男子バレーは数学の発想で楽しむべし 山本隆弘が語るバレーW杯の観戦ポイント

田中夕子

女子に続き、W杯男子大会が8日に開幕する。元全日本代表の山本隆弘さんにポイントを解説してもらった 【スポーツナビ】

 女子大会に続いて8日に開幕するワールドカップ(W杯)男子大会。世界の強豪がひしめく中、2008年の北京大会以来となる五輪出場を目指す全日本男子。若手も台頭し、新たなメンバーも多数加わった新生全日本の見どころや、観戦のポイントは何か。03年のW杯ではベストスコアラーに輝いた元全日本代表の山本隆弘さんに語ってもらった。

確率に基づいて対応を決める

 近年の男子バレーは数学の発想です。相手の攻撃を分析する際、このローテーションでは誰が攻撃することが多いのか。その数字を確率で示し、その確率に基づいてブロッカーが跳ぶ位置や締めるコース、レシーバーの配置を考えています。

 なぜそうなるのか。男子バレーの世界トップクラスの選手が放つジャンプサーブはMAXで時速130キロ、スパイクならば時速150キロというスピードです。極端に言えば、まばたきをしている間に気づいたらボールが飛んでくる。打たれてから動いては間に合わないということも多々あります。とはいえ、「スピードが速いので届きませんでした」では、相手の攻撃をつなげることはできません。相手のスパイクをレシーブするために、まずはコースに「移動する」のではなく、レシーブコースを前もって予想してそのコースに「いる」ことが大切だからです。

 攻撃については、どのチームも前衛3枚+バックアタックの4カ所から展開することをベースとしています。もちろんブロッカーが少なければそれだけ打つコースや幅も広がるので、セッターはトスを4カ所に分散させたい。理想は全部のポジションから均等に、割合で示すならば25パーセントずつの比重で攻撃を展開することです。

Aパスが返れば日本も攻撃力はある

Aパスをセッターに返すことができるかが重要な要素となる 【坂本清】

 ただしチームによっては、10回の攻撃のうち6〜7本はその選手にトスが上がると言っても過言ではない、大エースとも言うべき攻撃の柱が存在することもあります。そういったチームは大エースが75パーセント、他の選手が25パーセントというように、トスの比重も大幅に偏ります。スパイク決定数や、打数だけを見れば「1人の選手に打たれて嫌だな」と感じるかもしれませんが、実はそうでもない。「ここから攻撃が来る」という確率が高ければ高いほど、対策は立てやすくなるのでさほど困難には感じません。

 むしろ嫌なのは前述のように、4カ所から均等に攻撃されてしまうことです。そうなってしまうと手のつけようがない。そうさせないためには、まずはどこか1カ所に攻撃が偏る状況をつくること。そのために、カギとなるのはサーブとサーブレシーブです。

 相手のサーブを受けてからの攻撃、サイドアウトだけで考えればセッターが動かずにAパス(セッターが動かずにセットできる位置への返球)が返れば、日本も世界に引けは取らない。それだけの攻撃力は十分に備えています。

 見ている方からすれば、男子はサーブで崩されてしまってつまらないと感じるかもしれません。しかし、先ほどもお話したように、ジャンプサーブはサーブとはいえバックアタックと同じと言っても大げさではないぐらいの威力があります。当然どのチームもジャンプサーブだけでなく緩急をつけたサーブで揺さぶりをかけ、崩そうとしてくる。つまり、裏を返せば崩されて当たり前。むしろAパスを返すことのほうが難しいのです。

意識するのは相手ブロッカーの手や指

山本さんはスパイクをガムシャラに打つのではなく、ブロックを見極めて打つことが重要だと語る 【スポーツナビ】

 全日本男子ではAパスだけでなく、Bパス(セッターが動いてセットするがクイックが使える)、Bマイナス(セッターが動いてセットするがジャンプトスが上げられる)とパスの返球位置を区分しています。セッターがジャンプトスできるということは、ブロッカーからすれば「レフトに上がるかライトに上がるかは最後まで分からない」状況ですので、一歩、二歩移動が遅れることもあり、ブロッカーが2枚いても間が空き、抜けるコースができる可能性が広がります。それができれば、Aパスにこだわる必要はありません。

 たとえBマイナスになったとしても、その状況から攻撃を展開し、相手のブロックがそろってしまったらそれで終わりではありません。相手のブロックに対してまともに勝負するのではなく、リバウンドをもらったり、うまく当てる場所を考えてブロックアウトにするなど、いくらでも方法はあります。

 日本に限らず、今の男子バレー界では攻撃の際に意識するのは、コートの(縦幅、横幅)9メートルではなく、対峙(たいじ)する相手ブロッカーの手や指です。ただ得意なコースに打つ、ブロックを抜く、とガムシャラに打つだけではなくスパイカーはブロックに当てて外に出す打ち方を考えていますし、ブロッカーは当てられてもどう弾かれないかということを第一に考えています。

 実際に全日本男子も今シーズンの発足時から、こうしたプレーに重点的に時間を割いて取り組んできました。ワールドリーグでもチェコや韓国、フランスなどのブロックに対してうまくリバウンドをもらう場面が増え、これまでよりも相手ブロックに止められる回数は減少しています。

勝負どころに向けてどれだけ種をまけるか

勝負どころでブロックされないために、事前にどれだけ種をまけるか 【坂本清】

 とはいえまだ、前半や自チームがリードした状況では冷静にリバウンドをもらうことができても、競り合ってきた終盤になると相手ブロックを見ずに打ってしまい、ブロックに捕まるケースもあります。海外の強豪チームは試合の駆け引きがうまく、前半は(ブロックで)ストレートをわざと空け、相手に「ストレートが空いている」と思わせておいて、20点以降の勝負どころで相手がストレートに打ってきたところを狙って仕留める、ということもよくあります。

 どんなに良いブロッカーでも、緻密に計算された男子バレーでは1セットに1本ないし2本ブロックできれば合格点。実際の本数を見ればそれほど多くないはずなのに、「日本は良くブロックされる」と感じるのは、止められているのが20点以降など、終盤の勝負を決するポイントになることが多いから。その1点を取るためにどれだけ種をまけるか、というのが勝敗を分けるカギになるのです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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