【菊花賞】ルメール騎手の選択、アーバンシック逆転一冠「僕が4頭から選んだ。彼の方がタフだった」
3歳牡馬クラシック最後の一冠・菊花賞はクリストフ・ルメール騎手騎乗のアーバンシックが春の悔しさを晴らす快勝! 【Photo by Shuhei Okada】
アーバンシックは今回の勝利でJRA通算7戦4勝。重賞は2024年セントライト記念に続き2勝目。騎乗したルメール騎手は2016年サトノダイヤモンド、18年フィエールマン、23年ドゥレッツァに続き菊花賞4勝目。武井調教師は開業11年目にして初のGI勝利となった。
なお、2馬身半差の2着には戸崎圭太騎手騎乗の4番人気ヘデントール(牡3=美浦・木村厩舎)、さらにハナ差の3着には武豊騎手騎乗の7番人気アドマイヤテラ(牡3=栗東・友道厩舎)が入線。横山典弘騎手が騎乗した1番人気のダービー馬ダノンデサイル(牡3=栗東・安田厩舎)は追い込み届かず6着に敗れ、二冠制覇はならなかった。
ルメール騎手はなぜアーバンシックを選んだのか?
4頭いるお手馬の中からどの馬を選択するか、ルメール騎手は淀3000mに耐えられるタフさを重視したと明かした 【Photo by Shuhei Okada】
「前走が完ぺきな騎乗をしてくれましたので、今回も上手に乗ってくれるのだろうなと思っていたのですが、途中で押し上げて勝てるポジションにいくのを見て、本当にすごいジョッキーだなと思いましたね」
厩舎初のGIタイトルをもたらしてくれた騎乗ぶりに武井調教師も最敬礼。やっぱりルメールは上手い――終わってみれば、誰もがそう思ったに違いない今年の菊花賞だったが、ジョッキー本人はレース前にプレッシャーを感じていたという。表彰式後の共同会見でルメール騎手はこんな心境を明かした。
「自分が前走乗って勝った馬が今回の菊花賞に4頭出ていて、その中から僕はアーバンシックを選びました。だから、どんな結果を出せるのかなと心配していたんです(苦笑)」
菊花賞に出走した18頭のうちルメール騎手が乗って前走勝った馬を挙げていくと、アーバンシックのほか、シュバルツクーゲル、ヘデントール、アドマイヤテラ。結果的にヘデントールが2着、アドマイヤテラも3着と軒並み上位に来たわけだが、それくらいレベルの高い騎乗候補馬の中から最良の選択をしたのだから、ルメール騎手の馬を見る目はさすがとしか言いようがない。
では、なぜアーバンシックを選ぶことができたのか?
「菊花賞を勝つためにはタフさが必要です。アーバンシックはダービーにも出ていたし、春からトップレベルで使っていました。ヘデントールとか他の馬も絶対にいい馬ですけど、彼の方がタフだと思ったんです。3歳馬にとって3000mは難しいですから」
精神面が各段に成長「本来の能力を引き出す大きな一因に」
「ベストターンドアウト賞」を受賞するくらい美しい仕上がりを披露したアーバンシック、その姿を見たルメール騎手も勝利への自信を深めていた 【Photo by Shuhei Okada】
「まだ子どもっぽい面は残っているのですが、パドックや競馬場での仕草、レースが終わった後の雰囲気などが各段に大人になっていますね。それが彼の本来持っている能力を引き出せる大きな一因になっていると思います」
大一番のこの日も「ベストターンドアウト賞」を受賞するくらい、美しく仕上がっていた。そんな姿を見て、自分の選択は間違っていなかったと自信を深めたのはもちろんルメール騎手である。
「馬はすごく綺麗で静かでしたし、返し馬の後も落ち着いていました。今日はベストコンディションだと思ったので、絶対にいい競馬を見せることができると思いました」
出入りが激しい乱ペースの中、名手3人の競演
前半の乱ペースに惑わされずに能力を引き出した名手3人の手腕も大きな見どころとなった 【Photo by Shuhei Okada】
「スタートがちょっと遅いのはいつも通り。でも、3000mは長いから馬にプレッシャーを掛けたくなかったし、1周目はやさしく乗りたかった。そして1周目の後はポジションを上げていくことができました。道中で息が入りましたし、ずっと冷静に走ってくれたので段々とペースアップした時には勝てると思いましたね」
先行集団の脚色が鈍っていく中、いち早く動いたのはアーバンシックよりもさらに後方にいた武豊騎手のアドマイヤテラ。その後ろをついて行くようにアーバンシックも位置取りを上げていく。さらにその直後を追いかけていたのが戸崎圭太騎手のヘデントールだった。1周目には後方グループを形成していた3頭が、勝負どころの2周目4コーナーでは好位5番手以内にまで押し上げて、1、2、3着を独占。先に抜け出したアドマイヤテラ目掛けて末脚を伸ばしたアーバンシックの完勝で幕を閉じたのだが、前半の乱ペースに惑わされずに自分のリズムを守って最後に決め脚を使う――そうした巧みな手腕を披露した名手3人にも脱帽する、淀3000mならではの名勝負だった。一方で、インで行き場をなくして動けなかったダノンデサイルにはかわいそうな展開だった。
「他の世代と走っても負けないくらいのポテンシャル」
武井調教師は嬉しいGI初勝利、アーバンシックの今後に関して「他の世代と走っても負けないくらいのポテンシャルがある」と手応えを語った 【Photo by Shuhei Okada】
次走のターゲットに関してはオーナーである有限会社シルクレーシングの米本昌史代表取締役社長が具体的には名言しなかったものの、同馬への期待を次のように語った。
「すごい馬に成長してくれました。新馬のときには返し馬もできないくらいメンタルの難しい馬でしたが、調教師、スタッフ、牧場の皆さんがここまで育ててくれました。3歳なのでこれからが楽しみです。ちょっと詰めて使ってきたので状態次第にはなりますが、次にまた大きなレースに行ければと思っています」
武井調教師も「今日のパフォーマンスからしたら世代のトップクラスだということを証明できましたし、他の世代と走っても負けないくらいのポテンシャルがあると思っています」と、年上世代との戦いにも手応え十分。年内に走るとしたら年末のグランプリ有馬記念だろうか。3歳ニューヒーローの次なる選択を楽しみに待ちたい。(取材・文:森永淳洋)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ