【ラグビー/NTTリーグワン】郷土にリーグワンのチームがある幸せ。 地元出身の3選手にとっての“特別な場所”<釜石SW vs RH大阪>

日本製鉄釜石シーウェイブス 阿部竜二選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
釜石SW 33-38 RH大阪


3月24日(日)、ディビジョン2第9節で、日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)とレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)が対戦した。前半は4分に先制トライを挙げたRH大阪が一時19点をリード。しかし、釜石SWが前半中ににじり寄り、後半には第2節での対戦時と同様、白熱したシーソーゲームを展開。釜石SWは後半39分、阿部竜二のトライで三度目の同点に並んだかと思われたが、TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)で直前のプレーにスローフォーワードがあったとの判定が下り、トライは取り消しに。RH大阪が38対33で7試合ぶりの勝利を収めた。

釜石SWは今回、ジャパンラグビー リーグワンでは初めてとなるいわぎんスタジアムでのホストゲームを行った。この会場では、全国高校大会岩手県大会の準決勝と決勝戦も行われる。この日、岩手県のラグビー強豪校・黒沢尻工業高校で“花園”行きをつかんだ経験のある3選手がグラウンドに立った。

釜石SWの阿部は、14番としてフル出場。後半14分には、今季初トライも決め、「いわぎんスタジアムが自分にとって特別な場所であることをあらためて感じました」。釜石SWの及川智孔はプロップ、RH大阪の土橋郁矢はウイングで交替出場。高校時代はスタンドオフだった土橋は、奇しくも阿部と対面する位置に入っている。

試合後に取材のリクエストが入ったこの3選手は、同時に会見場に現れた。阿部は、土橋と向かい合う位置での対戦を「『こんな巡り合わせがあるんだな』、と思いました」と話していたが、会見場でもその巡り合わせと両チームの温かな心配りによって、彼らにとって“特別な場所”で、別チームであるにもかかわらず高校時代と同じように並んで座り、地元・岩手の人たちへの感謝を表していた。

及川は、「お世話になった方たちに自分の成長をプレーでお見せできるので、岩手県内で行う試合は特別なもの」だと言い、阿部は「岩手県の方たちに岩手出身の自分のプレーを見ていただけることは、誰でもできることではないと思うので、とても幸せだと感じています」と語っていた。一方、“武者修行”としてあえて家族や友人のいない土地でのプレーを選択した土橋は、この日は「お世話になった方たちがたくさん来てくれていてホーム感があり、うれしかった。地元の方や家族にはまだ試合を見てもらえていなかったので、岩手でできる試合は、自分にとってはとても特別」だという喜びを噛み締めた。

レッドハリケーンズ大阪 土橋選手(左)、日本製鉄釜石シーウェイブス 及川選手(中央)、日本製鉄釜石シーウェイブス 阿部竜二選手(右) 【©ジャパンラグビーリーグワン】

来季より新規参入する3チームを含めても、東北からリーグワンに参戦するのは釜石SWのみ。岩手に釜石SWがある喜びを感じている人は、地元出身のこの3選手に限らないだろう。この日、盛岡市近隣のラグビーチームの子どもたちを含めた1,464名の観客が訪れ、大きな歓声と拍手を送っていた。今季の残り試合にも、岩手県、そして東北の誇りをもって臨みたい。

(前田カオリ)

【©ジャパンラグビーリーグワン】

【©ジャパンラグビーリーグワン】

日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ

「本日も素晴らしい環境の中で試合ができたことを光栄に思います。日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)として、リーグワンの試合を盛岡で初開催でき、非常にワクワクしましたし、多くの方に声援をいただいて、選手たちにとっても非常に良かったのではないかなと思います。

ゲーム内容としましては、試合序盤の内容に尽きると思います。試合の入りが悪く、ズルズルと押し下げられてしまいました。ボールを持てば優勢な部分はありながらも、ディフェンスが上がっていけませんでした。ただし、ポジティブに考えれば、ああいった状況でもわれわれの持つ釜石ラグビー文化の最後まであきらめない姿勢は見せられたと感じています。最後(80分のあわや同点トライのシーン)は残念ながらスローフォーワードの判定でトライキャンセルとなってしまいましたが、それは結果としてしっかり受け止め、来週の豊田自動織機シャトルズ愛知戦にわれわれの力をぶつけるだけです。次の試合に向け、しっかり準備していきます」

――今季は“我慢する”というところがカギになっているのかと思いますが、いかがでしょうか?
「我慢のところはチームとしてこだわってきていて、前節(九州電力キューデンヴォルテクス、以下、九州KV)(と対戦した第8節)ではその我慢が実って勝利を挙げることができました。今日の試合では、次のステップに行くために、フィニッシュのところをテーマにして挑みました。風下では必ず我慢する時間帯が訪れますが、そこで我慢し切れずにペナルティをしてしまったので、今回は我慢の部分は全然足りていなかったと感じています」

日本製鉄釜石シーウェイブス
サム・ヘンウッド バイスキャプテン

「私が話したいと思っていたことはすべてヤスさん(須田康夫ヘッドコーチ)が話してくれましたが、今日の試合を振り返ると、試合のスタートのところでのプレーがイマイチだったことが、代償を払う結果につながったと考えています。良くない入りからチームを立て直せたことは、次の試合へと歩みを進める上では良かったと思います。けれど、やはり結局はスタートが良くなかった。それに尽きると感じています」

――釜石SWにとって、初めて盛岡で行われたリーグワン公式戦でした。観客との距離が近いスタジアムですが、いかがでしたか?
「例えば、ラインブレイクがあったときの歓声はとても大きくて、グラウンド上では選手間のサポートを呼ぶ声が聞こえないようなシーンもありました。たくさんの方に大きな声援を送っていただきました。試合後には、子どもたちがたくさん私たち選手の下に来てくれました。おそらく、この近隣の街でラグビーをやっている子どもたちだと思います。岩手県は広いので、もしかしたら釜石までは試合を見に行けないけれど、盛岡なら行ける、ということで彼らが観戦できる機会になったのかもしれないと感じました。試合をお見せできる会場が増えるという、釜石SWとしての成長を感じる機会にもなったと思っています」

【©ジャパンラグビーリーグワン】

【©ジャパンラグビーリーグワン】

レッドハリケーンズ大阪
マット・コベイン ヘッドコーチ

「本日は、釜石SWさんとたくさんのトライシーンがあるエンターテインメント性の高い試合ができ、光栄です。この試合に向けて、ヒット&ランを生かしたラグビーができるよう準備してきました。そして、今日は実際に良いトライも生まれました。直近の3試合では良い試合の入り方ができていませんでしたが、今回は試合への入りは良かったと感じています。もちろん、途中でプレッシャーが掛かったり、自分たちが規律を守れなくなったりしたことで、相手に勢い付かせてしまいましたので、反省点はあります。試合の最後には、私はもう心臓発作で倒れるのではないかと感じるような状況にもなりましたが、何とか生きています(笑)。そのような試合で勝利できたこと、本当にうれしく思っています。反省点から学び、次の試合に向かっていきます」

――プランどおりにできた部分もあった一方、ハーフタイムでの交代はプランどおりではなかったと思います。
「いつもポジティブな面とネガティブな面の両方を話すようにしているのですが、その交代で入った二人(スタンドオフに入った呉嶺太とナンバーエイトに入ったジョシュ・フェナー)は良くやってくれたと思いますし、もっと良くなれる部分があるとも思っています。負傷の兼ね合いで急きょ変更した形でしたが、彼らはしっかり役割を務めてくれたと感じています。チームとしてはもちろん、選手個人も可能な限りポジティブなプレーを増やしていきたい。最近はネガティブなプレー、ペナルティやミスなどが増えていましたので。自分たちはそのネガティブな部分を減らそうと思って取り組んできました。みんながポジティブなプレーを増やそうとしてくれていたと感じています」

レッドハリケーンズ大阪
杉下暢キャプテン

「今日の試合を勝利でき、本当にうれしく思っています。直近3試合では試合開始5分で相手にスコアされていたので、しっかりとファストスタート(勢いのある試合の入り)することを意識しました。アタックにおいては、相手陣の22mラインに入ったあとは、我慢強く、かつ精度を高くプレーすること、ディフェンスにおいては、釜石SWさんはとても強力なランナーがシンプルにボールキャリーされているので、ダブルタックルを用いて、最初の3フェーズでしっかりとシャットダウンすることを意識し、臨んだ試合でした。試合の入りに関しては、今季最も良い入り方ができた試合になりました。けれど、スコアが19対0になったあと、不必要なペナルティやイージーなミスが出てしまい、相手に勢いを与えてしまいました。それが、最終的なスコアにつながってしまったと感じています。リードした場面では、さらに相手にプレッシャーを掛け、点差を離していかなければいけません。まだチームとして成長していける余地があると感じました。次の試合に向け、良い準備をしていきます」

――次の試合に向けての準備では、「不必要なペナルティやイージーなミス」を減らすこともカギの一つになってくるのでしょうか?
「ジャッカルだけを例に挙げても、良い姿勢ですることを心掛けようとチームで共有していましたが、それでもペナルティにしてしまったシーンはありました。そういったチーム内でしっかりと認識しておくべき点については、もっと口酸っぱく伝えていかなければいけないと感じました。特に、次の試合で対戦する九州KVさんは、良いモールを組めるチームですので、ペナルティをして相手にチャンスを与えてしまうことは望ましくありません。規律面には注意し、次の試合への準備をします」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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