EASLファイナル4に見たアジアと日本バスケ成長の期待、カギは『切磋琢磨とリスペクト』
■徹底的な研究と対策、粘り強いゲームプランの遂行
2019年のFIBAワールドカップと2021年の東京オリンピックへの出場、2023年のFIBAワールドカップでの躍進と、ここ数年でバスケ男子日本代表は飛躍的な進歩を遂げた。Bリーグの隆盛、NBAにおける八村塁を始めとする日本人選手の活躍も合わせ、日本バスケはアジアで勝てなかった過去から脱却した感がある。
しかし、私がマカオで感じたのは「アジアは侮れない」だ。琉球ゴールデンキングスは準決勝で桃園パウイアンパイロッツに、3位決定戦でニュータイペイキングスに敗れたが、琉球はむしろ実力で上回り、10回対戦したら7回か8回は勝てるのではないかと感じる。それにもかかわらずチャイニーズ・タイペイの2クラブが上回ったのは、琉球をリスペクトして徹底的な研究と対策を講じ、ゲームプランを遂行したからだ。琉球オフェンスの爆発力のカギとなる岸本隆一を抑え込み、ジャック・クーリーとアレックス・カークに理不尽なまでにペイントエリアで圧倒されても粘り強く戦い続けて、大苦戦しながらも勝機を見いだした。
さらに、チャイニーズ・タイペイの2クラブにはホームコートアドバンテージがあった。中立地開催ではあれ、ホームの雰囲気は明らかに存在した。マカオは広東語、チャイニーズ・タイペイは中国語(北京語)と違いはあるものの意思疎通は容易で感情移入しやすく、政治的あるいは地理的な立ち位置からも親近感を持ちやすい。
試合序盤はそうでもなかったが、接戦となった終盤に熱気が高まるにつれて、マカオのバスケファンがチャイニーズ・タイペイのクラブを応援するようになった。特に3位決定戦の終盤、ニュータイペイキングスが琉球を猛追したクラッチタイムには、アリーナMCがマイクを使ってニュータイペイキングスへの応援を煽った。残り1分半で6点差という優位な状況から試合をコントロールできずに逆転負け。マカオの会場が作り出した『絶対的なアウェー感』が、試合巧者らしからぬ琉球の敗北に繋がってしまった。
■若さと勢いがドラゴンフライズにタイトルをもたらす
圧倒的な強さを見せたわけではない。準決勝のニュータイペイキングス戦の第4クォーターには河田チリジにケリー・ブラックシアー・ジュニアとビッグマンが相次いでファウルアウトとなり、今までに試したことのない布陣でクラッチタイムを迎えることになった。それでも三谷桂司朗がインサイドを守り、ドウェイン・エバンスがハンドラーとして点差と時間を意識した賢いプレーメークをすることで、攻勢に出ようとする相手の勢いを焦りに変えている。結果は16点差の勝利だったものの、展開としては紙一重だった。
広島が持つポジティブなチャレンジ精神は、昨シーズンのBリーグに続いてEASLでもタイトル獲得の原動力となった。朝山正悟ヘッドコーチは厳しさの中にも常に前向きな姿勢を持ち、チャレンジを肯定的に受け止めるメンタリティでチームを率いている。
昨シーズンまでヘッドコーチを務めたカイル・ミリングほどの戦術的な引き出しの多さはないかもしれないが、昨シーズンまで現役としてプレーしていたことからの選手との距離感の近さ、『Mr.ドラゴンフライズ』としてクラブのすべてを熟知している長所が若いチームと上手く噛み合い、結果に繋がった。
広島のアットホームな雰囲気も印象的だった。優勝が決まった直後の表彰式で、広島の浦伸嘉代表は応援に駆け付けたブースターをコート内に呼び寄せて、チームと一緒に記念撮影をした。その後に用意されたシャンパンファイトにも招き、選手とスタッフ、フロントとブースターが(マカオまで来たメディアまで)一緒にタイトル獲得を祝った。
■ジェレミー・リンが岸本隆一に示した『リスペクト』
かつてNBAに『リンサニティ現象』を巻き起こしたジェレミー・リンのこの姿勢は、日本のバスケファンから見てもうれしいものであり、見習うべきものだ。総じて日本人はアジアを軽視しがちで、バスケにおいても近年の日本代表の躍進で「アジアレベルは超えた」感を抱いているだろう。
現在、NBAで活躍する東アジアの選手は日本人だけだ。NBAというトップレベルの観点ではそれが事実だとしても、Bクラブが東アジアとの戦いで学べることはまだまだ多い。同じく日本代表として見ても、アメリカで活躍する選手たちが招集できないとなれば、アジアを勝ち抜くのはまだ簡単ではない。
今年8月に行われるアジアカップは、国内組中心のメンバーで戦うことになりそうだ。そこで見習うべきは今回のファイナル4に挑んだチャイニーズ・タイペイの2クラブの姿勢である。相手をリスペクトして徹底的な研究と対策を講じ、ゲームプランを粘り強く遂行した上で、ジェレミー・リンが岸本を称えたように、相手を称えるスポーツマンシップも求めたい。
もう一つ、今回のファイナル4で感じ入ったのはコート外でのことだ。2019年の『テリフィック12』はマカオで開催された。EASLの前身の大会だった『テリフィック12』は年1回の夏のイベントで、Bリーグからは4チームが参加するも揃って早期敗退を喫した。この時は大会が生まれたばかりで、各チームはただ試合を消化して帰国していっただけだったが、今回は成熟が進み、試合だけでなくビジネスや人材育成をテーマにしたカンファレンスも行われ、東アジアのバスケ界の交流が深まる場となっていた。
日本、韓国、中国、フィリピンの人口は約20億人で、EASLがこのまま発展していけば今は様子見の中国もいずれ加わることになるだろう。EASLを通じて東アジア全体のバスケのレベルはさらに高められるはず。Bリーグ、日本のバスケがアジアに進出することの意義も大いに感じられる大会だった。
執筆:鈴木健一郎
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