三冠王を射程圏内に捉える近藤健介。パ・リーグでは19年ぶりの快挙達成なるか?
福岡ソフトバンクホークス・近藤健介選手 【写真:球団提供】
パ・リーグにおける三冠王は、18年間にわたって誕生していない
今回は、近藤選手のこれまでの活躍ぶりをあらためて振り返るとともに、2004年に三冠王を獲得した松中氏と、今季の近藤選手のケースを比較。実際に三冠王に輝いたホークスの先達の例を振り返ることによって、近藤選手が三冠王に輝く可能性を探っていきたい(成績は9月15日時点)。
リーグ屈指の好打者として活躍してきたが、今季は長打力も大きく向上
近藤健介選手 年度別成績 【(C)PLM】
2年後の2017年には故障の影響で57試合の出場にとどまったが、打率.413、出塁率.567、OPS1.124という圧倒的な打撃成績を記録し、「幻の4割打者」として話題を呼んだ。その後も安定した活躍を続け、2019年と2020年に2年連続で最高出塁率のタイトルを獲得した。
2023年からは福岡ソフトバンクに活躍の場を移し、開幕前のWBCでは2番打者として日本代表の世界一に大きく貢献した。シーズンでは序盤戦こそ打撃不振に苦しんだが、交流戦で首位打者に輝いて以降は本領を発揮。持ち前のコンタクト力と選球眼に加えて、長打力の面でも大きな向上を見せている。
単純な成績の面では、2004年の松中氏が大きく上回っているが……
松中信彦氏と近藤健介選手の成績比較 【(C)PLM】
2004年のリーグ平均打率は.277、リーグ全体の本塁打数は920本、リーグ全体の打点数は3913。それに対し、2023年のリーグ平均打率は.242、リーグ全体の本塁打数は544本、リーグ全体の打点数は2470と、いずれも大きく数字が下落している。
2004年当時はいわゆる統一球が導入される前であり、現在に比べてボールが飛びやすい傾向にあった。投手成績に目を向けると、リーグで最も防御率が優秀だった西武でさえチーム防御率は4.29と、3点台以下の防御率を記録したチームが一つも存在しなかった。この数字が、当時の投低打高ぶりを端的に物語っているといえよう。
その一方で、今季はオリックスと埼玉西武のチーム防御率が2点台で、チーム防御率が最も悪い東北楽天でも3.55と、全チームが一定以上の水準にある。昨季に引き続き投高打低の傾向が顕著となっており、2004年とはまさに真逆の様相を呈している。
シーズン途中での代表への派遣が、タイトル争いにも影響
城島氏は代表に派遣された時点で、98試合の出場で33本塁打を記録。松中氏が130試合で44本塁打を放った一方で、城島選手は最終的に116試合で36本塁打。仮に城島選手がフル出場を果たしていた場合は、本塁打王の行方にも変化が生じていた可能性はある。
また、松中氏と激しい首位打者争いを繰り広げていた小笠原道大氏も、同年のアテネ五輪に出場していた。打率は試合欠場による影響が本塁打よりも小さいとはいえ、小笠原氏は代表派遣時の打率.363に比べ、シーズン終了時の打率が.345と、復帰後は数字を落としたことも確かだ。こうした2004年ならではの要素が、タイトル争いにも影響を及ぼしていた。
投高打低の傾向が追い風に?
昨季終了時点では2021年に記録した11本塁打が最多と、近藤選手はもともと本塁打が多い打者ではなかった。その点、今季は現時点のリーグトップが23本塁打と、比較的少ない数字での争いとなっている。今季に入ってから長打力が開花しつつある近藤選手にとっては、まさに大きなチャンスを迎えている。
また、今季の近藤選手が記録している打率.300は、キャリア平均の打率(.306)と大差のない数字だ。そして、こちらも今季は現時点でのリーグトップが打率.307と、リーディングヒッター争いの数字に関しても、例年よりも控えめとなっている。
近藤選手は過去のキャリアを振り返っても、周囲の環境にさほど左右されずに安定した打率を残してきた。周囲がやや苦しんでいる今季の状況は、そんな近藤選手にとっては追い風といえる。また、本塁打の出にくい札幌ドームから、ホームランテラスが設置されている ドームに本拠地が変わったタイミングで、周囲の本塁打数が減少した点もプラスの材料だ。
WBC出場後に苦しむ選手は少なくないだけに、とりわけ目を引く活躍ぶり
先述の松中氏も、2006年のWBCでは日本代表の4番として世界一に貢献した経験を持つ。同年のシーズンでは打率.324、出塁率.453を記録し、自身2度目の首位打者と、3年連続の最高出塁率に輝いた。その一方で、故障の影響もあって19本塁打、76打点とポイントゲッターとしての数字は落としており、難しいシーズンを送ったという側面もあった。
こうした過去の例に加えて、昨季のセ・リーグで三冠王を獲得した村上選手も今季は成績を落としており、WBC直後のシーズンで苦しむ選手は少なくなかった。それだけに、近藤選手が今シーズンに三冠王を獲得することができれば、その偉業はより一層の意義を持つことになるかもしれない。
現在のリーグにおける傑出度の高さを、残るシーズンにおいてさらに発揮できるか
球界屈指の巧打者は残るシーズンでさらに数字を伸ばし、世界一で始まったシーズンを歴史的な快挙で締めくくることができるか。残るシーズンにおける近藤選手のバッティングには、これまで以上に大きな注目が集まってくることだろう。
文・望月遼太
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