女子サッカーWEリーグはなぜ親子で観戦したくなるのか?子育て層に嬉しい魅力とは
【写真提供:WEリーグ】
夢や生き方の多様性にあふれた、一人ひとりが輝く社会を目指して
2022年9月からWEリーグ理事長(チェア)に就任した髙田春奈さん 【写真提供:WEリーグ】
「WEリーグでは、所属する選手、クラブ、さらにはサポートするパートナー企業などが、『女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する』というリーグの理念を実現するために起こす行動を『WE ACTION』と名付けています。2023-24の3シーズン目から、リーグに所属するのは12チームになりましたが、1、2シーズンは11チームだったので、各節(※)に1チームは試合がないんですね。そこで、試合がないチームは、その間に必ず『WE ACTION』をしてくださいとお願いしていました」(髙田さん、以下同)
※節=リーグ戦(総当たり戦)で試合を行う日、または期間。
親子で参加できるイベントが盛りだくさんのWE ACTION
マイナビ仙台レディースが行った選手たちと一般の参加者が協力し謎解きをするゲームイベント 【写真提供:WEリーグ】
「WEリーグを盛り上げようと考えるとき、Jリーグのようにコアなサポーターを作って、激しい応援をしてもらう、といった方法もあるかもしれません。でも、必ずしもその道だけが発展じゃない、Jリーグとはまた違った方法で盛り上げていきたいと考えているんです。世界の女子サッカーに目を向けると、スタジアムに集まるサポーターは、男子サッカーと比べて、明らかに女性やファミリー層が多いんですね。女子サッカーだからこそ、見に行きたい、安心して見に行けると思っていただけるような場を作ることが、結果的にWEリーグはもちろん、サッカー界全体を盛り上げ、よりインクルーシブになっていくのかなと思っています」
と、髙田チェアが言うように、WE ACTIONでは数え切れないくらい魅力的なイベントが実施されているので、いくつか過去の事例をご紹介しよう。
マイナビ仙台レディースを救え!宇宙危機からの脱出」/マイナビ仙台レディース
マイナビ仙台レディースの選手たちと一般の参加者が協力して行う謎解きゲームのイベントを実施。ゲームを通して、夢や目標を語り合い、地域の交流を深めたイベントは、乳幼児を連れた家族などたくさんのファンが集まり大盛況に。
「レッズレディースキッズフェスタsupported by三菱重工」/三菱重工浦和レッズレディース
「地域の子どもたちに体を動かすことの楽しさを知ってほしい」をテーマに行われた、自然豊かな浦和の地の利を活かした企画。ホームタウンの子どもたちと保護者319名が参加し、選手たちが自ら考案した遊びに興じた。
子育てママにも嬉しい、託児室付きの観戦シート
ちふれASエルフェン埼玉の託児室付き観戦シート。完売してしまうこともあるそう 【写真提供:WEリーグ】
女子サッカー選手を子どもたちの憧れの存在に
マイナビ仙台レディースの試合観戦に訪れた子どもたち 【写真提供:WEリーグ】
「リーグが設立されたのはちょうどコロナ禍だったこともあり、皆さんに試合を観戦いただくことができない状況が続きました。ですからWEリーグの認知度はまだ低いという現状があります。私自身、以前Jクラブの代表として経営に携わっていた頃から、応援してくださるファンを増やすには、絶対にホームタウン活動が必要だと思っていました。ですからWE ACTIONは社会のためということもありますが、応援してもらってもっと強くなるためでもありますし、選手たちは応援してくれる人たちに恩返ししたい、いろいろな人と関わって仲間を増やしたいと思っている人も多いと思います」
「WE ACTION」のイベントに参加した子どもたちが選手と触れあい「自分も選手たちのようになりたい」と言ってくれることもあるのだとか。サッカー選手は競技で私たちを楽しませてくれるだけでなく、生き方そのものが、子どもたちにとって憧れの存在、ありたい姿になっているのかもしれない。
親子で訪れたい、渋谷に誕生したWEリーグの情報発信基地
渋谷、明治通り沿いに誕生した「Home of .WE」。カラフルな外観が目を引く 【写真提供:WEリーグ】
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シャレン!(社会連携活動)とは?
社会課題や共通のテーマ ( 教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など ) に、地域の人・企業や団体(営利・非営利問わず)・自治体・学校などとJリーグ・Jクラブが連携して、取り組む活動です。
(シャレン! 公式サイトより)
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「Jリーグのこうした活動はテレビの全国放送などで紹介される機会は多くありませんが、地域に絞って見るとまた違ってきます。たとえば私の地元の長崎ですと、テレビのローカル放送では、長崎のサッカークラブのニュースはトップ扱いで、みんながその話題を当たり前にしていたりします。ただ、Jリーグは(J1、J2、J3合わせて)全国に60のクラブがあって、それぞれホームタウン活動をしてファンとの交流をはかっています。その点、WEリーグは12チームしかないので、Jリーグと同じように認知度をあげていくのは難しい状況です」
「Home of .WE」では、さまざまな情報を発信するほか、オリジナルグッズの販売なども 【写真提供:WEリーグ】
「若い人だったり、外国の方だったり、いろんな人たちが集う渋谷という場所で、女子サッカーのことを知ってもらえるような発信ができたらと考えています。『ちがいを ちからに 変える街。』というキャッチフレーズで多様性や国際性に関するさまざまな取り組みをしている渋谷区と連携し、勉強させていただきながら、渋谷区がWEリーグのホームタウンとして根付いてくれたらいいですね。そうしたら一気に女子サッカーの魅力が広がるんじゃないかなと期待しています」
アクセスしやすい渋谷だからこそ、親子で女子サッカー観戦を楽しむようになったら、ぜひ訪れたいスポットの一つだ。
女子サッカー界を日本の女性活躍のロールモデルに
WEリーグの優勝トロフィー。女性の障壁として例えられる「ガラスの天井」から着想を得たガラス製 【写真提供:WEリーグ】
「世界大会の移動は飛行機の座席が男子はビジネスクラスなのに、女子はなでしこジャパンがワールドカップで優勝した時でさえも、エコノミークラスだったといった差がありました。また、賃金格差も課題になっていますが、FIFAや他の国のリーグなど世界に目を向けると、その差をなくしていこうという動きがあります。日本の女子サッカーは世界の中でもトップクラスの競技力なので、同じような動きがあるべきだと思います。しかし、日本の文化を考えると、そんなことを言うのは女性らしくないなどといった空気があって、まだまだ当事者たちは声をあげづらいと思います」
この問題はサッカーやスポーツに限らず日本全体にある経営層に女性の数が圧倒的に少ないという問題が関係していると髙田さんは言う。
「サッカークラブに限らず日本全体を見たときに、経営で意思決定をする際に女性の目線が少ないという課題があります。ですから、WEリーグへの参入基準の中に意思決定者、役員クラスの中に必ず女性を1人入れること、というのをお願いしていますが、一般社会と同じでそう簡単なことではないようです。ただ選手たち自身はのびのびとプレーしていますし、男子の選手も女子選手を仲間として受け入れてくれています。ですから、もっとJリーグと交流を深めて、Jリーグ選手だけでなくJリーグのファンなど関連するすべての人に、女子サッカーを当たり前に受け入れていただけるようにすることが重要だと思っています」
こうした中、2020年からJFAとWEリーグが協力し、サッカー界・スポーツ界を牽引する女性役員・経営層の育成を目的として「女性リーダーシッププログラム」が開設された。またつい先日、“女子アスリートが安心・安全に競技ができる環境を整える”をテーマにしたグループワークショップを行うなど、女性が活躍できる社会を目指した試みも積極的に行われている。
WEリーグクラブスタッフ、WEリーグパートナー企業、他競技団体、WEリーグ事務局スタッフ等が“女子アスリートが安心・安全に競技ができる環境を整える”をテーマに話し合った第6回 WE ACTION MEETING 【写真提供:WEリーグ】
性別に関係なく、一人ひとりが生き生きと輝ける社会。WEリーグの選手たちが、そんな社会のロールモデルとなるよう、2024年もさまざまな活動を続けていくとのこと。ぜひその活動に注目したい。
パリ2024オリンピックの女子サッカーアジア最終予選が2月24日、28日の2日間にわたって行われる。24日の会場は朝鮮民主主義人民共和国だが、28日の会場は東京の国立競技場。ファンの応援はなによりも選手たちの力になる。髙田さんは「ぜひ、国立競技場に足を運んで、なでしこジャパンを応援してほしい」という。パリオリンピックの切符を掴む瞬間を目撃できるかもしれないこの機会、女子サッカーの目指す未来に思いを馳せながら、選手たちのプレーをご覧になってみてはいかがだろうか。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:WEリーグ
※本記事はパラサポWEBに2024年2月に掲載されたものです。
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