【Xリーグ】格闘家としてプロデビューへ 社会人アメフト胎内DEERSの井上翔太が異種競技挑戦に懸ける思い
その開幕に40日ほど先立つ7月21日(日)、もう一つの新たな顔を披露するXリーガーがいる。胎内DEERS(ディアーズ)所属のワイドレシーバー(WR)井上翔太(慶應義塾大学卒)だ。
総合格闘技でプロデビューを果たす胎内DEERのワイドレシーバー井上翔太(中央) 【X LEAGUE】
「もともと格闘技を見るのは好きで、興味はあったんですが、実際にやったことはなかったです」と井上は言う。これまでにやってきたスポーツは野球、サッカー、そして大学から始めたアメリカンフットボールだ。そんな井上が、格闘家としての一歩を踏み出すきっかけとなったのは3年前の福岡への転勤だった。
転勤がきっかけとなった格闘技挑戦 始めはアメフトのためのトレーニング
「(福岡には)友達もそんなにいないし、暇だったこともあって、変わったトレーニングをしたいと思ったんです。それまでとは違った目線、違った場所で新しい刺激を取り入れてみたいというのもありました」という井上。思い立った後の行動は早かった。その日のうちに現在も所属する福岡市の赤崎道場A-Spiritに電話をし、入会。格闘家としての新たなキャリアをスタートさせた。
グローブを着用してブロックの構えを見せる井上(左) 【赤崎道場 A-SPIRIT提供】
格闘技系のバックボーンのない井上は案の定苦戦する。
「すべてが戸惑いでした。簡単そうに見えるジャブですらできないんです。キックもできなければ、相手と組んだ時に自分より体重の軽い相手にこかされて負ける。今まで味わったことがないくらい体の使い方が全然違う。日常で人を殴ることもないので、距離感がつかめない。自分の攻撃は当たらないのに、相手の攻撃ばかりが当たる感じで、常に練習ではボコボコにされました」と振り返る。
プロスポーツプレーヤーへの憧れ そしてアメフトへの思い
練習相手との間合いを取って構える井上(左) 【赤崎道場 A-SPIRIT提供】
井上を支えるもうひとつの強い思いはアメフトへの貢献である。格闘技を続けることがなぜアメフトへの貢献に結びつくのか。
「僕たちアメフト選手にとってライスボウル(毎年1月3日に行われるアメリカンフットボールの日本選手権)は一番の大舞台。でも、一般の人はあまり興味がないというか、アメフトが日本ではあまり浸透していなくて、それが自分の中で悔しいというか悲しい。アメフトってすごくいいスポーツだし、僕たちも大学で4年間やって、育ててもらったスポーツなので、みんなに魅力を分かってもらいたいなっていう思いがずっとありました」と井上は言う。そこで、自分に何ができるかと考えた末の答えが、衆目を集める大きな舞台に格闘家として自らが出ていくことだった。
「僕が格闘技で強くなって、テレビで放映されるような大会に出て、『(自分は)アメフト出身です』と示すことができたら、『アメフトってどんなことをやっているんだろう』と興味を持つ人が増えてアメフトが広がるんじゃないかと思ったんです」
気持ちの変化とともに結果が伴うようになった格闘技 そしてプロへ
昨年8月に出場した「アマ修斗九州選手権」で準優勝し、2か月後の全日本選手権への出場権を獲得した。全日本選手権は出場して1~2回勝てばプロの権利を得るという事実上のプロテストであり、ここでも準優勝を果たし、晴れてプロになるという目標を実現したのだった。
「(勝てるようになったのは)気持ちの問題が大きいですね。(負け続けていたころは)勝とうと思って試合をやっていたんですけど、それだけじゃなかなか勝てなかった。生きるか死ぬかくらいの覚悟を決めて、殴られてもいいから殴っていこうという気持ちで九州選手権に臨んだら奇跡的に準優勝できました」
格闘技とアメフトの相乗効果
「格闘技を始めて食事に気を付けるようになり、体脂肪も8%くらいにまで落ちました。裸足で練習をするためか、アメフトとは違う体の使い方や動かし方をするので体幹がよくなりました」
それはフィールド上での成績にも表れている。今年の5月11日に胎内DEERSがホームタウンとする新潟県胎内市で行われたXリーグの春季公式戦・Jr.パールボウルトーナメントでは試合開始早々のプレーでいきなりキックオフリターンTDをあげた。井上は同じ試合でパントリターンでもタッチダウンを記録する活躍で、勝利に大きく貢献した。6月16日行われたトーナメント決勝戦でも味方のTDをお膳立てするパスキャッチと、自身によるTDパスキャッチも披露し、要所でエース格の活躍をした。
Jr.パールボウル決勝で胎内DEERSの先制となるTDパスキャッチをきめる井上(右) 【X LEAGUE】
アメフトへの恩返し
「去年の環境は自分を成長させてくれたと思う。大事な試合で負けてしまった責任も感じました。そんな思いを経て今年に臨んでいます」
来季のX1 Super復帰を狙う胎内DEERS 【X LEAGUE】
その夢への挑戦は7月21日、後楽園ホールで鳴り響くゴングとともに新たなステージの幕を開ける。
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