歴史に残る3つの「泣ける演技」 写真で切り取るフィギュアの記憶
「伊藤みどり アルベールビル五輪女子FS(1992年)」
【Getty Images】
2日後のFS。冒頭のジャンプは、3回転ルッツ+3回転トウループの予定でしたが、最初のジャンプが2回転ルッツになり、トリプルアクセルでは転倒してしまいます。素早く立ち上がって演技を続け、その後のジャンプはきれいに決めていきましたが、彼女らしい元気いっぱいのはつらつとした演技とは言いがたい時間が続きました。
そして、その時が来ます。
終盤に向けて音楽が盛り上がっていくところ。十分な助走を取ったみどりさんは、トリプルアクセルの軌道に入りました。女子選手では世界で自分にしかできない、特別なジャンプに挑む助走です。
プログラム後半でスタミナも十分ではありません。しかも数分前に、トリプルアクセルで転倒しています。ここで再び転倒したら、メダルが永遠に手の届かないところに行ってしまうという状況です。
力強く踏み切ったトリプルアクセルを、みどりさんはきれいに着氷します。笑顔がはじけ、そこからは演技最終盤とは思えないほど元気いっぱいに滑り抜けました。
銀メダリストになったこと以上に、自分しか跳べないトリプルアクセルを五輪の舞台で跳びたいという思いから逃げず、挑み、成功させたこの演技は、24年経った今もなお、私の胸を熱くさせます。