大阪経済大学 硬式野球部監督 髙代延博氏講演会「一流が一流を語る~一流の野球人達から得た財産~」
野球人生を通じて得られた、学び・気づきを語る
[髙代延博氏プロフィール]奈良県生まれ。法政大学野球部では4年次、キャプテンを務める。卒業後、東芝の社会人野球部で選手として活躍し、1978年にはドラフト1位で日本ハムファイターズに入団。広島東洋カープに移籍後、現役引退。阪神タイガースなど国内外7球団でヘッドコーチを歴任する。第2・3回WBC日本代表の内野守備走塁コーチを務める。2023年、大阪経済大学硬式野球部監督に就任。2024年、大阪経済大学経済学部客員教授に就任した。 (著書) 「WBCに愛があった。(ゴマブックス)」 「WBC 侍ジャパンの死角(角川書店)」 「高校球児に伝えたい! プロでも間違う守備・走塁の基本(東邦出版)」 「目指せ! 侍ジャパン 夢を現実にする「走攻守」の極意(竹書房)」 【(C)OSAKA UNIVERSITY OF ECONOMICS】
レギュラーを勝ち取るために自主練習を重ねた大学時代
登壇した髙代氏はまず、自身の大学野球時代を振り返りました。奈良県吉野郡で生まれ育ち、テレビで見た法政大学の攻撃的な野球に憧れ、智弁学園高校から法政大学に進学。大学入学当初の髙代氏にはプロ野球は雲の上の存在で、卒業後は社会人野球を視野に入れていましたが、オイルショックの影響で実家の割り箸製造工場が経営難に陥って資金が必要となったことからプロ野球入りを目指すようになります。
当時の法政大学野球部はレベルが高く、185人の部員がいてショートのポジションだけで約30人。その中でレギュラーを勝ち取るため、下宿先に帰ってからも自主練習を欠かさなかったと言います。「共同洗濯場の裸電球を点けると、向かいにある駐車場のトタン屋根が照らされます。その間に立ち、映る自分の影を見ながらスイング練習をしました。スイングするバットの影の長さを見ると、最短距離でバットが振れているかどうかをチェックできます。毎日欠かさずバットを振りました」
そうした経験をしてきた髙代氏が本学硬式野球部の監督として部員たちに伝えているのは、自分自身と向き合うことの大切さ。「例えば、素振り練習をするにしても、友だちと話をしながらする素振りと一人で試合をイメージして黙々とする素振り、どちらが効果があるかは言うまでもない。ただし、意外とこれが難しい。バッターボックスに入ったら誰も助けてくれません。
本番に向かう準備は、そういった練習の姿勢から始まっていると考えています。これは、野球だけに限った話ではありません。私自身も高校の受験勉強で、公民館に行き一人で勉強したら、とても集中できたという経験があります。何かを試みる時、何かを達成したいという気持ちがある時、ぜひ一人で集中して努力してみてほしいと思います」
また、主体的に取り組むことの大切さについても強調しました。というのも、小中高校とは違い、大学では先生が懇切丁寧に教えてくれないからです。先日、大学野球大会のテレビ中継を視聴していたところ、番組内で大学野球出身者が「大学野球とは」という問いに答える企画があり、阪神タイガースの村上頌樹選手の「大学では自分で考えて取り組むことが大事だと感じました」との回答が印象に残ったといいます。「どうすれば上達するのか、なぜ失敗したのか、自分で考えて行動することの繰り返しによって成長できます」と語りました。
【高代延博著 「目指せ! 侍ジャパン 夢を現実にする「走攻守」の極意」(竹書房)】
野球の技術だけではなく、社会で通用する力を育成
監督としての野球技術の指導はもちろん、挨拶など社会に出た時にも通用する行動、心構えについても徹底して指導しているそうです。「はじめは、きちんと立ち止まって挨拶できない部員もいます。社会に出た時に、しっかりと挨拶できればそれだけでも人格を認めてもらえるでしょう。これは野球部員以外の学生たちにも同じことがいえます」
現在は体育会系クラブでも、以前のような上級生が下級生を指導する縦の関係が崩れていっていますが、「礼儀など基本的なことについては、監督やコーチ、先生が指導しなくても上級生が下級生に教えてあげてほしいと思っています。上級生から下級生へとつないでいけば、良い伝統が受け継がれていくでしょう。下級生はぜひ、見習いたいと尊敬できる先輩の真似をしてください」と、学生たちに向けてアドバイスしました。
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今も心に残る、一流の野球人たちの取り組み姿勢
金本選手が1軍の試合に出始めた頃、試合で相手が左ピッチャーの時にバッターボックスに立ち、インコースのボールに対して腰が引けてしまい、次の打席でピンチヒッターが送られたことがありました。左打ちの金本選手は、左ピッチャーを苦手としていたのです。「そのまま2軍に落とされ、彼は泣いていましたよ。そして、その弱点を克服するため、左投げのバッティングピッチャーにわざと体の近くにくるボールを投げさせ、ボールが体に当たっても逃げない練習を繰り返しました。バッティングピッチャーが『これ以上やると金本選手の体が壊れてしまう。もう投げられない』といってもやめません。その様子を見ていた三村監督が試合に起用し、彼はレギュラーの座をつかみました」と、若かりし頃の金本氏の姿を振り返ります。
「名選手・監督として知られたミスター赤ヘル山本浩二さんでさえ、『金本の真似はできない。どうしてあれほどの精神力を持っているのか』と評価していました。彼はきっと、負けたくなかったのだと思います。敵にではなく、同じ世代の選手に負けたくなかったのでしょう」と髙代氏。こうした金本氏のエピソードを踏まえ、「これまで数多くのプロ野球選手を見てきたが、伸びる選手と伸びない選手の一番の違いは、継続して努力ができるかどうか。地道な基礎的な練習を継続してやれば必ず上達するが、プロ野球選手であってもそれは簡単ではない。本学野球部はこの4月に新入部員を迎えたが、この7月までの3カ月の期間でも、継続して練習した選手とそうでない選手との差は歴然とあらわれています。「人生には自分の思い通りにいかないことの方が多いです。だから、失敗して学ぶ、失敗して覚えるということを繰り返し、絶対に諦めないで、継続して自分を鍛えることを怠らないでほしいと願っています」と語ります。
また、2013年WBCでの心に残る出来事として、決勝ラウンド進出がかかった台湾戦での鳥谷敬氏の活躍も紹介しました。リードされて迎えた日本の攻撃回、9回裏2アウトの場面で鳥谷氏が盗塁に成功。この盗塁がヒットを呼び込んで同点に追いつき、延長10回に日本が勝ち越しました。髙代氏は、「実は試合前のミーティングで、この場面で投げていた台湾のピッチャーは、連続で牽制球を投げないという話をしていたのです。絶対に失敗できない場面での決断力はもちろん、ミーティングの内容をしっかりと頭に叩き込んでいたことが素晴らしいと思いました。学生の皆さんも、誰かの話を聞くときは話者の目をしっかり見てください。目と耳の両方を使えば、しっかりと話が頭に入ってきます。そうして聞いた話が自分の身になることもあるでしょう」と話します。
髙代氏は最後に、関西六大学野球の秋季リーグでの優勝を目指す決意を述べ、「学生や教職員の皆さんの応援で、部員たちの後押しをしてほしい」と呼びかけて講演を締めくくりました。
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野球部員のみならず、一般の学生にも通用する指導方針
また、別の教員からは「去年秋、今春と、野球部は優勝がかかった試合で惜敗しました。野球部に限らず、あと一歩が足りないというのが本学のスクールカラーになってしまっているように感じる。何が足りないのか、どう改善すればいいのか、指導者としての考えを聞かせてください」といった質問が寄せられました。髙代氏は、「まずは、強いチームと対戦する時、はじめから気持ちの面でひるんでしまっていると感じています。試合前のシートノックの時点から元気がない。まずは、そばにいるコーチや監督がしっかり声をかけていかなければならないと考えています。もう一つは、日頃の練習に向かう気持ちが足りなかったのでしょう。単純なバントミスで負けてしまった試合もありました。大事な試合こそそういった単純なミスで勝敗が決することが多いです。日頃から試合を想定し一つ一つの地味な練習をやるよう気を引き締めて指導にあたる必要があります。一方で、私の指導の仕方にもまだ改善すべきところがあるかもしれません。教えるということに関しては終着駅がないと思っています。いつまでも勉強です」と返答しつつ、「今秋のリーグ戦では、逆に相手をのみ込むぐらいの心意気でやっていきたい。期待していてください」と、力強い言葉が聞かれました。
今回の講演会は、野球の話が中心でありながら、継続すること、準備することの大切さや課題への向き合い方など、学生たちに、今後の大学・社会生活における気づきをもたらす機会となったのではないでしょうか。
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