企業からの投資と女子サッカーの飛躍
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日本代表「なでしこジャパン」
前回大会と今回大会のなでしこの結果はそれぞれ16強と8強であり、大差がないようにも感じられますが、前回はグループリーグで世界ランク下位のアルゼンチンに引き分けるなど苦戦していた一方で、今回は優勝したスペインを4-0で圧倒するクオリティの高さを見せつける展開でした。FIFAのインファンティーノ会長から異例の名指しでの賞賛を受けるなど、進化は明らかです。なぜなでしこジャパンは下降線を脱し、再び世界のトップクラスまで盛り返すことができたのでしょうか。
この点については、2011年ドイツ大会でのレガシーが効いていると考えられます。2011年のW杯制覇を受け、女子サッカー熱が高まり、多くの子どもたちがサッカーを始めるようになりました。日本サッカー協会の女子競技登録者数(図1)を見ると、大会前の2010年度の37,369人から大会翌年の2012年度には42,573人、翌2013年度には45,981人へと大きく増加していることがわかります。一般にスポーツは裾野が広く競技人口が多ければ多いほど、実力の高い選手が現れる確率が高まり、トップのレベルも高まる傾向にあります(ゆえに、日本では野球代表チームの侍ジャパンのレベルが高いことが挙げられます)。2011年のW杯優勝に影響を受けてサッカーを始めた小学生たちも、12年の時を経て現在は20代となりました。まさに選手としての実力が開花する時期を迎えており、これがなでしこジャパンの躍進の原動力になったと考えられます。なお、今大会得点王・宮澤ひなた選手は、2011年大会を見て、選手になるという夢が明確になったとのことであり、トレードマークのヘアバンドは、2011年大会でヘアバンドをつけて活躍していた川澄奈穂美選手を見て影響を受けて着用し始めたそうです。
【図1】日本の女子サッカー競技者数推移 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】
裾野を広げるにあたっての課題
大きな要因として考えられるのは、十分な環境が整備されていないことだと考えられます。日本サッカー協会(JFA)の年齢別女子選手数を見ると、小学生の間は概ね上昇傾向にありますが、中学進学(≒部活入部)時から減少傾向に転じ、その傾向が加速していくことが分かります(図3)。中学生になると男女の体格差が広がるため、それまでのように男女一緒にプレーすることが難しくなります。女子チームに入れるのであれば、辞める理由にはなりませんが、そもそも女子サッカー部が存在する学校が限られています。最低11人いないとチームが成立しないため、少子化の影響も相まって、学校ごとに女子サッカー部を持つハードルは高くなっていると考えられます。加えて、男女混合の部活があったとしても女子専用の更衣室が整備されていないなど、設備面の不足も影響している可能性があります。今大会のなでしこの活躍を見て、未来のなでしこを夢見る子どもたちが増えても、受け皿が十分でないと選手数の増加が持続しないおそれがあります。
【図2】日本の女子サッカー競技登録者数推移 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】
【図3】日本の年齢別女子サッカー選手数(2019年度) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】
企業が引き上げているイングランド女子サッカー
この契約で注目すべきは、契約内容に各地の学校や女子サッカースクールでの普及活動の支援も含まれており、イングランド女子サッカー全体の底上げが図られている点です。プロというトップを輝かせるだけでなく、そのトップを生み出す裾野にも投資が行われているのです。Barclaysの投資開始から数年経つと、裾野から生まれた選手たちがトップで輝く側に回り、プロリーグの価値向上に貢献することが想定されます。これは、Barclaysのプロリーグへの投資のリターンの増加にもつながり得ます。企業のスポーツ投資へのリテラシーの高さが感じられます。
【図4】イングランド女子サッカー実力向上の背景 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】
おわりに
なお、我が国の女子サッカーの受け皿拡大の観点でいえば、ちょうど2023年度からスタートした部活動の地域移行がカギとなる可能性があります。部活動の地域移行は、これまで学校単位で教員監督の下営まれてきた部活動を、これからは地域単位で民間事業者の力を活用しながら運営することを目指すものです。教員の働き方改革を進めるのが主な趣旨でもありますが、これが進むことで学校単位では人数確保が難しかった女子サッカー部が地域単位で実現する可能性があります。
Jリーグから開示される各クラブの財務情報の欄にも、収益・費用の項目の中に「女子チーム」に関する項目が新たに追加されました。日本ではWEリーグが生みの苦しみともいえる状況となっていますが、世界のスポーツビジネスの潮流や国内の環境変化の兆しをしっかり捉え、飛躍のきっかけをつかめるかどうか、今後の展開にも注目です。
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