【サンフレッチェ広島】勝利に導く「新たな風」は俺たちだ!パリ五輪世代の注目株、山﨑大地が鉄壁の3枚に挑む。
【©2024 S.FC】
サンフレッチェ広島の新しいホームスタジアムである「エディオンピースウイング広島」のこけら落としとなった2月10日のG大阪戦は、まさに広島の、いや日本のスポーツ史に残る1日となった。
Jリーグ屈指の“まちなか”サッカースタジアム。JR・アストラムライン・広島電鉄の駅が全て徒歩圏内にあり、市内・郊外問わず、あらゆる方角からバスも集まってくる。広島の行政・経済の中心となる紙屋町・八丁堀が隣接し、繁華街もすぐ近く。広島城や原爆ドーム、平和公園といったランドマークにも歩いていける。42種類の席種をそろえ、VIPやVVIPを招待できる施設も備えるなど、広島の迎賓館としての機能もある。新設のサッカースタジアムとしては初となる常設のセンサリールームを備え、車椅子席も35席用意されるなど、バリアフリーにも気を配った、まさに21世紀型のスタジアムといえる広島新スタジアムの誕生は、サッカーが本当の意味でのプロスポーツ(見て、楽しめるスポーツ)として脱皮した象徴であるといっていい。
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そして48分、スタジアムのほぼ全席を覆った美しい屋根に大きな歓喜が響き渡る。ピエロス・ソティリウのヘッドが決まり、広島が先制点をあげたのだ。
大歓声を生み出したのは、広島で生まれ育ち、サンフレッチェ広島のアカデミーで育った若者・山﨑大地だった。彼の右足から放たれた美しいロングパスが正確に大橋祐紀をとらえ、彼の落としを拾った東俊希のクロスから、新スタジアム初得点は生まれたのだ。
「1つ奥まで見えていたのがよかった」とプロ2年目のCBは言う。「1つ奥」とは、近くにいる中盤の選手の向こう側、このシーンではFW大橋のことだ。
「自分がどういうプレーをするべきか、そこはイメージできていました。前をしっかりと見て、パスが出せるチャンスがあれば狙っていこうって思っていましたね」
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だが、結果として彼はポジションをとれなかった。その要因は守備能力にある。
彼のパス能力を考えると、最適ポジションはリベロだ。できるだけフリーな状態にしてボールを扱わせ、長短のパスを自在に構成して攻撃を創りたい。だがリベロはCB。守備能力が問われるポジションだ。特に広島の場合、Jリーグナンバーワンのタックルラインの高さ(昨季は44.15m)を誇る。逆に言えば、裏に大きなスペースがあるため、CBはグループではなく個人で守備をせざるを得ないケースが多くなる。
それでも広島が0.82失点/1試合平均とJリーグ2位の堅守を記録できているのは、塩谷司・佐々木翔・荒木隼人という強烈な3バックの存在があるからだ。
特にリベロの荒木は、高さと強さにかけては突出している。特に外国人FWに対しては無類の強さを発揮し、アンデルソン・ロペスやディエゴ・オリベイラといった強烈なストライカーとも五分以上で闘える能力を持つ。ここ数年、荒木が1対1で競り負け、肉体やスピードで遅れをとったシーンは、見たことがない。
山﨑のウイークポイントはまさに、荒木のストロングだ。フィジカル能力で強引に闘ってくるストライカーを抑えることが、今は難しい。昨季も何度か相手FWに競り負け、失点の起点になってしまったシーンもあった。
こけら落としの試合でG大阪に痛恨の逆転ゴールを許した時も、起点となったイッサム・ジュバリとのマッチアップは厳しかった。何度も切り返しを許し、最終的にはフリーでシュート性のクロスを入れられ、倉田秋のヘッドにツナが繋がってしまった。もちろん、元チュニジア代表FWの能力は高い。だが、荒木が対応していたら、果たしてどうだったか。
「失点シーンは、(イッサム・ジュバリに)ドリブルをさせたこともそうですし、何回も切り返しさせてアシストさせてしまったことは、自分にとっての大きな課題。ガツンと当たって前を向かせずに止めれるように(PA内に侵入される)もっと前から良い準備をしないといけない」
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「FC東京と練習試合をやるって決まった時点で、頼むから俺が出る時にディエゴ出てくれ!って思っていたんです。去年のリーグ戦で見たディエゴは、やっぱりすごい。だから、このキャンプでディエゴとマッチアップできたことは本当に良い機会になりました」
荒木や佐々木、塩谷のような「フィジカルモンスター」ではない。だが昨年の悔しさを胸に刻み、山﨑は自身の肉体をトレーニングで鍛えあげた。成長の実感は、間違いなく持っている。それは、ディエゴ・オリベイラとのマッチアップで実感できたはずだ。
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広島ユースでは東俊希や松本大弥と同期。だが彼は高卒時にプロ契約を勝ち取れず、順天堂大に進学した。悔しさをバネにして成長して広島に戻ってきたものの、今度はポジションがとれない。7月1日の新潟戦で先発して45分で交代を余儀なくされた後、彼はベンチにも入れなくなった。
「ゲームに絡めないことが本当に辛くて……」
山﨑自身は、頑張っていたつもりでいた。チームの成績も低迷していた時期で、力になりたかった。だが、先発どころか、メンバーにも入れない。
「ここで腐っていたら、おしまいだ」
自分に言い聞かせていたが、周囲はそうは見ていなかった。
8月13日、浦和戦で満田誠が復帰し、移籍してきた加藤陸次樹が初得点。アディショナルタイムにナッシム・ベンカリファが決勝ゴールを決め、劇的な勝利を飾った。6月4日、京都戦以来の勝点3にチームの雰囲気は盛り上がった。だが、山﨑はどこか、蚊帳の外だった。
翌週の川崎F戦、若者はまたもベンチ外。メンバーから外れた選手たちだけのトレーニングは、活気がなかったという。
練習後、山﨑をはじめとする若い選手たちは、林卓人(現GKコーチ)に声を掛けられた。
「下を向いている場合なのか」
ベテランは口を開いた。
「今のお前たちは、ただトレーニングをやっているだけ。スタメンを奪いにいくというギラギラ感を出していかないと、監督も使おうと思わない。これからチームを引っ張っていくべき存在が、もっともっと若いヤツから出てこないといけない。俺に対しても、もっと言ってきて欲しいんだよ。もちろん、俺も頑張る。負けないからな」
山﨑の気持ちが、グッと動いた。
「素晴らしいお手本になれる選手が広島にはいる。俺達も、もっともっと(先輩たちのように)努力を続け、スタメンをとれるようにアピールしないといけない」
トレーニングへの取り組み姿勢が変わった山﨑は、気迫に満ちたプレーを続けた。その結果として、8月26日の柏戦にメンバー入り。9月16日の鳥栖戦では先発を果たした。
成長を見届けたスキッベ監督は「今季、(山﨑)タイチは昨季の経験を生かして、たくさんの役割を果たしてほしい」と期待する。少年時代からサンフレッチェ広島をスタンドで応援し続け、新スタジアムでの初プレーに「もうずっと、ニヤニヤしていました」と笑った好漢への期待は高まる。
もちろん、荒木隼人や佐々木翔、塩谷司の存在は大きいし、彼らと同じプレーはできない。だが、山﨑大地のプレーもまた、他の誰にもできない。そう言われる存在となるまで、あと一息だ。
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