中日ドラゴンズ通信簿'24後期

note
チーム・協会
【これはnoteに投稿されたざんさんによる記事です。】

はじめに

 9月18日、本拠地バンテリンドームナゴヤでの阪神タイガース戦。この試合に敗れた後、立浪和義監督は報道陣の前で退任の意を表明した。

 安堵した。というのが第一であった。この3年間は私にとって余りにも苦しく、余りにも長いものだった。純粋にチームの勝利を願って応援する、スポーツファンとして当たり前と言える感情でさえ何処かへ置き忘れてしまった。球団史上初の3年連続最下位、取り沙汰される言動の数々。「チュニドラ」と嘲笑される日々は自虐することもあれど耐え難いものであった。

 監督を代えてすぐに好転するとは微塵も思っていない。これはあくまで強いチーム作りへのスタートラインに過ぎないのだが、チームの勝利を再び心から喜べることに私は安堵しているのだ。

 全国のプロ野球ファンの皆様、こんにちは。ざんと申します。普段はTwitter(現X)(https://x.com/zanwoods44?s=21)にて中日ドラゴンズを中心に野球関連の話題について呟いています。

 今回はタイトルの通り、2024年後半戦の中日ドラゴンズについて振り返っていく。143試合の全日程を終え、60勝75敗8分の6位。基本的には

お前、変わらんかったな。何でそんなに頑固なんや。

…で完結してしまう部分が殆どである。そこで、今回は言及する機会の少なかったポジティブな要素に目を向けつつ、3年間の全体的な総括としたい。タイトルと趣旨がズレてしまう気もするが、何卒ご容赦いただきたい。


野手陣について

打つ方は必ず何とかする

 結論から言えばこの公約はそれなりに高い水準で達成できている。細川成也という現役ドラフト史上トップクラスの出世株を掴んだことが大きいが、和田一浩コーチの招聘により戦力外寸前だった細川が2年連続20HRを放つリーグ屈指のスラッガーに変貌したことは立浪監督の功績のひとつと言って良いだろう。

 また、立浪監督自ら視察を行い獲得に至った村松開人は著しい成長を見せている。OPSは.672と然程高いというわけではないが、wRC+という得点創出力の相対的な傑出度を測る指標では113を記録している。リーグ内の平均的な打者と比較して打席あたり1.11倍の得点を創出したという評価になるが、守備負担の大きなショートを守りながらこの数値は非常に優秀と言える。400打席以上立った打者の中でこの指標でプラスを生んだ遊撃手は他に今宮健太のみであり、今年の成績で見れば村松はリーグトップクラスの打撃型遊撃手と言って差し支えないだろう。ちなみに昨年の村松はこの指標が50にも満たない数値だったため、今季の大躍進が伺える。
wRC+
打席あたりの得点創出の多さを平均的な打者を100とした場合のパーセンテージで評価する指標。球場による影響(パークファクター)に対する補正を行っており、環境に対して中立的に打者の得点創出能力を評価するのに適している。wRC+が130であればリーグの平均的な打者の1.3倍の効率で得点を生産する打者であるといえる。

1point02.jpより引用

 前述の細川はこの指標も群を抜いて優秀で、両リーグの規定打席到達選手の中でもトップクラスの168をマーク。また福永裕基や石川昂弥らが規定未到達ながらプラスを生み出しており、積年の課題であった得点力は改善の兆しが見られている。今季不調だった岡林勇希を除いてもこれだけ優秀な選手が出てきたこと、そして彼らが皆20代までの日本人選手であることは間違いなく今後数年の強みだろう。

 それだけに福永や石川が2軍暮らしだった期間や、1軍でもベンチ起用が目立っていたことが悔やまれるが、かつての外国人頼みの打線から脱却出来つつあることはこの3年間の功績のひとつではないだろうか。
村松開人
109試合 418打席 打率.275 1本塁打 25打点
OPS.664 wRC+111

細川成也
143試合 600打席 打率.292 23本塁打 67打点
OPS.846 wRC+168

福永裕基
111試合 402打席 打率.306 6本塁打 32打点
OPS.789 wRC+158

石川昂弥
82試合 275打席 打率.272 4本塁打 25打点
OPS.702 wRC+117

1point02.jpより引用


守り勝つ野球

 長らくドラゴンズの売りである守備力だが、こちらも若い世代が奮闘している。今季は二塁田中幹也、遊撃村松開人の布陣が多く組まれていたが両名とも規定守備イニング到達者の中でのUZRをプラスに出来ている。決して頭抜けた値ではないのだが、両ポジションでマイナスを作らないバランスの良さは評価できるだろう。どうしても前任の京田陽太の凄まじい遊撃守備には及ばないのだが、ドラゴンズには龍空という有望株がいる。ここ数年のドラフトを鑑みると当然ではあるのだが、若く優れた二遊間の選手が豊富にいることは強みだろう。
UZR(Ultimate Zone Rating)とは同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだかを表す守備の評価指標である。その守備位置の平均的な守備者のUZRはゼロとなり、優秀な守備者は+10や+20といった数値になる。

1point02.jpより引用

 また、コーナーでは夏頃からようやく一塁石川昂弥、三塁福永裕基の形が出来た。この両者は主にドラゴンズファンから守備力を過小評価される事も多かったのだが、共にUZRは平均以上を稼げている。勿論、前半戦での出場機会が乏しくイニング数も多くはないため参考程度ではあるが、前述の二遊間と合わせてそれなりに堅実な内野陣を組めているというのが現時点での評価ではないか。

 外野に関しては岡林勇希が肩の炎症で出遅れるものの、終わってみれば今年も優秀な守備指標を残している。特に中堅での送球指標(ARM)は規定守備イニング選手の中でトップの4.7であり、最も走者の進塁を防いだ中堅手と言える。実は昨年の岡林は中堅のUZRは-2.7と悪い数値だったのだが、今季は8.5まで大幅に上昇させている。(1200イニング換算のUZR/1200では14.0)長らく中堅手の座を誇った大島洋平の後継として十二分な成績ではないだろうか。

 一方でその他の外野手は基本的にあまり守備貢献が高くないのだが、打力優先のポジションでもあるため致し方ない部分もある。ある程度割り切って終盤に適切な守備固め要員を起用する事で対処していければ良いだろう。
石川昂弥(一塁)
393回1/3 0失策 UZR/1200 4.3

田中幹也(二塁)
751回1/3 4失策 UZR/1200 5.4

福永裕基(三塁)
633回2/3 6失策 UZR/1200 4.0

村松開人(遊撃)
871回2/3 5失策 UZR/1200 1.3

岡林勇希
733回 0失策 UZR/1200 14.0

1point02.jpより引用

野手総括

 全体として攻守に優れた若手が芽を出しており、過程こそ疑問の声が多かったものの世代交代自体はそれなりに進める事が出来たのではないだろうか。平均的に守ることができ、平均以上の得点力を併せ持つ野手陣は今後数年にかけての強みと言える。惜しむらくは捕手の世代交代の停滞だが、前述の通り20代までの選手だけでここまで布陣を固められた事は今後の伸び代を考慮しても大きな功績と言えよう。

 一方で守備や走塁の中で「記録には残らないミス」というものも多く見受けられた。ひとつ先の塁を狙う、或いは防ぐといったプレーはまだ未熟であり今後の課題と言える。結果的に得点に結び付かなかったとしても、こうした些細なプレーの積み重ねがペナントレースを制する上で大きな差を生むだろう。今後の更なる成長に期待したい。


投手陣について

髙橋宏斗

 兎にも角にも今年の投手陣は彼無しに語る事はできない。
21登板 143 2/3投球回
12勝4敗 防御率1.38
K%(奪三振割合)22.8
BB%(与四球割合)6.0
被本塁打1本

1point02.jpより引用
K%
対戦打席のうちの三振の割合。高いほど三振を多く奪う投球をしていることを意味する。平均は18%前後。

BB%
対戦打席のうちの四球の割合。低いほど四球を与えない投球をしていることを意味する。平均は8%前後。

1point02より引用

 上記の指標から今季の髙橋宏斗は卓越した奪三振能力と優れた制球力を両立させた、まさにエースと呼ぶに相応しい投球だった。しかしながら開幕は2軍で迎え、およそ1カ月の調整を経てから彼の今季は始まった。決してコンディション不良では無かったのだが、春先は明らかに制球力を欠いていたのだ。

 原因はフォーム変更がうまく嵌まらなかった事だろう。ここ数年は山本由伸に師事を仰ぎ、冬場のトレーニングに勤しむ様子が報道されていた。練習方法から投球フォームに至るまで、この"師"の影響は絶大だったようで昨年と今年の春季キャンプでは背が伸びた山本由伸が投げていたと言っていいほどだった。ここに警鐘を鳴らしていた(https://www.nikkansports.com/baseball/news/202302040000197.html)のが立浪監督だった。

 実は山本由伸本人も宏斗に向けたものではないが、「自分に合う練習、投げ方を見つけてもらいたい」(https://full-count.jp/2024/02/03/post1508592/)とインタビューにて発言している。あくまでもあのフォームは山本由伸に最適だったという訳であり、決して万人の手本という訳ではない。事実、髙橋宏斗は5月以降他の誰でもない髙橋宏斗自身の投球フォームで"師"のような素晴らしい成績を残した。立浪監督としても開幕から1軍で使う計算だっただろうが、再調整に踏み切った我慢が功を奏した。紛れもなく英断だったと言えよう。

仲地礼亜

 立浪監督がYouTubeで映像を見たこと(https://hochi.news/articles/20221101-OHT1T51068.html)が獲得の決め手となった、何とも現代的な指名によって入団した仲地。この年のドラフト上位候補として名が上がった所謂立浪五人衆、この中に入っていなかった彼の指名には驚きの声も多かったと記憶する。会議前日に一位指名を公言する大胆さにも驚いたものだが、結果としてこの仲地の指名は現時点でも良い判断だったと考える。
※ファーム成績
9登板 8先発 49投球回
3勝2敗 防御率3.12
K%24.6 BB%5.9

1point02より引用

 ファーム成績かつかなり出場数が少ない事は考慮する必要があるのだが、高橋宏斗の項でも述べたK%とBB%が非常に優秀である。スライダーやカットボールなどを得意球とし、ドラフト1位の投手として十分なポテンシャルは持っているだろう。

 一方で故障離脱が非常に多く中々実戦経験を積めていない事や、先のK%も対戦打者が増える程数値が低下する指標という事は懸念点である。とは言え投手不足のチームにおいて貴重な有望株である仲地の獲得は良い選択だったと考える。少し強引な見方になるかもしれないが、彼を見抜いた事は立浪監督の好判断と評して良いだろう。

根尾昂

 ドラゴンズファンの間でも度々議論になるのが根尾昂の投手転向である。結論から言えばこの3年間でも指折りの英断だったと私は考える。投手に行き着く迄に外野へ行ったり内野に戻ったりと、かなり迷走したが投手転向後の成績は目を見張る物もあり1軍戦力への期待が持てる。
※ファーム成績
16登板 14先発 82投球回
4勝5敗 防御率2.63
K%21.8 BB%10.2

1point02.jpより引用

 こちらもファーム成績という事は大前提として考慮する必要があるが、K%で良い数値を残せている。一方でBB%が芳しくなく、「三振は取れるが制球に課題あり」といった評価が現在の立ち位置だろうか。

 とは言えど、投手転向後僅か2年程で高い結果を求めるのは酷である。現時点でも決め球となる曲がりの大きなスライダーや、リリーフ登板時ながら154キロを計測したストレートは大きな彼の武器と言える。現状のドラゴンズの投手陣を鑑みても、不安定な先発ローテーションの一角に入り込むチャンスはある。

 勿論、彼の入団当時は私も将来は3番打者として立浪和義や或いは福留孝介のような活躍を期待していた。しかしながらプロの壁は高く、攻守に課題が山積する状況。伸び悩む間に遊撃では土田龍空、外野では岡林勇希と恐らく野手としての根尾が目標とすべき選手像に近い後輩たちが一軍デビューを飾っていた。徐々に苦しい立場になってきた根尾にとって、投手転向は大きな転機になっただろう。

 そもそもプロ野球の世界で「野手として活躍できないから投手に切り換える」といった立ち回りが出来る選手がどれほど居ただろうか。この選択肢の多さこそ根尾昂の恵まれた点であり、その中で最も成績の良い投手に賭けることは至極当然の判断だろう。今後の活躍次第では立浪監督の最大の功績となるかもしれない。私は投手・根尾昂の未来に大きな期待を寄せている。

投手総括

 振り返ってみると、野手監督の割に投手陣への影響力もそれなりに大きかったように見受けられる。この他柳裕也と涌井秀章らへフォークボールを投げるよう勧めるなど、チーム全体を良くしたいという思いは感じられた。若干独善的にテコ入れをしがちだったきらいはあるものの、良い影響を与えた事もまた事実ではないだろうか。


立浪ドラゴンズ総括

 「若い選手を一人前にする責任がある」

との発言にもある通り、次世代の選手達を開花させたいという思いや意向は随所で感じられた。以前のレギュラーを放出してまで敢行した大改革も、結果としては20代の日本人選手のみで新たな内野陣を形成する事に繋がった。前政権時に苦労した外野陣も細川成也と岡林勇希の台頭で強固な布陣を組めるようになった事も大きい。

 一方でブライト健太や鵜飼航丞らは1軍で結果を残してもベンチと2軍を行ったり来たりという起用が多く、今ひとつ投資し切れなかったように見受けられる。また、春先から好調だった村松開人や福永裕基が出場機会に恵まれていなかった事や、一塁手の成績に苦しむ中で石川昂弥へ切り換える迄に随分と時間を要した事は疑問だった。木下拓哉の後継の育成を考えても郡司裕也を放出した事や、石𣘺康太ら若手捕手が木下の故障時などでさえ積極起用されなかった事は勿体無いように思う。

 この3年間の成績を見れば再建期の監督と評する他ないのだろうが、それであればもう一歩踏み込んだ若手の積極起用が欲しかった。そしてファンの中でも危惧されていた投手陣の層の薄さから目を逸らす形で進めた野手の入れ替えという事を思えば、もっと高いレベルでの"改革"を求めたかった。勿論、投手不足に関しては編成陣の責任が大きいが、昨秋のドラフト会議直前に1位指名を野手へ方針を変える(https://hochi.news/articles/20231025-OHT1T51221.html)など監督の意向も多分に含まれていただろう。

 今季、北海道日本ハムファイターズが昨年までの2年連続最下位から2位まで大躍進を遂げたが、これは「投打に有望株を揃え、育て上げたこと」が最大の要因だろう。新庄剛志監督のマネジメント能力は正直なところ立浪監督とそう大差ないと考えるが、新球場への移転に向けて戦力を整えた球団のビジョンと戦略はドラゴンズのそれとは比べ物にならないだろう。両球団の上層部を含めた力量の差ではないかと考える。

 監督・立浪和義が現代のプロ野球チームを率いる上で著しく能力に欠けていた事は紛れもなく事実であるが、監督にチームの全てを委ねて全ての責任を負わせる構造がこれまで以上に浮き彫りなった3年間と言えるのではないか。この球団経営の方針を根本から変えない事には優勝など夢のまた夢だが、上層部はこの3年間をどう受け止めているのかが気がかりである。

現場とフロント、双方の膿が溢れ出した3年間というのが私の中での立浪ドラゴンズへの率直な感想である。来季以降、この問題と向き合ってくれる事を願う他ない。

おわりに

 冒頭でも述べたが、私は監督を何度代えようともそれだけでこのチームの低迷が終わるとは微塵も思っていない。球団フロントの一新は我々一般のファンレベルではどうにもならない部分が大きいが、ファンが諦めてしまってはいけない。ドラゴンズに優勝してほしい、この思いは常に発信し続けていきたい。

 幸いにも現場で奮闘する選手達には開花の兆しが多く見られ、この秋冬の動き次第では来年からAクラス或いは優勝争いも決してあり得ない話ではないと考える。生涯応援すると決めたドラゴンズの来季に期待を込めてこの"通信簿"の結びとさせて頂く。それでは、

あなたの毎日がドラゴンズで満たされますように

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