【ラグビー/NTTリーグワン】花園L、悲願の今季初勝利。 歓喜を呼んだ若武者の堂々たるステップ<花園L vs BR東京>

花園近鉄ライナーズ 河村謙尚選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
花園L 34-23 BR東京


「もう少しでチームは殻を破るところまできています」。向井昭吾ヘッドコーチがずっと口にし続けていた選手たちへの信頼感が、ついに結実するときがやってきた。

花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)は雨混じりの中で駆けつけた2,479人の観客の前でリコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)に34対23で快勝。14試合目にして今季初勝利をつかみ取った。

「やってきたことが間違っていなくて、みんなにだんだん染みついてきている」と向井ヘッドコーチは地道に積み上げてきた努力に満足感を口にしたが、指揮官の起用がズバリ的中した一戦でもあった。

前節で脳震盪の疑いがあったウィル・ゲニアがピッチに立てず、スクラムハーフとして白羽の矢が立ったのは今季初先発となる河村謙尚だった。

名古屋市生まれの河村は、ラグビーをする環境を求めて、中学時代は東大阪市で過ごし、東大阪市花園ラグビー場からわずか2km離れた、枚岡中学で楕円形のボールを追い続けた。

憧れの“聖地”で花園Lの選手としては初となる背番号9をつけてピッチに立った24歳の若武者は堂々たるプレーを見せつける。

胸に刻んでいたのは、ともにピッチに立ったクウェイド・クーパーから送られたアドバイスである。

「今週、彼と(中村)友哉に伝えたのは『バックスはゴール前にいったときに、もっとその場面を支配しろ。自信をもってやればいいから』ということです」(クウェイド・クーパー)。

その言葉どおり、前半24分と同37分に花園Lが決めたトライに河村は絡んだ。そして、試合を決定づけたのは彼自身のトライだった。

後半3分、BR東京にペナルティゴールを許し、再び追いかける形になった花園Lだったが、後半6分、バックスが踏ん張ってゲインした流れからボールを受けた河村が、華麗なステップを踏んで逆転のトライに成功する。

左利きという武器に加えて、常翔学園高校ではバックスのさまざまなポジションを経験。「しっかりと前のスペースを見ることができているのは、高校時代の経験が生きています」と河村は胸を張った。

中学時代の友人も足を運んだ場内で、堂々たる9番としての姿を見せた河村。台頭中の中村に続いて、河村もまたウィル・ゲニアの後継者になりうる資格を持つことを雄弁にそのプレーで語ってみせた。

(下薗昌記)

花園近鉄ライナーズの向井昭吾ヘッドコーチ(左)、野中翔平キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ

「今日は雨なのでやっぱりエリアマネジメントが重要になったのと、ボールも踊るので、ミスも多くなるだろうと考えていました。そこでの反応が重要になってくるだろうなというところで、選手はそれに対応してよくやってくれたと思います。セットピースも非常に安定していて、ラインアウトも1本ミスをした以外はしっかりボールをキープして、そのあとは少しバックスのほうでミスもありましたけど、よく耐えてくれました。今日はフォワードの頑張りによる勝利だと思っています。できなかったところをまた修正して、次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に向かっていきたいと思います」

――今季初勝利おめでとうございます。先ほど、『雨の試合なのでエリアマネジメントが重要』と話がありました。もう少し詳しく戦略的に変更した点について教えていただけますでしょうか?
「いや、特に変更はないですけど、やはり敵陣でボールを持ち続けると、相手もペナルティを犯しますし、敵陣にクギづけにして、私たちがディフェンスし続けて、相手が攻めてくるときに激しく奪いにいくと、ミスを起こしやすいので、敵陣にい続けると得点に絡みやすいというところはありました。その辺はやっぱり意識していました」

――前節、テーマとして最後まで動き続けられるかというところを話されていましたが、今日の評価についてはいかがでしょうか?
「今日、試合が終わったあとの選手を見ていただいたら分かると思いますけど、ひざをついている選手もいました。それがオールアウトの証だと思っています。オールアウトを出した次はまた、101%を出せると思うので、今日はオールアウトできたのではないかと。今日は相手よりそこが上回ったと思います」

――スクラムハーフの河村謙尚選手は今日が今季初スタメンでした。起用の理由と今日の評価を聞かせてください。
「最後のほうは足がつっていましたが、それはやっぱりそこまで動き続けたということだと思います。そして、彼の特徴は左足なので、相手からすれば右に10番の(クウェイド・)クーパーがいて、左に彼(河村)がいるというところで、キックのポジションが二つあるところについては、エリアを押し返すための戦略として使うことができました」

――向井ヘッドコーチは「もう少しで殻を破るところまできている」と話されていて、今日実際に初勝利を挙げたことでチームは殻を破ったと思います。積み上げてきたことの何が結果につながったのでしょうか?
「クウェイド(・クーパー)がいなくなると、みんながあわてるようなチームだったのですが、今日は(クウェイド・クーパーとの交代で入った)岡村(晃司)が10番を普通にやってくれました。選手はやってきたことを普通にやればできるし、試合を作れることを勉強できたというか、非常に成長しているところだと思います。この経験はやっぱり、実際のゲームのプレッシャーが掛かっている状況でないと得られません。こういうところが成長して、なおかつラグビーの基本の基本であるセットピースが安定しつつあることは、進化の証明だと思います」

――向井ヘッドコーチの指導でチームの課題が確実に変わってきている中で、それがなかなか結果に結びついてこなかったところもありますが、率直に今日の勝利についてはどのように感じられていますか?
「最後にハドルを組んで選手が『おめでとう』と言ってくれた中で、私のトレーニングの話が出てきたりとか、そこを思い出してゴール前でみんなが粘ってくれたりとか、そういう話がありました。それに関しては、やってきたことは間違っていなかったと思っていますし、みんなにだんだん染み付いてきているところについては、(私の)思いが伝わっているのかなというふうに思っています」

――今季初勝利の感想を聞かせてください。
「非常にうれしく、『ありがとうございました』という思いです」

花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン

「今日の試合は、特にフロントファイブですね。先ほどヘッドコーチからも話があったように、セットピースの安定や、自分たちの基礎となる部分を前の5人が作り上げてくれたので、試合としてすごくラクに進めることができました。勝って反省することをずっとしたかったのですが、それをやっとできます。でも、勝ってもまだ反省すべきところがあるのは伸びシロでもあると思っているので、今日はしっかり喜んで、また明後日から次の勝ちに向けて進んでいきたいと思います」

――後半、1点差に迫られた時間帯で、今までの課題でもあった試合終盤の戦い方について、どのようにマネジメントを意識されたのでしょうか?
「特に僕が話すこともなく、敵陣に入ること、ボールキープを敵陣ですることを各セクションのリーダーが話し合えていたので、本当にみんなで同じ絵を描けているなという感覚でした。それによって、結果的にやり切れたのかなと思います」

――今季初勝利の感想を聞かせてください。
「勝ったけど、まだ成長の余白がある。それが一番うれしいです」

――前半、相手に先行されて苦しい展開だったと思います。そこから立ち直れた要因を教えてください。
「もう、やることが明確だったというところですね。修正点を各ディフェンスだったり、アタックだったり、リーダーが話して、それをみんなも分かっていたという雰囲気があったので、徐々に徐々にチームとして成熟していっていると感じています」

リコーブラックラムズ東京のピーター・ヒューワット ヘッドコーチ(右)、マット・マッガーン選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

リコーブラックラムズ東京
ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ

「まずは花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)さんに『おめでとうございます』とお伝えしたいです。今日は本当に必死さというか、そういうところを見せて勝利したと思います。最初の20分間は自分たちのプランどおりに進んでいたと思っていましたが、そこから簡単なペナルティを与えてしまって、それがそのあとの相手のトライとかにもつながりました。あとは後半の20分から40分の間は自分たちにとってダメージが大きかったかなと。勢いのところでモメンタムを作られたと思いました。フォワードのところでは、セットピースバトルも今日は花園Lさんが勝ちましたね」

――今日、先発起用の南昂伸選手はずっとパフォーマンスが良くて、もっと長い時間プレーを見たいと感じました。
「そうですね、もっと長い時間プレーする資格があると思います。9番がいいパフォーマンスをするためには、やはりセットピースの質が重要になってきます。スクラムでプレッシャーが掛かったりしていた中ですごくハードに頑張ってくれたと思いました。ちょっとまだ来週(先発か)どうなるかは分かりません」

リコーブラックラムズ東京
マット ・マッガーン選手

「こういうちょっと雨が降っている日は、何をするかというよりは、どのようにするかが大事ですが、60分間相手がすごくレベルの高いアティチュード(姿勢)を見せ、シンプルなことを高いレベルでやり続けていました。こういう日にどのようにすべきなのかというのを見せられたと思いました」

――難しかった部分はたくさんあると思いますが、プレーしていて一番うまくいかないなと感じた部分を教えてください。
「ディシプリン(規律)のところです。こういう日はどうやって戦うかが大事ですし、ディフェンスで一歩下がるとか、タックルに高くいかないとか、そういうちょっとしたことが少しずつ積もっていきます。(グラウンドが)ドライな日であればそんなに大きな問題にならないかもしれないですけど、今日みたいな日はそういったところがかなり効いたと思います」

――セミシ・トゥポウ選手にイエローカードが出たあとは粘って相手に食らいついた印象を受けましたが、メンバー間のコネクションや、姿勢の部分など、我慢していくためのムードを作るためのコミュニケーションは取っていたのでしょうか?
「イエローカードを受けたあとの時間帯はうまくマネジメントできたと思います。ショートラインアウトでスイッチオンしなくて前に入れられたりとか、やはり(雨の日の)やり方が今日は一番うまくいかなかった部分ですね」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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