【浦和レッズ】言葉の端々に滲むマリウス ホイブラーテンの自覚と責任感「コーチ陣とチームの架け橋に僕はなりたい」

浦和レッドダイヤモンズ
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【©URAWA REDS】

 サッカーの取材で中東を訪れると、現地の人たちから「ウラワ!」と声をかけられる機会があるが、もしかしたら近い将来、北欧でも似たような状況になるかもしれない。

 少なくともノルウェーのサッカーファンの間では「ウラワレッズ」の名が浸透しつつあるという。

 ノルウェーリーグで得点王に輝いたデンマーク出身のキャスパー ユンカーが2021年に加入したのを皮切りに、昨シーズンにはマリウス ホイブラーテン、今シーズンはペア マティアス ヘグモ監督やモルテン カルヴェネスコーチ、さらにはノルウェー代表のオラ ソルバッケンと、ノルウェーにゆかりのある選手・スタッフが続々と浦和レッズの一員になったからだ。


 現地での報道について、マリウスが明かす。

「マティアス監督はノルウェーで最も有名な監督のひとりですからね。ノルウェーのサッカーシーンでは、浦和の結果がすごく注目されていますよ。Jリーグのニュースも増えていますし、監督のインタビューも出たりしています。

 僕もノルウェーメディアからインタビューされたんですけど、『Jリーグのレベルはノルウェーリーグよりも高い』という話を正直にしています。マティアス監督のもとでタイトルが獲れれば、浦和レッズへの関心がさらに増すでしょうね」

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 Jリーグのレベルに関しては、アレクサンダー ショルツも「Jリーグは過小評価されている」「とてもハイレベルだ」と語っていたし、マチェイ スコルジャ前監督も「Jリーグは上位と下位のレベル差がなく、非常に競争力が高い。残留争いをしているチームでも普通にプレスを掻い潜るし、ビルドアップもしっかりしている」と驚いていた。

 マティアス監督やモルテンコーチ、マリオ エドゥアルド チャヴェスコーチ兼分析担当ら、北欧から日本にやってきたコーチングスタッフ陣も今まさにJリーグを体感し、急ピッチで学んでいる最中のようだ。

「ノルウェーに比べてJリーグはインテンシティが高いですし、技術レベルや戦術レベルも高いと感じます。そのことはマティアス監督たちも認識していて、アダプトしている最中です。彼らは常にハングリーですし、かなりのエネルギーでJリーグを分析し、チームを良い方向に導こうとしています。


 僕はすでに1年、Jリーグを経験していますから、有益な情報を監督たちに伝えようと、日々コミュニケーションを取っています。彼らとチームの架け橋としての役割も僕には求められると思います。加入2年目ですからね。自然と、そうした責任感が湧き上がってきています」

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 新コーチングスタッフを迎えた24シーズン、浦和レッズは開幕4試合を終えて1勝2分1敗の成績で、明治安田J1リーグ12位の位置にいる。スタートダッシュに成功したとは言いがたく、「この結果には誰も満足していません」とマリウスは表情を固くした。

「ホームで戦った東京ヴェルディ戦は勝たないといけない試合でした。先日の湘南ベルマーレ戦も観ている人にとっては面白いゲームだったかもしれませんが、僕たち守備陣にとってはアンハッピーです。4失点は多すぎますね。4得点はポジティブに捉えていいですが、もっとゲームをコントロールしなければいけません」

 チームはこれまでの4試合で7得点をマークした一方で、8失点を喫している。今シーズンは攻撃的なスタイルに取り組んでいるとはいえ、昨季はシーズンを通してリーグ最少となる27失点の堅守を誇っただけに、守備陣がストレスを溜め込んでいることは想像にかたくない。

 マリウスはその“攻撃的な姿勢”がチーム全体に浸透し切っていないことが、失点が多くなっている一因だと指摘する。


「ミスをしない、1対1で負けないということは大前提ですが、そのうえで失点シーンを振り返ると、チーム全体が引きすぎている点が挙げられると思います。我々が目指しているのはボール保持・非保持に関わらず、ゲームを支配すること。攻撃でも守備でも、より相手陣内でゲームを進めなければなりません。どのようにプレッシャーをかけにいくかをチーム全体でさらに共有し、確固たるものにしていく必要があります」

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 変わったのはスタイルにとどまらない。それに基づいてフォーメーション、選手たちの立ち位置、それぞれの役割も変化した。

 4-2-3-1から4-3-3へ――。中盤の形が三角形から逆三角形に変わっただけ、という単純な話ではない。攻撃の組み立て方やプレスの掛け方、守備ブロックの築き方も変われば、サポートの仕方や角度など、ディテールを見れば大きく様変わりしており、チームは今、産みの苦しみを味わっている。

「スタッフも変われば、サッカーも変わりました。選手たち全員が同じ考えを共有するまでには時間を要します。ただ、今は変化の時期なので、必要な時間でもあります。僕自身はこれまでのキャリアにおいて4-3-3でプレーする機会が多かったので、慣れたシステムです。たしかに、全体が引いているときは昨シーズンのようにボランチがふたりいたほうが、僕たちセンターバックの前にシールドをしっかり作れるので、堅いと思います。


 それに対して4-3-3は前に人が多いですよね。非常に攻撃的なシステムなので、その分、守備においても攻撃的にいかなければいけません。よりシャープなプレスをかけて積極的にボールを奪いにいく必要があります。ただ、チームは今、毎日学習していて、いい方向に向かっています」

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 変化と言えば、ショルツの離脱に触れないわけにもいかないだろう。

 第3節の北海道コンサドーレ札幌戦の前半終了間際、ショルツは負傷交代を余儀なくされた。右ハムストリングの負傷により、浦和はしばらくの間、ディフェンスリーダーを欠いて闘わなければならない。

 最高の相棒を失ったことに関して、マリウスはどう感じているのだろうか?

 その質問に対する答えに、マリウスの人間性が表れていた。

「ショルツが浦和にとって大事な選手であることは間違いありません。ただ、今はいない選手について語るより、いる選手について語るべきだと思います。(佐藤)瑶大のことです。

 瑶大はプレーがエネルギッシュで、熱いスピリッツの持ち主です。常に笑顔で、学ぶ姿勢もあります。攻撃で違いを生んでくれる選手で、セットプレーでも相手にとって脅威になり得る素晴らしいセンターバックです。次の試合でも瑶大はショルツの不在を補ってくれると思います」

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 ガンバ大阪から加入した佐藤は初先発となった湘南戦で4失点を喫し、「攻撃があれだけ点を獲ってくれているので、責任を感じています」とショックを隠せなかった。そんな佐藤と一緒に、マリウスは湘南戦をじっくりと見返した。

 そこで浮かび上がったのは、コーチングにおける課題だ。

「ゲームをコントロールしていたのに、なぜ、一瞬であのような失点シーンが生まれてしまったのか、瑶大と話し合いました。センターバックの我々は全体を視野に捉えられているので、もっと指示を出してポジションを修正させたり、球際で強く行かせたりするような声がけが必要でした。

 瑶大とはトレーニング中も常にコミュニケーションを取っています。僕自身、昨シーズンはショルツに助けてもらいましたから、瑶大をサポートしていきたい。僕たちのコンビはこれからどんどん良くなっていきますよ」

 湘南戦後に与えられた3日間のオフではしっかり休んだあとで京都に出かけ、日本の文化に触れてエネルギーを充電してきた。

「タフなスタートになりましたから、いいタイミングでリフレッシュできました。次のアビスパ福岡戦に向けて、気力がみなぎっています」

 おそらく昨シーズンは新しい環境にアダプトすることに心血を注いでいたに違いない。Jリーグベストイレブンという勲章を得て、来日2年目に入ったマリウスの言葉の端々には、中心選手としての自覚と、チームを背負っていく責任感が滲んでいた。


 シーズンはまだ始まったばかり。新たなディフェンスリーダーとして、巻き返しのキーマンとなることを期待したい。

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(取材・文/飯尾篤史)
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著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

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