかし、今季3レースで悪い所が無いという200メートルが突破口となった。スイスでは23秒13の好タイム。今大会の予選をステップに、自信を持って臨んだ決勝で、ついに殻を破った。「正直、(記録を)出そう、出ると思って走ったので、驚きは無い。22秒5とか6とかを狙っていた」と自分を信じた結果が、6年ぶりの日本記録更新につながった。

 リオを目前にして、ようやく長いトンネルの先に出た。自信と喜びに満ちた福島は、勢いに乗って3度目の五輪に挑む。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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