J2に挑む準備はできている ~2025高知キャンプリポート~
ポジティブに変化する
取材したのは高知キャンプも終盤で、この日は午後の練習のみ。ただ鍛えるだけではなく、コンディションを整えていく倉石監督の考えがうかがえる。
夕食後、通訳の柏木大地リーとインタビュー会場に姿を現したヴィニシウスは、疲れた様子もなく、落ち着いた口調で話し始めた。伝わってくるのは、確かな手ごたえと充実感だ。
「とてもいいキャンプができています。日々、成長しようと、みんなとてもがんばっていますよ。パワーを上げたり技術を高める、この時期ならではのトレーニングをモチベーション高くやれているし、チームの誰もがJ2という舞台で戦えることを待ち望んでいますよ。
倉石新監督の、昨シーズンとはまた違うアイディアを私たちはできるだけ早く吸収しなければなりません。その意味でも、ピッチ(高知県立青少年センター)や滞在先のホテル、食事もすばらしく、満足のいくキャンプになっています」
新しいアイディアとは。ヴィニシウスは、パワーアップしようとするチームの変化を前向きに捉えている。
「今年は、よりボールを保持することに取り組んでいます。去年はどちらかといえばロングボールを蹴って、前線で戦ってゴールを決める。あるいはボールを取られても、すぐ守備に切り替えて奪い返し、さらに攻める。そこに力を注いでいました。
去年のスタイルは、すでに周りのチームに知られています。しかし今は、ボールをつないだり、トライアングルを作って関係性を生かしながら前進することに取り組んでいます。ボールを自分たちの足下に持った状態でプレーする。私が今治に来てから最もポジティブに感じるサッカーです」
トライを続ける、その先に
もちろん横山夢樹や加藤潤也、新井光、山田貴文らも、このエリアで昨季、大いに奮闘し、存在感を発揮した。さらにワイドで勝負できる近藤高虎、弓場堅真、梅木怜など、攻撃陣は多彩だ。
「自分もボールを受けると、味方のボランチやミッドフィルダーを探してパスを出し、つなぎながらゴール前に迫る方が好きです。その意味でも今年はカジ(梶浦勇輝)やブラジル人のヴィニシウス・ディニスら、質の高いパスを出せるボランチが加わり、1試合の中で4回、5回とチャンスを作れるのではないかと感じます」
チャンスをしっかりと物にして、昨季以上のゴールを決める。戦いのステージがJ3からJ2に上がり、ヴィニシウスのモチベーションはさらに高まっている。
とはいえ、チームが目指すレベルに簡単に到達できるわけではない。ましてや相手はJ2のライバルたちだ。ハードルは、これまでよりも高くなる。チームが始動した当初は、倉石監督も「今までやっていない前進の仕方のトレーニングがあって、選手たちが難しそうな表情を浮かべるところもあった」と話す。
意欲的なトライ&エラーが繰り返されているのは、それを突き抜けた先に、今季のFC今治がやりたいサッカーがあるから。チーム最年長で、自身17度目のキャンプに臨む三門雄大は、「確かに難しい。だからこそ考え方の切り替えが大事」と強調する。
ハードワークが大前提
倉さん(倉石監督)は、今まで『蹴ろうよ』となっていたところで、『もう一つ、つなごうよ』『見て、判断しようよ』ということを僕たちに求めています。僕たちも、去年のやり方だけでは、正直、J2を戦うのは難しいと感じていました。
ただ、その『つなげるよね』というところを、みんなで見て、しっかり判断できるか。去年からプレーする選手には、『つなごうとして、もしボールを取られたらどうするの?』と今までのマインドを引きずる選手もいるでしょう。逆に(大森)理生やカジ、浩介といった新加入選手は、前のチームでやっていたことに近いかもしれない。
これまでなら蹴っていたところで、もう一つパスをつないで相手のプレッシャーを剝がし、逆サイドにボールを持っていけば、より多くの選手が相手ゴール前になだれ込める。ボールを動かしながら、どこでスピードアップするのか。頭を切り替えなければいけないし、判断が求められます」
キャンプ中に組まれたトレーニングゲームは、対戦相手やスコアはもちろん、試合数も含めて公表されていない。三門の「これまでの自分の経験からいえば、練習試合の前後はコンディションを考えて軽めの練習になることが多かったけれど、今年は“2部錬、2部錬、練習試合、2部錬……”というイメージ(笑)」という言葉からも、タフなキャンプの様子が伝わってくる。
それだけに、エラーも起こることを、三門は率直に受け止める。何といっても、新たなチャレンジが始まったばかりなのだ。
「どうしても今はまだノッキングを起こしたり、つなぐことに選手の意識が傾きすぎて、それが目的化してしまうときもある。だけど、やっぱりいいタイミングで浩介が背後に走りだしているのであれば、そこを狙えるか見なきゃいけない。
作り上げていく中で、『うまくいかないなあ』というのは絶対に出てきます。そういうときに、いろいろなことを経験してきた僕やフク(福森直也)の出番かな、と。『難しく考えすぎなんじゃない?』と声を掛けたり、プレーで見せていきたいです。
倉さんは、求めることを選手たちができるかどうかよりも、練習や練習試合で選手たちがやろうとしているかどうかを見ていると感じます。まずは、1人1人が全力で、一生懸命やることがキャンプでは大事です」
攻撃だけではなく、守備に関しても戦術的に落とし込んでいく作業が進む。その大前提として、倉石監督が求めるのはハードワークだ。これまでFC今治が大切にしている部分の、さらなる上積みが図られている。三門もタフなトレーニングは必要不可欠だと受け止める。
「去年、僕たちがJ3を勝ち上がる上で大事にしていたことにプラスして、しっかりハードワークしていくことになるんだろうな、というトレーニングの内容になっています。
今の時代はハードワークするのは当たり前。その上で点を取ったり、いいパスを出すことが問われる。
僕は今年、39歳になりますけど、この年齢になっても毎日、泥まみれ、芝にまみれてサッカーできるのは楽しいですよ。毎日、練習はきついんだけれど、その中で自分が持っているものを出せるかどうか、です。
今治が大事にしている1対1で負けない、相手に走り勝つところについて、倉さんはもう一段階、上げようとしています。他のチームから入ってきた選手からすると、二段階、三段階、上げていくくらい大変なことかもしれない。今治らしさのスタンダードをすり合わせて、さらにレベルアップしていくために、毎日のトレーニングでやっています」
2月16日、アシックス里山スタジアムでキックオフされる開幕戦のブラウブリッツ秋田戦まで、あとわずか。ピッチに立つチームは、2025シーズンを戦い抜く心意気を示すため、準備を着々と進めている。
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