【Beyond the Spotlight】コベルコ神戸スティーラーズ 藤 高之チームマネージャー
マネージャーとリクルート。二刀流スタッフとしてチームを支えて20シーズン
チーム愛に加え、人柄の良さもあり、選手、コーチ陣、スタッフから絶大な信頼を得ている藤チームマネージャー 【コベルコ神戸スティーラーズ】
同期の増保氏のひと言でチームマネージャーに
「膝を負傷していて手術をしました。肉体的に限界を感じて、2003-04シーズンをもって引退することにしました。引退後は家が大阪ということもあり、上司と相談して大阪支社へ転勤することになっていたんです」
――チームスタッフを務めることになったのは、どういう理由からなのでしょうか。
「同じタイミングで同期の増保(輝則 現アドバイザー)も引退し、2004-05シーズンからチームの監督に就任することになりました。すると、増保から『手伝ってほしい』と言われて。同期のお願いですし、『なんでも手伝うよ』と答えたら、マネージャーになってほしいと言われて。てっきり大阪支社で働きながらチームの手伝いをするものだと思って気軽に答えたのですが、今のラグビーセンターの前身であるラグビー部支援室に異動することになり、チームマネージャー(当時はアドミニストレーター)をすることになりました。引退後は社業に専念するつもりだったので、まさかこんなにどっぷりとラグビーに携わることになるとは思ってもいませんでしたね」
大阪工業大学高校(現常翔学園高校)から明治大学を経て、1994年4月神戸製鋼ラグビー部へ。現役時代はフッカーとして活躍。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
チームを強くしたい!その思いからリクルートも担当
「リーグワンがスタートしてからイベント担当、普及担当、広報担当といった感じで、業務が細分化されていますが、私がチームスタッフに就任した当時はそうではありませんでした。チームプロデューサーの藪木(宏之)さん、チーフアドミニストレーターを務める福本(正幸)さん(現チームディレクター)、そしてアドミニストレーターの白原(真菜美)さん(現チーフアドミニストレーター)、マネージャーの(白原)翠さん(現アドミニストレーター)の5人で、予算管理、遠征手配、広報、普及、イベントなど、チームの運営に関わるすべての業務を行っていました。その中で、私は福本さんのサポートをしながら、採用にかかわるようになりました。チームを強くしたいという気持ちがあったのですが、私は選手を指導するわけではありません。それならば、増保が必要とする選手を獲得することが強化の近道だと思い、増保とコーチを務めることになった同期の中道(紀和)と3人でミーティングを重ねながら、どのポジションにどういう選手が必要であるかなど話をして、大学へ行って監督や学生に会うなどしていました」
――今はどのような業務をされているのでしょうか。
「今はラグビーセンターのチーム運営グループ グループ長として選手、コーチ、スタッフ総勢80名のマネジメントとリクルートを担当しています。ほとんどのチームがマネージャーとリクルートは、担当者が違いますが、私はマネージャーをしながらリクルートを行うメリットは大きいと思っていて。というのも、マネージャーとしてヘッドコーチをはじめ、コーチ陣と常に行動を共にしていますので、必要としている選手のことは容易に理解できますし、グラウンドに出て練習を見ているので、学生にチームの雰囲気などをしっかり伝えることができます。ただ、マネージャーとリクルート、両方の業務を行うのは負担が大きくなってきましたので、リクルートに関しては2016-17シーズンから平田(貴博)、2022-23シーズンから松井(祥寛)にサポートをしてもらっています」
『謙虚』がリクルート担当としてのモットー
「まったくなかったので、チームスタッフに就任後すぐに全国の大学へ挨拶に伺いました。それで顔を覚えてもらって監督をはじめ大学関係者と連絡先を交換して。もちろん、その後も大学には定期的に顔を出すなどし、挨拶回りは欠かさず行っていますね」
――そうやって人脈を広げていかれたんですね。リクルート担当としてのモットーがあれば教えてください。
「リクルートにかかわるようになってすぐ、当時GMを務められていた平尾(誠二)さんから『謙虚でいなさい』と言葉をかけられたんです。リクルート担当として学生に会う際、上から目線ではなく謙虚な姿勢で接するように言われて。実際、平尾さん自身も学生と話をする時は必ず敬語を使っていらっしゃいました。『謙虚』は常に意識しています。それもあって、大学のグラウンドで練習見学する時は、雨が降っていても、どんなに長時間であっても、平尾さんの『謙虚でいなさい』という言葉を実践して、立って見学するようにしています。これは平田や松井にも伝えて、見学の際は立っているよう徹底しています」
――そのほかに平尾GMから言われたことで印象に残っていることはありますか。
「リクルート関係で『僕が役に立つなら、いつでも使ってくれ』と言ってもらったことが印象に残っています。それもあって、学生のご両親に会う時は、たとえ遠方であっても一緒に同行してくださいました。平尾さんの力添えもあり、2007-08シーズンは11選手の加入が決まりました。平尾さんの影響力や存在というのは、とても大きかったです。選手時代は、ほとんど平尾さんと話したことがなかったですが、マネージャーをするようになってからは毎日のように一緒にいて、いろいろな話をしていただき、多くのことを学ばせていただきました」
辛い時期を乗り越えて掴み取った優勝
「僕個人としてもチームとしてもあまりにも失ったものが大きくて…。2015年秋頃から平尾さんは体調を崩されてクラブハウスに顔を出されなくなったのですが、当時のラグビー部支援室の水上(孝一)部長と一緒にGMの業務をやりながら、自分の仕事をしていました。今、振り返ると、その時期が精神的にもきつかったですし、チームとしても大変でした」
――反対に一番嬉しかったことというのは。
「2018-19シーズンの優勝ですね。平尾さんがお亡くなりになって、そういう辛い時期を乗り越えて勝ち取った日本一だったので感慨深いものがありました。それに、そのシーズン、総監督に就任したウェイン・スミス(現ラグビーコーチメンター/チームアンバサダー)は、マネジメントの部分で要望がとても多くて。これまでの外国人指導者は、マネジメントの面ではチームや神戸製鋼所のルールに従ってくれて、その上で選手をコーチングしていました。けど、ウェインはそうではありません。例えば、遠征の際、なぜ団体で移動しなくてはいけないんだと。みんな、大人なのだし、海外では現地集合が当たり前だと。この件については、団体行動なら駅からホテルまでバスで移動できるところが、単独行動することで1人1人のタクシー代など交通費が膨らみます。またホテル側もバラバラにチェックインされると手間がかかります。そういうことをきちん説明したら、ウェインは納得してくれて。移動の件はほんの一部ですが、そういうことがたくさんありました。選手がプレー映像を編集するためのパソコンが必要だとか、こういうソフトを導入しないといけないとか、いろいろとリクエストが多かったのですが、ウェインは強いチームを作るためのやり方を提案してくれています。それを理解していたので、ウェインのことを信じて、何度も話し合いをして、可能な範囲で変えていきました」
クラブハウスにあるマネージャールームでデスクワーク。「パソコンを開けたらメールが100通以上届いているということは日常茶飯事ですね。あと、選手がやってきて、相談を受けることもありますし、毎日があっという間に過ぎてしまいます」と笑うも、その表情には充実感が漂う。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
ウェイン・スミスの手腕を信じて
「確かに増えましたね。ただ、ウェインについていけば強くなれると信じていましたから。ほかにも、グラウンドで映像を見るためのモニターを置くカートがほしいといわれたり、スタンドをチームカラーである赤に塗り替えたいと言われたりしました。ウェインの素晴らしいところは、そういう仕事を業者に丸投げしないんです。スタンドは自分たちで使うものなのだからと言って、選手やスタッフの手でやろうと。それもあって2018-19シーズンは、毎日のようにホームセンターに行って、DIYに明け暮れた1年だったように思いますね(笑)」
――その甲斐があって15シーズンぶりの優勝することができたと。
「ウェインの手腕は素晴らしかったですね。パソコン導入の件も、最初は予算的に無理だと言っていたんですが、実際に導入したら、選手が自分のプレー集を作ってきて、それをもってチームミーティングに臨むので、人任せでなくなるんです。ミーティングの質がぐんと上がりましたし、外国人選手やプロ選手は神戸製鋼所で何を作っているのか知らないのでウェインは工場見学をしようと提案してくれて。そういう活動があり、チームはひとつになっていきました。世界的な名将と言われる人物と仕事をしたことは良い経験になりました」
チームが勝つことが何より嬉しい!
「チームが勝つことですね。あと、リクルート担当として付け加えると、自分が声をかけた学生が活躍してくれることにもやりがいを感じます。ただ、学生に断られた時の悲しみといったら…。毎回、大好きな彼女に振られたようなショックを受けます。学生とはLINEでやり取りをしているのですが、電話がかかってくる時は、断られるか、入団を決めたか、どちらかなんですけど、『別のチームに入団することに決めました』と言われた時は、本当に落ち込みますね」
――今と昔で学生がチームに求めているものは変わってきているのでしょうか。
「今も昔も学生によって求めるものは違います。自分のポジションにどういう選手がいるのか。入団してすぐに試合に出たいと思っている学生は、同じポジションに日本代表や外国人選手がいると断ってきますし、反対にすぐに試合に出られなくてもいいから、そういうレベルの高い選手から学びたいという学生もいます。関西に戻りたいという学生もいれば、関東に残りたいという学生もいます。ただ、チームの雰囲気は、どの学生も重視しますね。雰囲気が良い時は成績もいいですし、学生にも魅力的なチームに感じてもらえます」
みんなでハードワークし、もう一度頂点へ
「シーズン中は、毎週試合がありますから、その準備をしつつ、空いている時間に大学に行って学生や監督に会ったりしています。それもあって関東で試合がある時は、神戸に帰らずに、大学の試合に顔を出すことが多いです。やはりシーズン中の方が、忙しいですね。オフは、大学の監督からマネージャーが会いに行くとご両親が安心すると言われているので、海外出身の選手の実家を訪問したりしています。最近ではキュー(クイントン・マヒナ)やタマ(ティエナン・コストリー)、ワイス(ワイサケ・ララトゥブア)といった選手のお宅を訪問しました。もちろん、日本人選手に関しても、ご両親に会いに行ったりしています。ただ、オフシーズンはオフシーズンで、次のシーズンに向けて試合の段取りといった準備がはじまりますから。1年中、仕事に追われていますね(苦笑)」
――大変なんですね。
「僕がこうやってマネージャーと採用の仕事を両立できるのは、白原さん、翠さん、アシスタントチームマネージャーの沢居(寛也)のお陰です。マネジメントに関して、3人がサポートしてくれるからクラブハウスを留守することができます。3人には本当に感謝していますね」
――では最後にチームに期待することを教えてください。
「とにかく優勝してほしいですね。ハードワークすれば結果がついてくることを2018-19シーズンに経験しました。優勝を狙える選手、優秀なコーチ陣とスタッフ。そして、環境も整っていますので、意識を高く持ってハードワークして頂点に立ってもらいたいと思います」
白原 真菜美チーフアドミニストレーターと白原 翠アドミニストレーターは、チームマネージャーに就任した2004-05シーズンから共にチームスタッフとして業務を行う心強い仲間だ。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
文/山本 暁子(チームライター)
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