2023大学選手権3回戦:早稲田対法政を簡単な数字で見てみた

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チーム・協会

【2023大学選手権3回戦:早稲田対法政を簡単な数字で見てみた】

【これはnoteに投稿されたUNIVERSIS -ユニヴェルシスさんによる記事です。】
みなさんこんにちは
秋みたいな暖かさの日もありますね

今回は12/17に行われた大学選手権3回戦、早稲田大学対法政大学の試合についてレビューをしていこうと思います

まずはメンバー表から

【UNIVERSIS -ユニヴェルシス】

次にスタッツです

【UNIVERSIS -ユニヴェルシス】

それでは順番に見ていきましょう

早稲田のアタック・ディフェンス

早稲田のアタックシステム

今回の試合でも早稲田らしい縦横無尽なラグビーを見せていましたね
10・12・15番が適宜1stレシーバーとつなぎの役割を行ったり来たりしつつ、SH横・SO横・CTB横の位置にFWの選手を配置することによってゲームメイカーの判断で強いコンタクトエリアを動かし続けることに成功していました

それに合わせて表裏をうまく使いながらアタックを継続していたため、法政側としてはどのエリアで誰がキャリーしてくるのかがかなり読みづらかったのではないかと思います
ボールに関わるどの選手にも複数のパスオプションが存在するため、選手が認知負荷に耐えることができれば単純な意思決定のみならず細かい状況判断のもとでラグビーを繰り広げることができるシステムをとっている様に見えました

また、アタックの中でBK3の選手のタイプが違っていたのも面白い要素というか、早稲田のアタックに彩を加えていましたね
もちろんどの選手も能力の最低水準は極めて高いものにありますが、11番の福島選手は前に出る強さ、14番の矢崎選手はスピードとセンス、15番の伊藤選手はゲームをコントロールできるクレバーさと、カラーが違う選手が後方に控えていることで特にエッジエリアでの攻撃に関しては見応えがあった様に思います

アタックの基本システムとしては1−3−3−1様に選手を配置していますが、特定のポジショニングをするというよりかはSO役の選手の動きに合わせて少し動きに幅があった様に思います
間を繋ぐSO役の選手も担当する選手が3人もいることもあり、どのエリアでも中外のつなぎはスムーズに行っていた様に見えました

ラックの安定感やテンポも非常によく、9番に入った清水選手はラックの形成時には確実にラックに寄っているので、どの様なタイミングでもボールを出すことができていました
おそらくは選手のポジショニングもある程度の取り決めがある上で理解も深いため各選手のセットが早く、9番からのパスについてもさまざまなバリエーションが準備されていましたね

一方で少し気になったのは後半途中からのアタックの減速で、トライを取ることこそできていましたが、アタックで圧倒していた割にはスコアにつながっていなかった様な印象も受けました
単純に原因を予想してみると、おそらくはポゼッションが後半にかけてそこまで極端に取ることができなかったことが挙げられるでしょうか
キャリー数とトライ数を鑑みると後半の方が若干スコアを取るまでに手間取っている印象もあるので、対戦相手としてはいかにポゼッションを早稲田に持たせないか、またはボールを持つ早稲田をどれだけ抑え込めるかが重要になってくるのかが重要になってくるのかと思います

早稲田のキャリー

外国出身選手のような一発で相手を弾き飛ばす様な選手こそ少ないものの、要所要所に体の使い方や強さで前に出ることができる選手が揃っているのがある意味では早稲田の強みではないかと思います

今回の試合でもやはり2番の佐藤選手の体の使い方には言及しておく必要があるかと思います
佐藤選手は身長こそ小柄な部類に入りますが大学ラグビーのHOの中では随一の体の使い方のうまさを誇っており、もちろん前後のパスワークのうまさもありますが相手と真正面からコンタクトをする場面が非常に少なく、コンタクトにおいても揺らぐことがないために安易に受けずにうまく体を前方向に運ぶことを得意としています
パスの面に関しては後述することにしましょう

また、FWでは最近は6番の安恒選手も目立ってきていますね
元々フロントローとしてプレーすることが多かった同選手ですが、最近はFLとして登録されている選手が増えています
フロントローらしいずっしりとした体の使い方にFLらしい攻撃的なアタック姿勢が相まってキャリーの部分ではコンタクト位置をグッと前に出すことに成功しています
極端な速さはありませんがボールを受けてから前に出るまでの一瞬の加速にも優れており、相手がコンタクト姿勢を作るその前に体を当てこんで押し込むことができている様に見えました

BKでは14番の矢崎選手が今回の試合では最優秀選手だったと言えるでしょう
個人的なイメージとしては矢崎選手は上半身と下半身の分離・または統合した動きが非常に優れており、全く姿勢を崩すことなくランニングコースをスムーズに変えることができる選手であると思っています
腰から下だけが分離して動いて上半身はハンドオフやコンタクトに備えていると言った感じですね
矢崎選手は1人でアタックのベクトルを変えることができる選手であると思っていて、ボールや選手の動きで少し外に向いたアタックのベクトルを、自身のランニングコースで立て直し前方向の勢いをさらにもたらしているシーンも散見されました

それ以外の選手についても、共通していうことができるのは「ボールをもらう瞬間・もらった後の加速に優れている」ということだと思います
中でもFWのポッド内の選手の加速は秀逸で、ボールをもらった先頭の選手に対して両サイドの選手がそこから自分がもらってもコンタクトで優位に立つことができる様に加速し、さらにはコンタクトが起きた後にもすれ違うことなくサポートに入ることができていたりと、一連のアタックをミスなくこなしていたのが印象的でした

キャリー回数を見ると前半が77回で後半が47回と、前半は特にミスなく相手にポゼッションを渡すことなくアタックを継続することができていたということがわかります
合計で124回のキャリーと法政の倍近いキャリー数を示しており、アタック面で相手を圧倒することができていました

9シェイプのキャリーは33回、10シェイプのキャリーは18回となっていますが、全体の数値以上に前後半で差が大きかったのが10シェイプのキャリー数です
前後半でわけて考えると10シェイプのキャリーは前半に17回、後半に1回となっています
単純計算で前半が後半の17倍となっているわけですね

10シェイプキャリーが後半にかけて激減した理由を予想すると、アタックのモーメンタムが全体的に減少していたという点が挙げられるかもしれません
後半にかけてそもそものポゼッションが半減に近い様な形になっており、さらにSOの選手も10番の久富選手から22番の吉岡選手に代わっていたりと、前後半でゲーム様相自体が大きく代わっていたと思います
そんな中でアタックの勢いは若干減少し、9シェイプで安定したキャリーを取るか、外に回してゲインを狙うか、というように選択肢が絞られていったのは想像に難くありません

シェイプ外のキャリーを見るとこちらも前後半で若干の変化があり、中央エリアでのキャリーは前半12回後半4回の合計16回のキャリー、エッジエリアでのキャリーは前半14回後半13回の合計27回のキャリーとなっています
つまり、中央エリアでのキャリーは後半にかけて減少していたということです

このことと先ほどのポッドの使い方をあわせて考えると、おそらくはアタック全体が少し外がかりになっていたということが想像できますね
アタックのベクトルを変えることができる様な選手は少しずつ交代し始め、結果的にアタックの角度やエリアが少し淡白で単調になっていたのかもしれません

早稲田のパス

早稲田のパスは一貫して「各選手にさまざまなパスの選択肢を与えるラグビー」をしていたということができるかと思います
もちろん選手個人のスキルによってパスをすることができる・できないは当然あるかとは思いますが、どの選手にも無理な動きをしない範囲でパスオプションが与えられていたと思います

その結果としてOtherに分類されるようなパスが増えていましたね
カテゴライズをすることが難しいパスをOtherに放り込んでいるのですが、今回の試合を見た印象だとOtherだからと言って単純にミスをしたパスが入っているというわけではなく、上手い繋ぎではあるがカテゴライズが難しいものが入っているという印象で、Otherに含まれていても効果的なパスが多かった様に思います

1つ早稲田のパスの特徴を挙げるとすると表裏をうまく使っているということが言えるかと思います
バックドアへのパス自体は試合全体の245回のパスのうち13回と大体5%くらいの割合にとどまっているのですが(普段より少ない印象)、表裏のオプションがあるという状況自体が法政のディフェンスに対してプレッシャーになっていた様に見えました
特に法政のディフェンスラインは少し前がかりというかプレッシャーを中途半端にかけてしまう時があるので、表裏の選択肢によって足が止められていたような印象です

また、相手を惑わす要因になっていたのはポッド内でのパスワークですね
ポッド内でのパスをするチームは珍しくはないのですが、早稲田はボールを最初にもらった選手からの短いパス→サポートの流れが非常にうまく、1stレシーバーが勢いを殺すことなく周囲の選手にパスをすることからディフェンスの選手が相手を切ることができない状況に陥っていました
そのためボールを受けたセンスは1対1で相手とコンタクトをすることができ、コンタクトで上回ることのできる早稲田の選手が前に出ることができていたという感じです

細かく回数を見ていきましょう
パス全体は245回とキャリー・パス比は約1:2となっており、目立ってパス回数が多いという形になっていますね
キャリー・パス比は前後半ともに1:2に近い数値をとっていることから、ポゼッションに関係なく早稲田のラグビーはパスが多いと言っても過言ではないかと思います

ラックからのボールは9シェイプへ31回、バックスラインへ49回渡っています
バックスラインへのパスは前半が36回、後半が13回となっていることから、後半はラックからは9シェイプに放られることが多くなったということが数値的にもわかるかと思います

バックスラインへ渡ったボールは10シェイプへ26回、バックスライン上でのパスワークが53回となっています
こちらも前後半に分けて考えると10シェイプへのパスが前半に22回、後半に4回となっており、バックスライン上でのパスは前半30回の後半23回です
パス回数の減少率以上に10シェイプへのパスが減っていることと9シェイプへのパスが増えていることを鑑みると、後半にかけて9シェイプが好んで用いられるようになったということができるかもしれません

早稲田のディフェンス

早稲田のディフェンスは基本的には高い水準をキープしていましたね
ディフェンスラインもしっかりと前に出ることができていましたし、スコアされた場面のアクシデンタルなシチュエーションやラインアウトモールからなどディフェンスが崩れた云々といった感じではなさそうでした

一方、タックル成功率は勝ったとはいえ少し低い水準にあったようにも見えます
全ての選手に外されたというわけではないのですが、法政が誇るペネトレーターたちにはタックルを弾かれるシーンも多く、全てではないですが相手にグッと前に出られるシーンも多くなっていました

ただ、早稲田の選手の詰める・引くの判断は非常に良いものがあったように見ています
主に9シェイプの対面に入った選手やCTBの岡﨑選手などが詰めるシーンが多く、相手との間合いを見切ってうまくタックルに入っていたように見えました
また積めない場面では引く判断がしっかりと意思統一されており、誰かだけが出ている、もしくは誰かだけが引いているといったギャップもほとんどなくディフェンスをこなしていました

法政のアタック・ディフェンス

法政のアタックシステム

今回の試合では残念ながら早稲田のプレッシャーを受けて法政らしいアタックはあまり見ることができなかったように思います
ポゼッションもかなり低く、アタックをしても早稲田のディフェンスの餌食になるシーンが正直多かったです

基本的なシステムとしては中央エリアはFW3人のポッドを1つか2つ置いてコンタクトを起こし、エッジに置いた7番の宮下選手や8番の高城選手の強烈なキャリーで前に出る、もしくはBK3の優れたランニングスキルで人数差をうまく攻略するといった形のアタックが多かったように思います
しかし、今回の試合ではやはりバリエーションの少なさが仇となり、FW戦の部分でも局所的にしか上回ることができていませんでした

法政のアタックは全体的にシンプルで「どの選手に前に出て欲しいか」が比較的わかりやすいアタックをしているように思います
先述した宮下選手や高城選手、あとは5番の竹部選手がその役割を期待されている感じですね
逆にいうとそのあたりの選手がうまく前に出ることができないと次点の策があまり見えないのも弱点であるように感じていました

早稲田のディフェンスはプレッシャーが強く詰めの判断がいいのが今回の試合での特徴であったように思っています
一方の法政はコンタクトシチュエーションにおいても外方向においてもアタックがシンプルという状況です
法政のアタックには複雑な選択肢がないという状態ですね
その結果早稲田の前にグッと出てくるディフェンスの網にハマり、ラインを下げられた状態でコンタクトが起きるというシチュエーションが続いていました

また、全体的にライン幅が広く周囲の選手の位置どりも浅いことから、サポートに行くのがワンテンポ遅れてしまうのも痛かったですね
早稲田のアタックでは周囲の選手が適切な位置関係適切なスピードでラックにサポートに入っている一方、法政のアタックではラックに対して下がりながらサポートに入っていることが多かったように見えました

キックに関しても少し消極的な要素が多かったように思います
エリアどりのキックをどう捉えるかといったところにも関わってくるかとは思いますが、攻撃的なキックというよりかは消極的なキックが多かったように感じました

法政のキャリー

法政の売りでもあるキャリーについてはうまくいく場面とうまくいかない場面があったように思います
というよりも、「うまくいく選手」とそうでない選手がいたという方が正しい表現かもしれませんね

「うまくいく選手」としては5番の竹部選手、7番の宮下選手、8番の高城選手が挙げられます
これらの選手は他の選手と比べると「より相手に衝撃を伝えるコンタクト姿勢」を取ることに長けており、相手のコンタクト部位=肩に対して自分が最も強い体のポジションで当たることができていたように見えました

ただ、後述しますがパスワークの部分で相手を惑わすことはそこまでできておらずコンタクトする選手やエリアが少し絞りやすかったので、ディフェンスとしては少し気楽に守ることができていたかもしれません
パスを受けた選手がそのままコンタクトすることも多いため、ノミネートする相手を切ったり直前で姿勢を変える必要がないからですね

キャリーの回数を見るとポゼッションで負けていたのが一目瞭然で、前半は16回のキャリーで後半は52回のキャリーとなっています
早稲田は前半77回の後半47回なので、どれほど押し込まれていたかがこれでわかるかと思います

一応数も細かく見ていきましょう
9シェイプでのキャリーは合わせて26回となっています
一方の10シェイプは8回となっていることから、傾向的には9シェイプを好んで使っているということがわかります
比率的には9シェイプ:10シェイプが3:1になっていることから、ある程度はリズムを持ってアタックに用いられているのかもしれませんね

法政のパス

こちらに関しても全体的にシンプルだった印象です
Otherも一定数見られていますが、早稲田に比べると若干苦し紛れ的なパスワークになっている場面もあり、創意工夫の結果のOtherというわけではなさそうでした

特にネックになっていたと思われるのは細かいパスワークの少なさであり、先述したようにそれによって相手に容易に刺さられるというシーンが多く見られていました
例えばパスを受けたポッドの選手はそこから周囲の選手にパスすることなく前に出ようとしますし、バックスラインはシングルラインのためにパスの送り先が特定されているという状況でした

傾向を考えるために回数を見ていきましょう
ラックからのパスは9シェイプへ28回、バックスラインへ16回渡っています
10シェイプへのパスは前後半合わせて8回になっていることから、全体的にポッドを用いたアタックが多そうですね
ポッド内でのパス回しは前後半合わせても0回となっており、ボールを受けた選手がそのままコンタクシチュエーションに移っていることがわかります

バックスライン上でのパスワークは全部で22回となっています
シェイプ外のキャリーが17回ということを鑑みると、バックスライン上でのパスは1〜2回でコンタクトにつながっているということができるかもしれません
外方向のアタック傾向ですが、外まで回し切ることができていない可能性があるというのは少し意外ですね

法政のディフェンス

タックル成功率自体は悪くないと思います
タックル総数が多いことも手伝って成功率単体で見ると90%を超える成功率となっていました

一方気になるところとしては被ラインブレイクの多さですね
タックル成功率に関わらない「触れることすらもできないまま抜かれる」というシチュエーションが比較的多く、スルスルと前に出られるシーンも多かったですね

ディフェンスラインに関していうと、前に出ることはできていましたが横とこ連携は少し不足していたような印象で、周囲の状況を確認せずに前に出てしまっていたようにも見えました
また、大外の優れたランナーにプレッシャーをかけないうちにボールを持たれてしまう場面も多く、チャンスを容易に与えてしまっていたようにも思います

まとめ

早稲田が日本一を目指してまず一勝といったところでしょうか
法政も健闘はしましたが、ボールを持つことができずにアタックをする機会が少なかったことも相まって残念ながら敗戦となりました

今回は以上になります
それではまた!


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