川崎ブレイブサンダースが3年ぶり2回目のB1王座奪還

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Bリーグの各チームをコート上での勝敗ではなく、マーケティングや経営効率、経営戦略、そして財務状況の4つの観点から評価し、そのポイントによってCup Winnerを決めるのが「Bリーグマネジメントカップ(以下、BMC)」です。本稿ではB1部門の分析レポートをお届けします。

B1優勝へと返り咲いた川崎ブレイブサンダースの真価

B1部門は川崎ブレイブサンダース(以下、川崎)が琉球ゴールデンキングス(以下、琉球)の3連覇を阻み、見事2020年シーズン以来となる2回目の優勝を飾りました。川崎はマーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の全分野で上位3位以内となるバランスの良さに加え、財務状況において2位に15ポイントもの大差をつけたことがB1部門優勝の決め手となりました。


コロナ禍でも地道なDXコンテンツの積み上げで新規のファンを惹きつけ続け、2023年11月には、リアルなコンテンツとして最大12,000人収容(Bリーグ開催時)の新アリーナを2028年にオープンする構想も公表されました。この新アリーナ構想もさらなる成長の原動力として、今後もBリーグ全体の発展を牽引してくれることが期待されます。

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1stクォーター:マーケティング

「満員のアリーナ」を実現することは、スポーツ興行において最も基本的な目標となります。一方で、コロナ禍を経て人々の行動様式は不可逆的に大きく変化しています。それを踏まえたアリーナ来場者へのBM施策と、来場できないファン・ブースター向けのBM施策をバランス良く実施していく観点が今まで以上に重要になると思われます。

平均入場者数

2022年シーズンにおけるB1の平均入場者数は3,502人で、前年比+1,474人(+72.7%)となりました。トップは琉球の7,312人、2位はA東京の6,065人、3位は千葉Jの4,951人でした。昨シーズンからB1に所属している全クラブが前年増を達成していますが、特にA東京は前年比+4,103人(+209.1%)と大幅に増加しています。

なかでも、年間最多入場者数を記録した千葉J vs琉球の日本生命B.LEAGUE チャンピオンシップ(2023年5月28日、横浜アリーナ)は、入場者数13,657人と昨シーズン最多の試合の1.6倍以上を記録しています。

アリーナ集客率

2022年シーズンにおけるB 1の平均アリーナ集客率は53.7%で、前年比+20.0Pとなりました。コロナ禍の影響が生じる前の2019年以前と同等の水準である50%台を取り戻していて、社会全体と同様にコロナ禍からの復活を印象付けました。TOP3の顔ぶれが宇都宮・琉球・千葉Jとなるのは、そう長くないBリーグの歴史の中で既に5度目で、人気クラブが引き続きアリーナの熱狂を高いレベルで保っていることがうかがえます。

そんななか、唯一集客率が減少したのがA東京で、前年比▲3.6%の50.5%となりました。ただし、これは2022年シーズンのホームゲームの大半を、立川立飛(3,624人収容)から代々木第一体育館(15,239人収容)での開催としたことが影響しています。むしろ収容人数の増幅に対して集客率を同水準に維持できているのは、BM施策が効果的に機能していることの表れといえます。

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2ndクォーター:経営効率

BMとFM(フィールドマネジメント)の関係に焦点を当てたKPIである「1勝あたりチーム人件費」と「1勝あたり入場料収入」。BM側は、「勝利数」というFM的要素を前提としながらも、いかに効率性を追求しつつ顧客満足度も高められるかというトレードオフの課題に常に直面しています。このKPIに絶対解はなく、クラブごとの最適解を見つけることができるかどうかが重要なミッションの1つです。

1勝あたりチーム人件費

2022年シーズンにおけるB1の平均は、前年比+1.8百万円(+9.4%)の21.3百万円でした。コロナ禍による中止試合もほぼ無く、各クラブとも試合数が約60試合(信州対広島戦の1試合中止)のフルシーズンを戦い抜いたこともあり、前年比でクラブの勝利数が増加傾向となりました。

最も効率的に勝利を重ねたのは信州で、B1平均の6割程度のチーム人件費にも関わらず、勝率0.492で29勝していて、1勝を約12.7百万円で挙げたことになっています。2位の横浜BCは、B1平均の7割程度のチーム人件費で33勝し、こちらは1勝を約13.0百万円で挙げています。MVPと新人賞を受賞した河村勇輝選手が新人契約であったことの影響もありチーム人件費は抑制され、チーム成績が上がったため本KPIが向上したとみられます。

一般的には、BMの判断による多額のチーム人件費の投入はFM面にプラスの影響を与える傾向があります。ただし、チーム人件費に投入できる資金は有限であり、無尽蔵なチーム人件費の拡大はリスクになるため、各クラブは自クラブの相対的な位置付けを客観的に把握しながら、いかに限られた原資で効率的に勝利を挙げられるかを模索することが重要といえます。

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1勝あたりチーム人件費(百万円) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

<参考>チーム人件費(百万円) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

3rdクォーター:経営戦略

クラブの資産(アセット)をどこに割り当てるかというBM施策は重要です。FM面への投資となる「売上高・チーム人件費率」、社会的影響力への投資となる「SNSフォロワー数」、ブランディングやクラブ財源確保への投資となる「グッズ関連利益額」など、興行以外のビジネスにいかにリソースを割いてクラブ経営に役立てているかが読み取れる指標です。

売上高・チーム人件費率

2022年シーズンにおけるB1の平均は、前年比+0.1Pの44.7%とほぼ横ばいでした。チーム人件費の平均は昨シーズンから+121百万円(+24.7%)と大幅増となっていますが、売上高も+304百万円(+27.2%)と大幅に伸びているため本KPIの値には大きな変化がない状況です。

Bリーグが開幕した2016年シーズン以降のB1における本KPIの推移を見てみると、6年間で31.8%から44.7%と12.9P増加しています。クラブ別には、滋賀の30.9%が最低、三遠の86.7%が最大となっていて、クラブごとの戦略などにより大きな差が生じている状況です。特筆すべきは、各地区で1位となった千葉J、川崎、琉球の3クラブは、本KPIが40%未満となっていることです。いずれも売上高20億円超という財務基盤をベースに、FM面で高い成績を残しながら、売上高・チーム人件費率を低く抑えることで、財務においても黒字を達成していて、BM面でも理想的なバランスを実現しています。

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売上高・チーム人件費率(%) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

4thクォーター:財務状況

Bリーグでは「バスケットボール界全体の安定的・持続的な成長と発展に寄与すること」を目的にクラブライセンス制度が導入されています。なかでも「財務基準」は、債務超過や3期連続赤字、資金繰りに対して厳しいチェックがなされます。B1では既にコロナ禍によるライセンス交付要件の特例措置も解除されていて、クラブの安定的な財務体質の確保は最優先課題となっています。

売上高

2022年シーズンにおけるB1売上高平均は、前年比+304百万円(+27.2%)の1,422百万円でした。コロナ禍の影響が解消され、B1史上最高となる入場者数が牽引した結果となりました。クラブ別に見ると、昇格組の仙台とFE名古屋を含め、全24クラブ中23クラブにおいて増収を達成しています。トップはA東京の2,697百万円で、2位の千葉Jに187百万円の差をつけています。A東京はB1平均の約3倍となるスポンサー収入をベースとし、入場料収入においても前年比+199百万円増の298百万円を達成しています。

スポンサー収入の割合が大きいB1の売上高構成比は、平均で55.3%と過半数を占めており、大企業の資本傘下にある、A東京(トヨタ自動車)は83.3%、FE名古屋(豊田通商)は78.4%でした。一方、本KPIで3位となった琉球は、入場料収入が43%を占め、地域からの熱い支持が反映されて、入場料収入においてB 1 最高の1,015百万円を達成しています。

売上高成長率

2022年シーズンのB1の平均は、前年比+10.2P(+39.5%)の35.8%と、昨シーズンの成長率をさらに上回る高い成長率となりました。時系列で見てもコロナ禍前の水準をも上回っていて、各クラブのBM面の継続的な取り組みが実を結んだものといえます。

成長率が最も高かったのは滋賀の+91.2%です。滋賀はスポンサー収入が前年比+538百万円(+146.9%)と大きく伸びたことに加え、新アリーナへの本拠地移転による入場料収入の増加(+50百万円)で、過去最高の売上高を達成しました。また、2位の川崎も+75.2%の高い成長率を達成していて、特に入場料収入が+229百万円(+78.0%)となったことに加え、新アリーナ建設構想も発表されるなど、中長期的な観点でもファン・ブースターの拡大が期待されます。このように経営のベンチマークとなるようなクラブが出てくることで、各クラブの取り組み活発化することが考えられます。

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売上高(百万円) 【©2024. For information, contact Deloitte Tohmatsu Group】

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著者プロフィール

デロイト トーマツ グループは、財務会計、戦略、マーケティング、業務改革など、あらゆる分野のプロフェッショナルを擁し、スポーツビジネス領域におけるグローバルでの豊富な知見を活かしながら、全面的に事業支援を行う体制を整えています。またコンサルティング事業の他、国内外のスポーツ関連メディアへの記事寄稿などを通し、スポーツ業界全体への貢献も積極的に行っています。

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