羽生結弦を支える独特なメンタリティー 尽きない勝利への欲求、FSへの気づき
別の意味で注目を集めたNHK杯
アクシデントを乗り越えNHK杯の舞台に立った羽生結弦を支えるメンタリティーとは? 【坂本清】
前日のショートプログラム(SP)で2位と不本意な結果に終わった羽生は、逆転を狙い意気込んでいた。もしかするとうまくいっていない焦りもあったのかもしれない。一心不乱に自分の練習に集中していた羽生は、中国の閻涵(ハンヤン)と激突。頭部や左大腿など計5箇所を負傷した。脳震とうを疑われながら演技を行い、2位という結果を残したものの、その決断は生命に関わる危険性も指摘されるなど、議論を巻き起こした。
中国杯で負ったけがは全治2〜3週間と診断されたが、順調に回復。26日にはNHK杯の出場が正式に発表された。こうした状況で迎えた今大会は、別の意味でも注目を集めることになったのだ。
SPの最終滑走で登場した羽生は、やはりと言うべきか演技に精彩を欠いた。「構成を変えて」前半に4回転トウループを持ってきたが転倒。トリプルアクセルはきれいに着氷したものの、トリプルルッツ+トリプルトウループのコンビネーションでも手をつくというミスを犯した。結果は78.01点と自己ベストを23点も下回る5位。スピンはレベル4を獲得し、演技構成点は全体1位とさすがの実力は見せたが、負傷の影響はいかんともしがたかった。
メディア対応をしながら生まれた気づき
演技後、羽生は自身に対して厳しい言葉を並べた。しかし、それとは裏腹に取材対応が進んでいくと徐々に表情は和らいでいく。その理由を尋ねられると19歳の五輪王者は微笑みながらこう返した。
「(メディアの)皆さんとお話ししていたら、自分の課題が分かってきて、それがうれしくなったんです。ただ単に失敗して悔しいというのではなく、こうすれば良かったんだというのが見つかってきたので、すごく良い時間だったなと思っています」
多くの選手にとって、自身の望まない結果に終わったあとのメディア対応は苦痛以外の何ものでもないはずだ。しかし羽生はそれを嫌がらない。なぜなら「考えていることを言語化することで、頭の中がより整理されていくから」だ。もちろん何度も同じことを聞かれるのはきついときもあるだろうが、思いもよらぬ質問から、新たな視点が生まれることもある。
羽生がこの日、気づいたのはこんなことだった。
「僕、今回はずっと『(GP)ファイナルに行きたい、ファイナルに行きたい』って言っているんですよ。『ファイナルじゃねえよ。ここNHK杯だよ』と話していてすごく思ったんですね。ファイナルに行くためにこの試合をやる。そうじゃないんです。今は今だし、この大会はこの大会だから、この試合にもっと集中しなければいけないなと」