B2参入の初年度にして初の優勝を飾ったアルティーリ千葉

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Bリーグの各チームをコート上での勝敗FMではなく、マーケティングや経営効率、経営戦略、そして財務状況の観点から評価し、そのポイントによってCup Winnerを決めるのが「Bリーグマネジメントカップ(以下、BMC)」です。前回までのB1部門に引き続き、B2部門の分析レポートをお届けします。

アルティーリ千葉がBリーグに新風を巻き起こす

B2部門はアルティーリ千葉(以下、A千葉)が参入初年度ながら平均入場者数、売上高および自己資本比率の3つの指標で1位となるなど、B2トップの集客力と財務力を背景に熊本・佐賀らとの僅差の勝負を制し、初優勝を飾りました。

2020年に創設され、2021年シーズンからB3に参入した新興クラブであるA千葉は、参入1年目でB2に昇格、2022年シーズンは地区優勝を果たすなどFM面で目覚ましい成果を残し、BM面でもB2参入初年度からB2でトップの平均入場者数を記録するなど、Bリーグに新風を巻き起こすクラブとなっています。新興クラブとしての勢いだけではない中長期目線でのA千葉の取り組みが示すクラブ経営の新しい形に注目が集まっています。

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1stクォーター:マーケティング

集客に苦戦する傾向にある下部リーグではBM施策の重要度が高く、B2がビジネス面でB1に肉薄することはBリーグ全体の活性化にもつながるため、目が離せない指標です。

平均入場者数

B2の平均は1,402人で、昨シーズン比+605人(+75.9%)となり、全クラブで本KPIは昨シーズンより増加しました。トップのA千葉で2,192人、2位が長崎の2,003人、いずれもB3からの参入初年度となったA千葉と長崎のみが、平均入場者数で2,000人を上回るという、大変興味深い結果となりました。

2022年シーズン、FM面でB1昇格という結果を出した佐賀は1,985人となりました。2023年5月にはマス席やカップル席、プレミアムラウンジといった幅広い種類の座席が設置された新本拠地の「SAGAアリーナ」の稼働を開始し、前期比+217.9%と大きな集客効果を生んでいます。シーズンを通した好成績を追い風に、年間優勝を決めた長崎戦(2023年5月21日)ではB2歴代最多入場者数となる7,532人がアリーナに足を運びました。クラブ設立から継続してきた学校訪問や地域の清掃活動への参加など地域密着の取り組み、新本拠地を通じた新たな観戦体験の提供、競技での好成績が噛み合い、今回の結果をもたらしたといえそうです。

アリーナ集客率

B2の平均は29.4%で、前年比+10.4Pとなりました。コロナ禍が始まる前の2019年以前は30%を上回る平均を記録していたため、B2に関してはまだコロナ禍からの完全復活とは言い難い状況となっています。本KPIの上位3クラブの顔ぶれ(佐賀・西宮・長崎)がFM面での最終的な戦績の1~3位と完全に一致していることや、下位のクラブはFM面での戦績も不調傾向となっていることから、B1以上に戦績との相関関係が明確に見て取れます。

1位の佐賀は、プレーオフの6試合を新たに建設されたSAGAアリーナで実施しました。従来のホームの3倍以上の収容人数となったにも関わらず、その6試合平均で47.7%と、年間平均に劣らない集客率を記録し、B2初優勝に向けた道のりの熱狂度合が数字にも現れる結果となりました。SAGAアリーナはバレーボールのVリーグの試合やコンサートの会場などとしても使われるほか、水泳場や陸上競技場も隣接していて、地域の一大拠点を形成しています。2023年シーズンには初めてB1で戦う佐賀が、SAGAアリーナに県内外から多くのファン・ブースターを引き寄せ、2022年を上回る集客率を記録することができるか注目されます。

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平均入場者数(人) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

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アリーナ集客率(%) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

2ndクォーター:経営効率

「1勝あたりチーム人件費」と「1勝あたり入場料収入」はFM面の成績によって大きく変動します。経営リソースの限られるB2においては、投下リソースを効率的に勝利へとつなげることができているかが表れる重要度が高いKPIです。

1勝あたりチーム人件費

本KPIは値の絶対値よりも他クラブとの比較における相対的なポジションを確認することの方が有用な指標である点に留意が必要です。B2の平均は、前年比+1.1百万円(+15.2%)の8.6百万円でしたが、本KPIの分母の試合数(勝利数)がコロナ禍による試合中止の回数が低下したことで増加傾向にあると同時に、分子のチーム人件費の平均も前年比+82.1百万円(+48.8%)の250.5百万円と大幅に増加しています。チーム人件費の増加幅が大きいこともありKPIの値は前年比で増加傾向となりました。

1勝を4.7百万円で挙げ最も効率的に勝利を重ねた青森と1勝を挙げるのに16.2百万円を費やした最下位の福岡は、その差約3倍強となっています。

青森は前年比+62.0百万円(+90.3%)の130.6百万円と大幅に人件費を増加させたものの勝利数も前年比+23勝となる28勝を挙げたことで大幅にKPIを改善して首位となりました。それでもチーム人件費の水準はB2の中では2番目に少なく、効率的なクラブ運営を行っていることがうかがえます。最下位の福岡は、前年比+143.6百万円(+79.2%)の324.8百万円のチーム人件費を投下したものの勝利数は前年と同数の20勝しか挙げられなかったことにより、KPIは悪化してしまいました。

本KPIの特性として、チーム人件費を抑えることで値が改善されるため、チーム人件費がB2の中で4番目に少ない山形が本KPIで2位となっている一方で、B2で最も勝利数が多かったA千葉は本KPIで12位となっていて、クラブとしてチーム人件費水準をどのように設定するかというBM施策が、FM面の成績に直結する難しい点であることを、改めて感じさせられる結果となっています。

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1勝あたりチーム人件費(百万円) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

<参考>チーム人件費(百万円) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

3rdクォーター:経営戦略

プロスポーツのクラブ経営においては、競技力の強化が目的で、これまではチーム人件費になるべく多くの資金を投下することが一般的でしたが、人々や地域に支持され、持続的な経営がなされるためには、他の分野への投資も大切です。競技力においてB1との差があるB2においては、競技力以外でのクラブの価値を底上げするための投資も重要です。

SNSフォロワー数

フォロワー数増減において目覚ましいパフォーマンスを見せたのがA千葉で、前期比+23,797人(+140.1%)を記録し、B3からの昇格クラブながらごぼう抜きでB2全14クラブ中7位にまで到達しました。しかも、TikTok未導入時点の数字であり、TikTokアカウントの開設によりさらに増加する可能性があります。A千葉の躍進の背景には、“適材適所” の人材登用の一環で、SNS活用に長けた専門人材を登用し、その力を引き出していることがあると考えられます(詳しくはB2優勝クラブ分析をご覧ください)。

一方で気になるのが愛媛で、基本的に上昇傾向にある本KPIでは異例の前期比▲2,349人と減少を記録してしまいました。入場料収入ではB1随一の規模を維持していますが、SNSフォロワー数はクラブの社会的影響力の代替指標であるとともに、露出の大小を示すことから、パートナーシップ獲得機会の増減につながるKPIであるとも考えられます。引き続き各クラブによる活用の進展に注目です。

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SNSフォロワー数(人) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

4thクォーター:財務状況

ビジネス規模がB1よりも小規模なB2においては、Bリーグのクラブライセンス制度が要請する財務基準の要求を満たすことは、より難易度が高いと思われますが、だからこそしっかりとした成長の基盤を整えることができれば、その伸びしろは非常に大きいと考えられます。

自己資本比率

B2平均は、前年比+15.5Pの▲107.6%となっていて、昨シーズンの▲123.1%から改善されたものの、引き続き厳しい財務体質のクラブが多いことがわかります。債務超過となっているクラブは14クラブ中6クラブであり、自己資本比率が10%未満のクラブも合わせると、半数を超える11クラブが危険水域にあるといえます。

デジタルマーケティングなどを活用したBM施策により新たな収入を得ることや、増資による財務体質の改善などでさらなる財務的な健全性を確保していくことがクラブには求められています。B2においては、全国・世界規模の大企業がメインスポンサーや責任企業となっているケースは少なく、基本的に自らの経営努力によって財務的な改善を推進していく必要があるため、時間もかかると考えられますが」、ライセンスの猶予期間を有効に活用し、最優先で経営基盤の改善に取り組んでいくことが望まれます。

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売上高成長率(%) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

自己資本比率(%) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

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著者プロフィール

デロイト トーマツ グループは、財務会計、戦略、マーケティング、業務改革など、あらゆる分野のプロフェッショナルを擁し、スポーツビジネス領域におけるグローバルでの豊富な知見を活かしながら、全面的に事業支援を行う体制を整えています。またコンサルティング事業の他、国内外のスポーツ関連メディアへの記事寄稿などを通し、スポーツ業界全体への貢献も積極的に行っています。

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