日本水泳・水中運動学会で優秀賞の浜上洋平准教授 プール老朽化で民間委託進む水泳授業に警鐘 「義務教育から外れるおそれも」 大阪体育大学
日本水泳・水中運動学会2024年次大会が10月5日、鳴門教育大学で開催され、大阪体育大学教育学部の浜上洋平准教授(体育科教育学、水上競技部女子監督)がポスター発表部門で、最高位の優秀賞を受賞した。発表は「中学校および高等学校保健体育科教員の水泳授業に対する意識調査」で、調査データから、保健体育科教員の水泳授業に対する自信が低いことが分かった。小中学校の水泳の授業は、プールの老朽化などにより民間への委託が相次ぎ、大きな転換点を迎えている。調査は新たな水泳授業のあり方を考えるための貴重なデータといえる。今、水泳の授業に何が起きているのか。浜上准教授に聞いた。
浜上洋平准教授 【大阪体育大学】
日本水泳・水中運動学会は競技としての水泳に携わる指導者、学校水泳に関わる教育者らが一堂に会する。2024年次大会では、大阪体育大学大学院博士後期課程の川村亮太さんも「指導者不在期間を経験した大学競泳選手は指導者に何を求めるのか―選手の認知的方略に着目した質的検討-」で奨励賞を受賞した。
川村亮太さん 【大阪体育大学】
――水泳の授業で今、何が起きているのか。
1960年代ごろに全国で一斉に作られた学校のプールが、寿命とされる50年が過ぎて老朽化しています。学校にプールはあっても使用できず、実際に泳ぐ授業ができない学校が増えています。本学の水上競技部の学生に聞いても、「学校では泳ぎませんでした」という学生もおり、泳ぎの経験のないまま中学校を卒業している子どもたちが現実として生まれています。
――泳ぎを経験しないまま卒業できるのか。
学習指導要領では、泳げる環境がなければ、泳ぐ授業がなくてもいいが、水泳に関わる安全教育を座学で指導することになっています。水難事故での対処法を座学で学ぶ自治体も増えています。
――泳ぐ場を確保するため、学校はどう対応しているのか。
水泳の授業を民間のスイミングスクールや公営のプールに委託する例が増えています。この形態について、水泳関係者の間でも、「泳げる環境があるのなら学校のプールでなくてもいい」「泳ぎを教えるのが上手なスイミングスクールのインストラクターに指導をお願いできるのはいいことだ」という意見がありますが、私は否定的です。
――それはなぜか。
水泳の授業の目的は上手に泳げるようになることだけではありません。その点を理解しているのは教員であり、インストラクターは泳ぎを教えるプロですが、授業のプロではありません。民間のスクールへの丸投げが許されるのなら、他の領域や種目も専門家に習えばいいということになります。それは体育の授業の存在意義すら危ぶまれる事態です。
――水泳の授業で得る学びとは。
柱が二つあります。一つは自己保全能力の向上を目指す安全水泳。水難事故に遭った時、自分の命を守る能力を高めることです。もう一つは生涯スポーツにつなげていくこと。これは体育の他の領域と同じですが、水泳の特徴は前者も目的の1つに据えていることです。日本は海に囲まれ、毎年、海や川でなくなる子どもがいます。座学だけで学び、水に浸かった経験のない子どもは、足が底に付かない海や川に入った時に対応できません。
1960年代ごろに全国で一斉に作られた学校のプールが、寿命とされる50年が過ぎて老朽化しています。学校にプールはあっても使用できず、実際に泳ぐ授業ができない学校が増えています。本学の水上競技部の学生に聞いても、「学校では泳ぎませんでした」という学生もおり、泳ぎの経験のないまま中学校を卒業している子どもたちが現実として生まれています。
――泳ぎを経験しないまま卒業できるのか。
学習指導要領では、泳げる環境がなければ、泳ぐ授業がなくてもいいが、水泳に関わる安全教育を座学で指導することになっています。水難事故での対処法を座学で学ぶ自治体も増えています。
――泳ぐ場を確保するため、学校はどう対応しているのか。
水泳の授業を民間のスイミングスクールや公営のプールに委託する例が増えています。この形態について、水泳関係者の間でも、「泳げる環境があるのなら学校のプールでなくてもいい」「泳ぎを教えるのが上手なスイミングスクールのインストラクターに指導をお願いできるのはいいことだ」という意見がありますが、私は否定的です。
――それはなぜか。
水泳の授業の目的は上手に泳げるようになることだけではありません。その点を理解しているのは教員であり、インストラクターは泳ぎを教えるプロですが、授業のプロではありません。民間のスクールへの丸投げが許されるのなら、他の領域や種目も専門家に習えばいいということになります。それは体育の授業の存在意義すら危ぶまれる事態です。
――水泳の授業で得る学びとは。
柱が二つあります。一つは自己保全能力の向上を目指す安全水泳。水難事故に遭った時、自分の命を守る能力を高めることです。もう一つは生涯スポーツにつなげていくこと。これは体育の他の領域と同じですが、水泳の特徴は前者も目的の1つに据えていることです。日本は海に囲まれ、毎年、海や川でなくなる子どもがいます。座学だけで学び、水に浸かった経験のない子どもは、足が底に付かない海や川に入った時に対応できません。
水上競技部女子を指導 【大阪体育大学】
――水泳は現在、小学1年から中学2年までは必修だが、将来的に水泳が体育の授業から外れる可能性もあるのか。
ゼロではありません。外れかねない理由もそろっています。スイミングスクールはスポーツの習いごとでナンバーワンの人気ですが、水泳が授業から外れれば、スクールに通わせる親も減り、共倒れのおそれもあります。日本の水泳文化の衰退につながる事態への第一歩を今、踏み出しているのではないでしょうか。
――学校で泳ぐ経験ができなければ、生活に余裕がなくスイミングスクールに通わせることができない家庭の子どもは、水に接する機会を失うことになる。
義務教育から外れるというのは、そういうことです。
――そのような状況下で、保健体育科教員の水泳の授業に対する自信が低いというデータが示唆するものは。
教員に水泳を教える自信があれば、学外のプールを借りたとしても授業のすべてを外部の指導者に丸投げしようとしません。大学が保健体育科教員を養成する科目の中で、水泳指導に必要な能力をどう育成するのかをもう一度検討しなければいけないと思います。
浜上洋平(はまがみ・ようへい) 大阪体育大学教育学部准教授(体育科教育学)。著書に体育科教育学入門 三訂版(大修館書店)第三部・第7章「水泳運動(水泳)の教材づくり・授業づくり」、初等体育授業づくり入門(大修館書店)第3章・第4節「水泳運動系領域」など。水上競技部女子監督。指導する宇津木美都選手(教育学部4年)がパリパラリンピック女子100m平泳ぎ(SB8)で5位入賞。
ゼロではありません。外れかねない理由もそろっています。スイミングスクールはスポーツの習いごとでナンバーワンの人気ですが、水泳が授業から外れれば、スクールに通わせる親も減り、共倒れのおそれもあります。日本の水泳文化の衰退につながる事態への第一歩を今、踏み出しているのではないでしょうか。
――学校で泳ぐ経験ができなければ、生活に余裕がなくスイミングスクールに通わせることができない家庭の子どもは、水に接する機会を失うことになる。
義務教育から外れるというのは、そういうことです。
――そのような状況下で、保健体育科教員の水泳の授業に対する自信が低いというデータが示唆するものは。
教員に水泳を教える自信があれば、学外のプールを借りたとしても授業のすべてを外部の指導者に丸投げしようとしません。大学が保健体育科教員を養成する科目の中で、水泳指導に必要な能力をどう育成するのかをもう一度検討しなければいけないと思います。
浜上洋平(はまがみ・ようへい) 大阪体育大学教育学部准教授(体育科教育学)。著書に体育科教育学入門 三訂版(大修館書店)第三部・第7章「水泳運動(水泳)の教材づくり・授業づくり」、初等体育授業づくり入門(大修館書店)第3章・第4節「水泳運動系領域」など。水上競技部女子監督。指導する宇津木美都選手(教育学部4年)がパリパラリンピック女子100m平泳ぎ(SB8)で5位入賞。
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