【名刺代わりの挑戦状】ラ・リーガ第11節 レアル・マドリー 対 FCバルセロナ マッチレビュー 【24/25 エル・クラシコ】

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チーム・協会
【これはnoteに投稿されたクレのはらをさんによる記事です。】
今年もやってきた説明不要の大一番。バルセロナはここまで大幅ターンオーバーで挑んだラ・リーガのオサスナ戦、開始10分で退場者を出したCLモナコ戦の2試合を除き全勝で駆け抜けてきた。直近の試合ではにっくきバイエルン・ミュンヘンを4-1で下し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。

対するレアル・マドリーはリーグ戦で引き分け3つ、CLでもリールに負けるなど若干の停滞感がある様子。それでも直近のCLドルトムント戦では前半0-2から60分以降に5点ぶち込むという異常な勝ち方で底力を見せつけ、逆転劇の舞台となったサンディアゴ・ベルナベウでバルサを待ち受ける。

バルセロナはフェルミン、フレンキー・デ・ヨング、ダニ・オルモ、ガビの4名が復帰して中盤の層がかなり厚くなったが、それでもテア・シュテーゲン、アラウホ、クリステンセン、エリック・ガルシアが負傷中で最終ラインに代えがいない。前線ではフェラン・トーレスが離脱しているほか、期待の若手ピボーテであるマルク・ベルナルも長期離脱中で今シーズンは見られない。

マドリーはクルトワがおらず、アラバは去年からずっと離脱が続いている。カルバハルもリーグ戦で恐ろしい大怪我を負ってしまい、こちらも最終ラインがかなり薄くなっている。ロドリゴも出られないらしい。

スタメン

【クレのはらを】

バルセロナは直近のバイエルン戦と全く同じスタメン。中2日だろうが関係ない。マドリーは負傷したロドリゴだけでなくモドリッチも下げてチュアメニ、カマヴィンガのフランス代表コンビをチョイスし、全体的にアスリート能力に秀でた人選になっている。こちらは中3日。


前半

バルセロナがどう試合に入っていくか、予想するのは簡単だ。そもそもフリックバルサはこれまでほぼ同じ戦い方を貫いてきており、ハイライン・ハイプレスはバイエルン相手でも変わらなかった。それでも流石にヴィニシウスとエンバぺ相手ならマイナーチェンジしてくるのではないか、という意見もあったが。

対するマドリーはスペースさえあれば何でもできる2人が揃っている。あえてラインを下げてバルサを引き込み、ロングカウンターで仕留めることを狙ってくる可能性も十分にあった。昨シーズンのCLで何度も見せたアレ。問題は発射台ことクロースがいないことくらいか。

しかしアンチェロッティが選択したのはハイプレス。フィードの出所を抑え、ヤマルやハフィーニャを軸とした速い攻撃に繋げさせない。コンビネーションの起点になるレヴァンドフスキのポストワークはファール上等で潰すことが徹底されていた。

スイッチを入れさせないプレス

【クレのはらを】

バルベルデとチュアメニが掴みに来るのでペドリとカサドは頻繁に左右を入れ替えていたが、そこはマンマークで着いてこずうまく受け渡して対応されていた。ヴィニシウスとエンバぺはとにかく目の前のCBを自由にしない簡単なお仕事。ペーニャはテア・シュテーゲンほどプレス回避に関われないのでそこまで気にする必要はない。バルデが上がっていくのがバルサの基本の形だが、そこはベリンガムが責任をもってシャットアウトする。

普段ならヤマルがタッチライン際で起点になるところだが、この日はカマヴィンガの背中に立ってライン間を使う意識が強め。代わりにフェルミンがメンディを引っ張る。しかしカマヴィンガはうまく絞って中を消しつつ、クンデに渡ればしっかり寄せて前進を封じていた。こういう過剰タスクをぶん投げられるMFがバルベルデ以外にもいっぱいいるのがマドリーの贅沢なところであり、おそらくモドリッチが先発しなかった理由でもある。

このプレッシングを受けてバルセロナの前進は停滞気味。うまく縦パスが刺さった場合はゴール前にまで一気に運べたが、その回数はさほど多くなかった。

リスキーでもとにかくハイライン

前進がうまく行かないということは、当然マドリーの保持機会は増えていくことになる。そこで発動するのがバルサの代名詞となったハイライン。スピードスター2枚を擁するマドリーを挑発するかのような、極端に高いラインでプレスを敢行した。

対するマドリーは当然その2人を使ったスピード勝負。それでもただ裏に蹴っ飛ばすのではなく、バルサのDFラインを乱す工夫を一つも二つも組み込んでくるのは流石のいやらしさだった。

【クレのはらを】

左SBのメンディ、SHのカマヴィンガは低めの位置を取ってヤマルとクンデをそれぞれ誘い出す。プレッシャーのきついハフィーニャと対面するミリトンはあまりボールを持たず、ロングフィード担当はもっぱらリュディガーが務めることになった。ヴィニシウスはたびたびクバルシのファウルを誘い、エンバぺもイニゴ・マルティネス相手にきちんとボールを収めるなど1対1での感触は比較的良かったのではないだろうか。

更にヴィニシウスがサイドで持ってクンデを引っ張り、エンバぺやカマヴィンガがポケット凸からチャンスを作るシーンも見られた。ここはカサド/ペドリが対応すべきシチュエーションなのだが、2人とも純粋なスピード勝負やパワーでの対決となると分が悪い。となるとCBに対応させてもよさそうなものだが、カサドとペドリは身長も高くない(172cm/174cm)ため彼らをクロス対応に回すのは避けたい。ゆえにCBは中央から動かしたくない。

右サイドではベリンガムがターゲットとなってDFラインを押し下げ、ルーカス・バスケスがフィードの受け手となって前進してくる。元アタッカーだけあってこういう位置取りが上手い。ちなみにベリンガムはピッチ上にいるバルサのどの選手よりも身長が高かったりする。

しかしこれだけ脅威を見せられても、バルサはハイラインを崩さなかった。結果としてマドリーは前半だけで山のようにオフサイドに引っ掛かり、そのたびにベルナベウの大観衆はぬか喜びする羽目に。これに関してはラインコントロールの緻密さが半分、エンバぺの無頓着さが半分といったところだろうか。

想定内と想定外

バルサの守備陣が浮足立たなかったのは、背後を突かれることはある意味で意図した通りの展開だからである。これだけラインが高ければ当然相手は一発でひっくり返しに来るだろうし、そこに対応する準備は飽きるほどにやっているはず。スルーパスの出し手がフリーなら裏ケアに下がり、逆に少しでも下を向いたりキックのためにターンが必要になるとスッとラインを上げるさまは「想定通りにやれている」という自信を感じさせた。

むしろ想定外だったのはマドリーのプレッシングによって安定してボールが持てなかったこと。ある程度制限されても良いボールを蹴れるクバルシを起点に3トップがゴール前に殺到するタイミングは何度かあったが、ライン間を使ったり押し込み局面を作ってブロックを外から壊していく作業はほとんど見られなかった。


後半

上手く行っていないボール保持面での閉塞感を打破するため、フリックが行ったのはフェルミンとフレンキー・デ・ヨングの交代だった。デ・ヨングが左のボランチに入り、ペドリが1列上がる格好になる。

交代でプランを崩せ

ピッチに立ったデ・ヨングは早速自由に動き回り、ボールを持っているCBやSBに近づいて保持を安定させていった。特にCBの間に立つ、いわゆるサリーを多用していたが、これがマドリーの2トップを大いに迷わせることとなった。

【クレのはらを】

デ・ヨングがいて後ろが安定しているのでSBのクンデは前半と比べて高い位置を取れるようになる。カマヴィンガを引っ張って大外に立ち、ヤマルが降りてくれば連動してそのままバックドアを狙いに行く。

クンデがDFラインを引っ張る役もやってくれるので、ペドリはライン間で浮いてバルベルデにちょっかいをかける。無視してプレスに参加したら背中を使っちゃうぞ、という脅し。

すると53分、バルセロナが唐突に先制点を挙げる。自陣深くでバルデがベリンガムに倒され、短いパスでリスタートした流れでそのままゴールまで行けてしまった。

【クレのはらを】

2トップの制限を外し、ライン間に人が立ってCBを釣り出した背中を使ってゴール。マドリーがプレスを修正する前に穴を突いた形になったが、それでも相手SBのライン管理意識はどうかと思う。ボールホルダーのカサドを素通りさせたエンバぺも大概だが。

カサドはこれでバイエルン戦に続く2戦連続でのアシストを記録した。ビッグゲームでも変わらず輝きを放つ彼はまだ21歳。ゴールを決めたレヴァンドフスキとは1周り以上の年の差がある。

マドリ―のリアクションと追加点

失点を受けてマドリーはプレスのギアを上げる。背中のペドリに通させない勢いでチュアメニ、バルベルデをそのままカサド、ペドリにぶつけて押し上げてきた。しかしその2人の背中をハフィーニャが上手く使い、落としを背後にデ・ヨングが展開するとバルデが走りこんでいてクロス。どフリーでレヴァンドフスキが合わせて追加点。

バルデは正直ボールを持った時の手札は多くないが、それでも大外から頭に合わせるクロスはデビュー当初から見れば上手くなっているポイントだったりする。きっちりゴールの隅に決め切ったレヴァンドフスキもお見事。
きっちり入ってきたヤマルと虎視眈々とゴール前で牙を研いでいたレヴァンドフスキも素晴らしかったが、ここはバルデの蹴ったクロスの質を褒めてあげたい。見ている場所が明確に昨季と変わっている印象で、長期離脱中にもいろいろ学んで吸収していたことが想像できるいい場面だった。キックレンジも広いし、これは1つ大きな武器が増えたのではなかろうか。
 リーガ開幕戦のレビュー(https://note.com/harawo_cule/n/nc3f0f5c89052?sub_rt=share_pw)より

2点目も取られたアンチェロッティはすぐさまモドリッチを投入。チュアメニがいたところにそのまま入る。即座にフリックも動き、イエローを1枚もらっていたカサドに代えてダニ・オルモがクラシコデビュー。ペドリが再び1列下がったポジションを取る。

ハイラインの練度

マドリーはモドリッチとバルベルデをバルサのドブレピボーテにぶつけ、浮いているオルモにはCBが出て対応することにして同数プレスを敢行。中盤を突き破ってバルサが2つ決定機を作ったが、これはレヴァンドフスキが外してスコアは動かなかった。

【クレのはらを】

モドリッチは深い位置で積極的にボールに関わり、左サイドからチャンスを作るがイニャキ・ペーニャが何度も仕事をした。68分にはモドリッチが自陣から完璧なスルーパスを蹴ってヴィニシウスが抜け出し、クンデが止めてイエローカード。これで得たFKをまたモドリッチが蹴ってベリンガムが決定機を迎えたがうまくボールが足につかなかった。去年のベリンガムなら決めていそうだったが、今日の主役は彼ではなかったようである。

さらに76分にはカマヴィンガを下げてブラヒム・ディアスを投入したアンチェロッティだったが、まさにその直後のゴールキックの流れでイニャキ・ペーニャが蹴っ飛ばしていきなり3対3。レヴァンドフスキがミリトンと競ってボールは後ろに流れ、ハフィーニャがバスケスを制して最後はヤマルがニアハイをぶち抜いた。

その後もマドリーは解決策を見つけられず、83分にはハフィーニャがルーカス・バスケスとのかけっこを制して4-0に。形だけ守備についてきていたヴィニシウスを意に介さずイニゴ・マルティネスがロングフィードを蹴ると、なぜか最終ラインでハフィーニャがバスケスと1対1になっていた。

こうなると5得点のマニータも視野に入ってくるところだったが、主審のサンチェス・マルティネスの温情によりAT2分を待たずして試合終了のホイッスルが鳴った。

この旗を掲げて

ここでバルセロナの周囲にある空気の話をしておきたい。

ここ数年のバルセロナは、自らのアイデンティティを喪失し暗がりを彷徨っているような状態だった。メッシ&スアレスの2人が守備をしない時代を経て全局面で試合を支配することは不可能となり、そのどちらもがチームを去ったことで圧倒的な得点力も失った。

チャビは堅守とデンべレ、ペドリの輝きによってリーグを制したが、1-0を積み重ねたうえにでんと置かれたトロフィーを誇らしげに眺めているファンはあまり多くない。なんとも難儀なクラブである。最後にバルセロナがリーグ優勝を果たした時、チャビはアル・サッドで現役ラストシーズンを闘っていたというのに。

また、現在のスカッドは本当に若い選手が多く、26人中25歳未満の選手が15人、平均年齢が24.6歳というビッグクラブとしてはあり得ない数値になっている。GKセクションの平均が30.9歳なので、フィールドプレイヤーだけで数えると更にぐっと若くなるはずだ。

この若いチームには成功体験がない。立ち返るべきベースももはやない。あるのは「このチームなら美しく勝ってくれる」という、分不相応にさえ思える理想と期待だけ。

だからこそ、新たにバルセロナに降り立ったドイツ人指揮官が見せてくれた景色は鮮烈だった。何があっても下げることを許されないハイラインは、自分たちが試合の形を決めるのだという宣言だ。俺たちはこうやってプレーするんだと、リスクなんて知ったこっちゃないと堂々とピッチに立つ選手たちの姿は、ここ数年のバルセロナでは見られなかったものだ。

バルセロナはアイデンティティを取り戻した。向こう見ずな危うささえも自分のものにして、この若いチームは突き進んでいくだろう。このエル・クラシコでの勝利は、間違いなくその大きな手助けになるはずだ。
2024/1/15 La Liga Matchday 11
Real Madrid 0-4 FC Barcelona
Stadium : Santiago Bernabéu
Referee : José María Sánchez Martínez
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