リアム・ウィリアムズ ~ウェールズからやってきた雑草戦士~part.2

チーム・協会

クボタスピアーズとの出会い、その前史

「リアムとは何度か試合をしたことがあるんです。彼は覚えていないと思いますけど」

2023年11月11日、グリーンロケッツ東葛とのプレシーズンマッチ。試合後、取材陣に囲まれた立川理道は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイに新たに加入した元ウェールズ代表、リアム・ウィリアムズについて尋ねられ、そう答えた。

公式試合記録を紐解くと、ウェールズ代表が日本遠征を実施した2013年6月。花園ラグビー場、秩父宮ラグビー場で両国代表は対戦。先発メンバーのリストに、確かに「立川理道」「リアム・ウィリアムズ」(当時の表記は「リーアム・ウィリアムズ」)の名はある。初戦の花園ラグビー場では18対22でウェールズ代表が勝利。2戦目の秩父宮ラグビー場では23対8で日本代表が快勝。果たして、リアムの頭にその記憶は残されているのか。本人を直撃してみた。

「もちろん覚えています。日本代表がウェールズ代表に勝った試合にも、彼は出ていましたよね。とてもいい選手でした」

リアムの正式加入がアナウンスされたのは2023年の6月。「クボタスピアーズ船橋・東京ベイ」というクラブのことやその環境、リーグワンのシーズンスケジュールなどは、スカーレッツで同僚だったデーヴィッド・ブルブリングから聞いており、またワールドカップ期間中もフラン・ルディケ ヘッドコーチと連絡を取り合っていたという。チームには11月に合流。ウェールズ代表の雑草魂と、逆境から這い上がってきた不屈の男たちの物語が、ここからつむがれていく。

ただ、いかなる物語にも、前史という段階が存在する。のちにチームメイトになることなど知る由もなかったものの、リアムとクボタスピアーズの物語の前史は、ちょうど10年前の立川との邂逅から始まっていたのかもしれない。

2013年に対戦していたリアム選手(中央)と立川理道キャプテン(右から3番目)。10年のときを経て同じチームに 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ニックネームの謎

「それ、絶対に聞かれると思ってました」と、彼は苦笑いを浮かべた。ニックネーム「サンジェイ」の由来を尋ねたときのことである。どうやらそれは、「サンジェイ・カポール」という俳優の名が元ネタになっているらしい。

「私が6歳のころ、家族そして友だちと旅行に行ったときのことです。友だちとおもちゃを交換しあっていたら、誰かがその姿を見て『まるでサンジェイみたいだな』って、言いだしたんです。テレビでおもちゃを交換しあう番組が放送されていて、そこに出演していたのがサンジェイ・カポールでした。だから、顔が似ていたからではないんです。おもちゃを交換する仕草がサンジェイに似ていたから、そう呼ばれるようになったんです」

例えば「ファイナルアンサー」が口癖の子どもに「みの君」というあだ名がつけられたような、そんな子がいるのかどうかはさておいて、ニュアンスとしてはおそらくそのような感じなのだろう。以来、サンジェイ歴26年。友だちも、学校の先生も、周囲の人たちはほぼ全員、彼を「サンジェイ」と呼ぶようになる。

「『リアム』と呼んでくれるのは、私の妻と、妻のお母さん、この2人だけなんです……」

ちなみに、カタカナで「サンジェイ・カポール」で画像検索すると、そこに出てくるのはリアムの写真。その事実を告げると、彼は「勘弁してくれよ……」と言わんばかりに目の前のテーブルにひれ伏した。というわけで、「サンジェイ・カポール」で検索してこの記事にたどりついた方へ。この人はサンジェイ・カポールではありません。リアム・ウィリアムズというラグビー選手です。

この人はサンジェイ・カポールではありません 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

日本でのタスク

リアムにとっては2019年のラグビーワールドカップ以来の日本となる。4年前の約3週間の滞在で得たこの国の印象は、「どの街もきれいで、人々はフレンドリーで、食事もおいしい」。当時のことを「とてもすばらしい時間を過ごすことができた」と振り返る。

「ウェールズに朝食でお米を食べる人はあまりいないのですが、私はお米が大好きです。お寿司もラーメンも、日本の食事は何でも好きで、それが日本行きを決めた理由の一つでもあります(笑)。難しいですが、日本語も覚えたいです。日本の文化を、もっと知りたいですね」

年齢は1991年生まれの32歳。ラグビー選手としてはベテランの域に差し掛かっている。ウェールズ代表としてのキャップ数は89。キャリアの最終コーナーで訪れた、愛すべき日本という国。彼の中では、クボタスピアーズにおいて自身が負うべきタスク、果たすべき使命はしっかりと明確化されている。

「私の仕事は、リーグ優勝してチャンピオンになることに貢献することです。また、これまでのラグビーキャリアを生かし、日本の若いバックスリー(両ウィング、フルバック)の選手たちにポジショニングの立ち位置など、様々なことを伝えていきたいです」

今季のリーグワンもついに開幕。最後に、初めてリアムのファイトを目の当たりにするオレンジアーミーに向けて、注目してほしいポイントを聞いた。

「ウェールズのラグビーにはキックが多く、私の一番の強みはハイボールの処理です。そして、プレー全体を回していくアタッキングラグビーも見ていただきたいです。また、クボタスピアーズはフォワードの選手のサイズが大きいです。その利点を生かしたラグビーができればと思っています。エキサイティングなシーズンが、これから始まります。私もエキサイティングな気持ちでいっぱいです」



文:藤本かずまさ
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

ハイパント処理の達人、その匠の技が日本で見られる日も近い!? 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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