その背中ゆっくりと眺めよう。 2024.04.07 サンフレッチェ広島vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

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【その背中ゆっくりと眺めよう。 2024.04.07 サンフレッチェ広島vs湘南ベルマーレ マッチレビュー】

【これはnoteに投稿されたぺんさんによる記事です。】
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置 【ぺん】

各ポジションの噛み合わせ 【ぺん】

■試合の振り返り

 暖かな春の陽気を迎える中、広島で今年オープンした新スタジアム、エディオンピースウイング広島でキックオフ。湘南はヴェルディ戦に引き続きスタメン発表時では並びの予想がつかないメンバー。しかし蓋を開けてみれば奥野が控えにまわって田中がアンカー、大岩が左CBに入る以外はヴェルディ戦と同じ並び。一方の広島も3日前に戦った町田戦の途中(3バック中央を務めていた荒木の負傷交代後)と同じ配置で、中野が3バックの真ん中、新井が右WBに入る。今シーズン広島へ移籍した大橋は元気に1トップでスタメン出場した。

 試合の序盤、湘南はシンプルなフィードを前線に送る。ルキアンはおおよそ五分のボールであっても、マークにつく中野に対してフィジカル的な優位を活かしてボールを収める。その結果、広島のラインを押し下げて攻め込むシーンを作った。13分には中野がフィードの処理を誤りルキアンが抜け出す。ボックス内へ侵入後に倒されたがノーファールの判定。



 広島の中盤2枚は川村が後ろで松本が前といった役割分担。川村に対しては2トップが監視下に置き、松本は逆サイドのIHかアンカーの田中が気にするような位置関係。広島のシャドーが前線にいる時間帯は湘南がうまく守れていた。
 湘南が広島陣内に押し込んだ際はシャドーも自陣まで戻るため、前線は大橋1枚のみ。その場合は後ろ3枚残る必要がないため、雄斗が優先的に上がる。26分のシーン、福田が裏に走って深さを作り、遅れてきた雄斗がフリーでクロス。ボールはクリアされたがファーで複数人待っており、合えば一点の好機を演出した。


 32分は広島のカウンター。松本・川村の両方を空けてしまい、左から右へ横断するようにボールを進められる。新井のクロスを大橋が落とし、満田のシュートはボムグンがセーブするが、こぼれ球を東がプッシュ。ゴールライン際で雄斗がぎりぎりクリア。続く33分、広島が段々と形を見つけ出す。加藤・大橋が降りて湘南守備陣を引き付けたところ、松本が前線まで駆け上がる。このシーンではパスが通らなかったが、通っていたら大岩と1vs1の場面だった。このあたりからシャドーが降りて田中を引きつけ、松本が斜めに動いてフリーになるシーンが作られ始める。
 38分、ボールホルダーは松本で、池田の背後に左WB東が移動。左CBの佐々木がタッチライン側に立って岡本を引き付ける。田中は降りてきた満田を捕まえているため、東は余裕を持ってパスを受け、満田を前向きにさせるパスを届けた。構えていた湘南守備陣を一気に押し込む循環だった。
 39分も池田の背後を松本が使う。パスを通せる佐々木もすごいが、池田のポジショニングが気になるところ。40分も同様に降りた加藤に池田の背後を使われる。雄斗はその状況に問題意識を持っているような素振りを見せ、周囲に改善を促している。

 41分は湘南の左サイドからチャンス。平岡と畑の位置交換を経て、ルキアンにあえば一点のクロスは佐々木が決死のブロック。流れたボールに反応した岡本から池田にクロスが出るが、寸前で川村がクリアする。
 42分には密集を大橋が突破、抜け出した満田がボックス内で切り返して大岩をかわしシュートを放つがボムグンがセーブ。

 45分、またも松本に自由を与え、左右にサイドチェンジされる。だがシャドーが前線にとどまったままのため中央のスペースは塞いだまま。ブロックの外を使われる分には大きなピンチにならない様子。
 前半終了間際、広島のコーナーキック。広島の選手がヘディングで合わせゴールに向かったボールは田中がゴールライン際でクリア。なんでそこにボールが飛んでくると予測できたのかもわからないし、反応が間に合って的確にクリアできるのかもわからない。野生の勘と呼ぶほかない。田中のファインプレイで前半はスコアレスで折り返す。



 ハーフタイムに両チーム交代。広島は新井に代わって越道。湘南は池田に代わって鈴木章斗。どちらもポジションはそのままに人だけが入れ替わる。湘南は攻略されかけていた守備陣にハーフタイムでどのような修正をかけたのか気になるところだったが、後半開始直後にGKソンボムグンが大橋へのファールで一発退場&PKの判定。ボールへのプレイではなく手で進行を妨げてしまったために三重罰軽減もなかった。
 そのPKを倒された大橋自身がゴール中央に蹴り込んで1-0。広島が先制する。なおPKを蹴る前のタイミングで湘南は岡本と平岡を下げてGK馬渡、奥野を投入。4-4-1に変更する。頂点にルキアン、右SHに章斗、左SHに福田。DHが奥野と田中。右SB鈴木雄斗、左SB畑、CBにミンテと大岩。GKが馬渡。馬渡は今シーズン初出場。



 その後は一人多い広島がボールを支配してシュートの雨を降らせるが、シュートミスと馬渡の好セーブによりスコアは1-0のまま。湘南は最後の希望を残したまま最終盤を迎えるが、前がかりになったところを大橋が抜け出し、追い縋るDFとGKが届かない場所へ冷静にシュートを沈めて2-0。湘南は万事休す。
 大橋から手痛い恩返し弾を2つも食らった湘南は敵地で敗戦。今シーズン初のミッドウィーク開催で戦った3連戦はセレッソ大阪、東京ヴェルディ、サンフレッチェ広島に3連敗となった。


■遅れてくる主役

 この試合の湘南はかなり縦への意識が強い印象で、横パスを繋ぐことがほとんどなくWBやFWはDFライン裏へのスペースを狙っていた。ルキアンは精力的にスペースへの斜めのランニングでボールを引き出していたし、畑は対面する新井を相手に、スピードと当たりの強さを生かして縦へ縦へと繰り返し仕掛けていた。近くにいる平岡も外から内へ向かって仕掛け、ドリブルでボックス内に侵入するシーンが複数回見られた。

 そして気になったのは右CBに入った雄斗のボール保持時の立ち位置。右サイドから中央にかけてポジションを取り、後ろにミンテと大岩を残してさながらリベロのようだった。この試合の人選と振る舞いを掛け合わせて考えると、この日の湘南の狙いは以下のようなものだったのではないか。

前線で相手を押し込み、遅れてきた主役が好機を演出する仕組み。ラグビーのナンバーエイトのような役割だろうか。 【ぺん】

 まず広島はボール非保持の際にシャドーも自陣に戻るため、前線に残るのは1トップの大橋のみ。これにより相手より1枚多く残す守備原則を考慮しても3バックでは1枚余る。したがってCBが本職のミンテと大岩を残せば、雄斗は攻撃参加しても問題ない状況が生まれる。
 続いて縦に早く強いベクトルを見せたプレーたち。起用された選手たちの得意なプレーがそれというのもあるが、高くて強い広島守備陣を相手に単発のアタックで崩し切るのは難しいだろう。だが押し込んだ後に組み立て直すのは容易ではない。ではどうするか?

 そこで雄斗の登場である。相手の守備陣形を押し込んだ後にフリーで遅れて攻め上がってくる雄斗に対し、広島の選手は慌てて飛び出してくるはず。それによって生じたズレを使って崩しに入るか、そのまま相手の目線を動かすクロスを供給するか、といったように広島守備陣を攻略するのを狙っていたのではないだろうか。
 それがピッチで表現されたのは26分のシーン。雄斗がファーに上げたクロスは新井のクリアでコーナーキックに逃れられたが、ファーサイドへ走り込むルキアンと畑、DFのクリアに反応してミドルシュートの準備をする池田と平岡の姿があった。広島を相手に昨季J2アシスト王のクロスを生かしゴールを陥れる方法としては、良く練られたものかと思う。
 なおハーフタイムで池田に代わって章斗が投入されたが、クロスが上がる場面で相手の脅威となる上、池田と同じく離れた位置からでもゴールを狙える選手としてのファーストチョイスだったのかもしれない。


■広島がペースを握った形

 試合としてはボムグンの退場により戦況は大きく変わってしまったが、あの一連のプレーがなかったとしても、広島はいずれ湘南守備陣を破っていただろうな、というのが筆者の印象である。というのはヴェルディ戦から引き続き、池田の背後のスペースを使われてチャンスを作られていたからだ。

 前半の30分ごろまでは広島が狙いを持って湘南の守備を攻略した、というよりは個々の場面で質の高さを見せつけてゴールに迫るというシーンが多かった。しかし30分過ぎたあたりからシャドーである満田と加藤が中盤まで降りてプレーし始めると状況が変わり始める。それまで松本をケアしていた田中の周辺にもう1枚やってくるため(それが要注意選手でもあるため)、田中は松本ではなくシャドーのケアを優先。その結果、松本がフリーで池田の背後にあるスペースを使うことが出来ていた。38分には佐々木、東、松本がポジションを循環移動してマーカーの目線を動かし、湘南陣内へ侵入に成功していた。

広島が湘南守備陣にズレを作った形 【ぺん】

 これはシステムの構造上空いてしまう位置なのは仕方ないため、これまでは池田の技術や田中の根性によって塞いできた場所なのだろう。しかし連戦によるコンディション面の問題があったのか、背後の空間を使われるシーンが目につき始めているのは気になるところだ。

 退場によってシステムが変更となりプレスよりも撤退を優先し、中央を田中と奥野の2枚で埋めるようになったことでスペースが縮小。広島の攻撃は大外を使ったクロス攻撃が中心になっていった。それでも決定機は作られていたが、退場者が出た後半でもある程度耐えられていたのは、中盤の構成が(半強制的に)変更になったことが理由だろう。





 最後に、湘南の希望こと石井久継。筆者としてもプレーをもっと見たい選手ではあるのだが、現在起用されているのは守備に重きを置いていない状況に限られる。守備の面で課題があるのかもしれないし、J1の舞台で輝きを放てる場面はまだ限定的なのかもしれない。
 彼がのびのびとプレーできる時間を多く作るためにも、先輩たちは多くのリードと勝ち点を稼いでもらいたいと思う次第である。



試合結果
J1リーグ第7節
サンフレッチェ広島 2-0 湘南ベルマーレ

広島:大橋(52',90'+6')
湘南:なし

主審 上田 益也
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