早大ア式蹴球部女子 【前編】高校時代を振り返り「子供だった」 ア女の10番、築地が見据える新境地
中盤で前を向こうとした相手選手が背中に圧を感じたのか、体を固くした。そして近づいてくる足音から逃げるように、バックパスを選択する。威圧感の主はア女の10番、MF築地育(スポ4=静岡・常葉大橘)。このような「戦う前から勝っている」的な状況は、築地にとって日常茶飯事だ。
2022年全日本女子選手権(皇后杯)4回戦・大宮アルディージャVENTUS戦での築地。相手選手に激しくプレッシャーをかける 【早稲田スポーツ新聞会】
今春、練習参加クラブを探す築地のリストに、初めノジマステラの名前はなかったという。「自分からではなく、クラブから声をかけてもらって。これからプロのリーグでやっていく中で、クラブから評価され、必要としてもらえているのは大きい」。監督や強化部スタッフから直接じっくりと話を聞く機会があったことも、判断を後押しした。「今の自分の評価やこれからの可能性について、クラブの軸や方針を決める人から聞くことができて。自信にもなったし、今自分に感じてくれている可能性を一緒に伸ばしていってくれるかもしれないと思いました」。まだ迷う時間はあったが、結果的にクラブからのラブコールに心を動かされ、応えることになった。
築地が加入するノジマステラは、昨シーズンのリーグ戦で最下位。3年前にWEリーグが開幕して以来、全体順位は10位(2021-22)、9位(2022-23)、12位(2023-24)と苦戦気味だ。上位のクラブを考えなかったかと聞くと「もちろん最初は」。それでも「順位は確かに大事。ただそれ以上にノジマステラというチームの中で自分がいかに貢献できるか、勝たせる選手になれるかというところに挑戦したい」と実に築地らしい、清々しい言葉が返ってきた。それに、練習参加や試合観戦をする中で気づいたことがあると言う。「めちゃくちゃ個人能力に差があるから勝てていないというわけじゃない。連携面やチームのもっているものを発揮できれば、上位クラブに勝っていけるチームだと感じたんです」。
こちらの質問に淡々と答えていく築地の話を聞いていて、この人は自分が考えていることの言語化がものすごく上手い、とふと感心してしまう。思えば普段のインタビューからそうだ。一見すると感覚派プレイヤーに見えるピッチ上の雰囲気からは、良い意味で少しギャップがある。筆者の安直な推測から、プロのサッカーをよく見るのかと聞いてみたこともあるが、自分のプレーする試合以外はほとんど見ないという。サッカー選手にあっても珍しい話ではないが、どのような環境がそうさせたのだろう、と素直に疑問に思う。
試合前の築地 【早稲田スポーツ新聞会】
次第に思いは変わり、再びサッカーをするようになった築地に転機が訪れた。小学校6年生で、地元静岡のサッカークラブ・東源台FCに入団した時。初めて技術面で自分より優れる選手たちの存在に、愕然とした。「同じ年代でこんなにボールを扱える子たちがいるんだ、とすごく焦って。このままじゃ上に行けない、良い選手になれないと思いました」。U-23日本代表のメンバーとしてパリ五輪にも出場した、柏レイソルのDF関根大輝もチームメイトだった。周囲に感じたのは、尊敬の念ではなく焦燥感。それが12歳の築地を動かした。
東源台FCでの1年間で基礎技術を磨いた築地は、中高一貫のサッカー強豪校・常葉橘中学校に進学。入学後は既にこだわりがあったというポジション、ミッドフィルダーとしてすぐに試合に出場するように。高校に上がっても主力の座をキープし、世代別代表にも繰り返し選出されるようになった。
経歴こそ華々しいが、高校時代の話を聞くと築地はいつも少し苦笑いする。表情の理由は「チーム内でちょっと浮いていた」から。「色々なものを見て、考えた上で行動しているから自分が絶対的に正しい、と当時は考えていて。『勝つためなら当たり前』とか『ついてこない方が悪い』みたいな自分のスタンスを一切ブラさなかったから、どんどん個人主義になるし孤立するし。今思えばあの3年間は子供でした」。
チームの勝利より自分のパフォーマンス。チームスポーツでは御法度とも言うべき考え方だが、当時の築地は大まじめにそう思っていた。それでも築地は「あの時の自分は間違っていた」とは決して言わない。「その年齢の自分らしい、3年間だったかな」。極端なまでの個人主義は、常に自分に矢印を向け続ける、1アスリートとしての築地の基礎を形作ったとも言える。
常葉橘高校時代の築地 【本人提供】
◆築地育(つきじ・いく)
2002年11月13日生まれ。身長161㌢。静岡・常葉橘高出身。スポーツ科学部4年。高校時代は世代別代表に繰り返し選出。昨季からア女の背番号10を背負い、関カレベストイレブンにも選ばれた。WEリーグ・ノジマステラ神奈川相模原に、2025シーズン加入内定。
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