歴史に残る3つの「泣ける演技」 写真で切り取るフィギュアの記憶

長谷川仁美
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 選手の数だけそれぞれの物語がある。笑顔、涙、怒り……こうした表情とともにこれまで多くの名場面が生まれてきた。後世まで脳裏に刻んでおきたいフィギュアスケートの記憶を写真で切り取る。今回は長年にわたり同競技を取材するライターの長谷川仁美さんに、涙なしでは見られない「泣ける演技」を3つ選んでもらった。

「伊藤みどり アルベールビル五輪女子FS(1992年)」

【Getty Images】

 優勝候補のみどりさんは、オリジナルプログラム(現在のSP)のジャンプでミスをして、まさかの4位スタートとなりました。

 2日後のFS。冒頭のジャンプは、3回転ルッツ+3回転トウループの予定でしたが、最初のジャンプが2回転ルッツになり、トリプルアクセルでは転倒してしまいます。素早く立ち上がって演技を続け、その後のジャンプはきれいに決めていきましたが、彼女らしい元気いっぱいのはつらつとした演技とは言いがたい時間が続きました。

 そして、その時が来ます。

 終盤に向けて音楽が盛り上がっていくところ。十分な助走を取ったみどりさんは、トリプルアクセルの軌道に入りました。女子選手では世界で自分にしかできない、特別なジャンプに挑む助走です。

 プログラム後半でスタミナも十分ではありません。しかも数分前に、トリプルアクセルで転倒しています。ここで再び転倒したら、メダルが永遠に手の届かないところに行ってしまうという状況です。

 力強く踏み切ったトリプルアクセルを、みどりさんはきれいに着氷します。笑顔がはじけ、そこからは演技最終盤とは思えないほど元気いっぱいに滑り抜けました。

 銀メダリストになったこと以上に、自分しか跳べないトリプルアクセルを五輪の舞台で跳びたいという思いから逃げず、挑み、成功させたこの演技は、24年経った今もなお、私の胸を熱くさせます。

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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