三冠王を射程圏内に捉える近藤健介。パ・リーグでは19年ぶりの快挙達成なるか?

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福岡ソフトバンクホークス・近藤健介選手 【写真:球団提供】

パ・リーグにおける三冠王は、18年間にわたって誕生していない

 福岡ソフトバンクの近藤健介選手が、打率、本塁打、打点の主要3部門において、いずれもリーグ上位の成績を残している。昨年は東京ヤクルトの村上宗隆選手がセ・リーグの三冠王に輝いたが、パ・リーグで三冠王を獲得したのは2004年の松中信彦氏が最後となっている。

 今回は、近藤選手のこれまでの活躍ぶりをあらためて振り返るとともに、2004年に三冠王を獲得した松中氏と、今季の近藤選手のケースを比較。実際に三冠王に輝いたホークスの先達の例を振り返ることによって、近藤選手が三冠王に輝く可能性を探っていきたい(成績は9月15日時点)。

リーグ屈指の好打者として活躍してきたが、今季は長打力も大きく向上

 近藤選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

近藤健介選手 年度別成績 【(C)PLM】

 近藤選手は2011年のドラフト4位で、捕手として北海道日本ハムに入団。プロ入り以降は三塁手や外野手として出場機会を伸ばしていき、プロ4年目の2015年には129試合に出場。リーグ3位の打率.326と好成績を残し、チームの主力打者へと成長を遂げた。

 2年後の2017年には故障の影響で57試合の出場にとどまったが、打率.413、出塁率.567、OPS1.124という圧倒的な打撃成績を記録し、「幻の4割打者」として話題を呼んだ。その後も安定した活躍を続け、2019年と2020年に2年連続で最高出塁率のタイトルを獲得した。

 2023年からは福岡ソフトバンクに活躍の場を移し、開幕前のWBCでは2番打者として日本代表の世界一に大きく貢献した。シーズンでは序盤戦こそ打撃不振に苦しんだが、交流戦で首位打者に輝いて以降は本領を発揮。持ち前のコンタクト力と選球眼に加えて、長打力の面でも大きな向上を見せている。

単純な成績の面では、2004年の松中氏が大きく上回っているが……

 続いて、2004年の松中氏の成績と、2023年の近藤選手の成績を見ていきたい。

松中信彦氏と近藤健介選手の成績比較 【(C)PLM】

 松中氏が130試合で打率.358、44本塁打、120打点という成績を残したのに対し、近藤選手は126試合を消化した時点で打率.300、21本塁打、78打点。単純な数字の面では大きな差が生じているが、リーグ全体の打撃成績に目を向けると、また違った側面が見えてくる。

 2004年のリーグ平均打率は.277、リーグ全体の本塁打数は920本、リーグ全体の打点数は3913。それに対し、2023年のリーグ平均打率は.242、リーグ全体の本塁打数は544本、リーグ全体の打点数は2470と、いずれも大きく数字が下落している。

 2004年当時はいわゆる統一球が導入される前であり、現在に比べてボールが飛びやすい傾向にあった。投手成績に目を向けると、リーグで最も防御率が優秀だった西武でさえチーム防御率は4.29と、3点台以下の防御率を記録したチームが一つも存在しなかった。この数字が、当時の投低打高ぶりを端的に物語っているといえよう。

 その一方で、今季はオリックスと埼玉西武のチーム防御率が2点台で、チーム防御率が最も悪い東北楽天でも3.55と、全チームが一定以上の水準にある。昨季に引き続き投高打低の傾向が顕著となっており、2004年とはまさに真逆の様相を呈している。

シーズン途中での代表への派遣が、タイトル争いにも影響

 また、2004年はシーズン中に開催されたアテネ五輪の日本代表に各チームから2選手が派遣され、その間に行われたNPBの試合を欠場した。松中選手は日本代表への招集を受けなかったものの、チームメイトの城島健司氏が日本代表の一員として大会に参加している。

 城島氏は代表に派遣された時点で、98試合の出場で33本塁打を記録。松中氏が130試合で44本塁打を放った一方で、城島選手は最終的に116試合で36本塁打。仮に城島選手がフル出場を果たしていた場合は、本塁打王の行方にも変化が生じていた可能性はある。

 また、松中氏と激しい首位打者争いを繰り広げていた小笠原道大氏も、同年のアテネ五輪に出場していた。打率は試合欠場による影響が本塁打よりも小さいとはいえ、小笠原氏は代表派遣時の打率.363に比べ、シーズン終了時の打率が.345と、復帰後は数字を落としたことも確かだ。こうした2004年ならではの要素が、タイトル争いにも影響を及ぼしていた。

投高打低の傾向が追い風に?

 当時代ならでは、という観点で言えば、投高打低の傾向が強まる現在のパ・リーグの状況が、近藤選手にとっては、タイトルを争ううえで追い風になっている側面はあるだろう。

 昨季終了時点では2021年に記録した11本塁打が最多と、近藤選手はもともと本塁打が多い打者ではなかった。その点、今季は現時点のリーグトップが23本塁打と、比較的少ない数字での争いとなっている。今季に入ってから長打力が開花しつつある近藤選手にとっては、まさに大きなチャンスを迎えている。

 また、今季の近藤選手が記録している打率.300は、キャリア平均の打率(.306)と大差のない数字だ。そして、こちらも今季は現時点でのリーグトップが打率.307と、リーディングヒッター争いの数字に関しても、例年よりも控えめとなっている。

 近藤選手は過去のキャリアを振り返っても、周囲の環境にさほど左右されずに安定した打率を残してきた。周囲がやや苦しんでいる今季の状況は、そんな近藤選手にとっては追い風といえる。また、本塁打の出にくい札幌ドームから、ホームランテラスが設置されている ドームに本拠地が変わったタイミングで、周囲の本塁打数が減少した点もプラスの材料だ。

WBC出場後に苦しむ選手は少なくないだけに、とりわけ目を引く活躍ぶり

 また、今季の近藤選手はFA宣言による移籍を経験したことに加え、開幕前のWBCへの出場も重なり、通常のシーズンとは異なる調整が求められた。WBCでは主軸として期待通りの活躍を見せたが、開幕後は4月の月間打率が.256、5月は同.235と、近藤選手らしからぬ打撃不振に陥っていた。

 先述の松中氏も、2006年のWBCでは日本代表の4番として世界一に貢献した経験を持つ。同年のシーズンでは打率.324、出塁率.453を記録し、自身2度目の首位打者と、3年連続の最高出塁率に輝いた。その一方で、故障の影響もあって19本塁打、76打点とポイントゲッターとしての数字は落としており、難しいシーズンを送ったという側面もあった。

 こうした過去の例に加えて、昨季のセ・リーグで三冠王を獲得した村上選手も今季は成績を落としており、WBC直後のシーズンで苦しむ選手は少なくなかった。それだけに、近藤選手が今シーズンに三冠王を獲得することができれば、その偉業はより一層の意義を持つことになるかもしれない。

現在のリーグにおける傑出度の高さを、残るシーズンにおいてさらに発揮できるか

 非常にハードルの高いトリプルクラウンの可能性をシーズン終盤まで残している今季の近藤選手が、打者としてこれまで以上に進化を遂げていることは間違いない。周囲の環境という点で追い風が吹いている点も2004年の松中氏と共通しているだけに、近藤選手が現在のリーグにおける傑出度を、残るシーズンにおいてこれまで以上に示せるかがポイントだ。

 球界屈指の巧打者は残るシーズンでさらに数字を伸ばし、世界一で始まったシーズンを歴史的な快挙で締めくくることができるか。残るシーズンにおける近藤選手のバッティングには、これまで以上に大きな注目が集まってくることだろう。

文・望月遼太
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