メンバーたった10名程度。バスケットボールW杯日本組織委員会が描く未来――沖縄と子どもたちにかける想い
【photo by Tomoaki Kudaka】
日本でのバスケットボールW杯開催の主軸を担うのは、なんとたった10名程度のメンバー。多様性を尊重し、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現を目指して社会が変わろうとする中、独特の文化を育む沖縄でスポーツの国際大会が開催される意義と、その先に見えてくる沖縄とスポーツの未来とは――FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会のキーパーソンに、その舞台裏と大会にかける思いを聞いた。
3カ国共催によるメリット
FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会・副事務局長の笠原さん。大会マスコットの「JIP」と共に 【photo by Tomoaki Kudaka】
今大会の大きな特徴であるフィリピン、インドネシア、日本の3カ国共催における連携・調整も笠原さんの業務の1つ。文化も言葉も働き方も違う3つの国が1つの大会を開催しようというのだから、難しい面も確かにあったという。そんな中でもメリットとして挙げたのがコスト面だった。
「選手の宿泊、食事、輸送、また国際放送するためのインフラなども含めて費用は大会組織委員会が持つことになるので、中国やカタールといった裕福な国家ならば1カ国開催は難しくないと思います。しかし日本では、B.LEAGUEが人気になってきているとはいえ、まだバスケ界の産業規模としては1カ国開催をするだけの経済的負担、運営的負担を掛けられない現実がある。その中で3カ国共催をすることによって、開催の負担を3カ国で分けながら、経済的負担も分けられるということがメリットだと思いますね」
長く大会の開催に向け尽力してきた笠原さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
また、コスト面だけではなくバスケットボールの普及という観点からも、1カ国で開催するよりもフィリピン、インドネシア、日本で同時に開催することでアジア全体を巻き込んでのバスケ熱の高まりが期待できるという点も挙げられた。
W杯を見た子どもたちが10年、15年後の日本代表に
連日の熱戦に沸く沖縄アリーナ。このアリーナの存在も、沖縄開催の理由のひとつだった 【photo by Tomoaki Kudaka】
「フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタといった首都圏と比べると、沖縄は人口が少なく、世界的なイベントを開催するという点ではハードルが高いところもあるのですが、実際にやってみると、マニラやジャカルタを凌駕するようなバスケ熱があります。沖縄の人たちにも『なんで沖縄なの?』と聞かれることがあるのですが(笑)、我々としては沖縄を開催地に選んで本当に良かったなと思っているんです」
そんなバスケットボールとの結びつきが深い沖縄で開催するW杯。当然、今だけの盛り上がりで終わるのではなく、笠原さんが見据える視線はその先――沖縄とスポーツの未来にまで広がっている。
「これまで沖縄にはハコがなかったということもあるのですが、なかなかこの規模の世界大会をやったことがありませんでした。ですので、ぜひ今大会を成功させて、今後、沖縄でバスケットボール以外でも様々な世界大会、またアジア圏の大会も含めてできるようなきっかけを作りたいということを今、もう一つのテーマとして持っています」
『DREAM BIG OKINAWA』のプログラム「MEET THE DREAM」のワンシーン。ジョージア対オーストラリアの練習試合観戦を楽しむ子どもたちの様子。選手のサイン入りボールをゲット 【photo by Adventurous】
日本最南端の波照間小中学校へ旅したネイスミス・トロフィー。新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、バスケットボールW杯を子どもたちに知ってもらおうと笠原さんは奮闘を続けた 【写真提供:FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会】
子どもたちが新たな世界と出会う『DREAM BIG OKINAWA』
『DREAM BIG OKINAWA』のプログラム「MEET THE DREAM」のワンシーン。東京2020オリンピックバスケットボール女子日本代表の馬瓜エブリン選手が、子どもたちと交流した 【写真提供:FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会】
また、今大会は美しい海と島の自然を有する海洋国同士の共催であることから、FIBA本体も環境保全に特に注力しており、大会マスコットの「JIP(ジップ)」はリサイクルのゴミから変換されたエネルギーを原動力とするロボットだ。日本組織委員会はそこから着想を得た「MEET THE ENVIRONMENT」として、バスケ要素を取り入れたゴミ拾いゲーム「Pick & Shoot!」を考案。沖縄のみならず、北海道、仙台、東京などでも実施し、バスケの楽しさと環境保全の大切さを学びながら清掃活動し、さらに東京で実施した際には沖縄グループステージに出場する8カ国の人たちにも参加してもらうことで国際交流の場ともなった。この「Pick & Shoot!」は大会後にW杯のレガシーとしてB.LEAGUEに引き継がれ、複数のクラブで実施が予定されている。
ゴミ袋をバスケットボールに見立て、一般ゴミは2ポイント、資源ごみは3ポイントとして2チームで拾ったゴミの得点を競う対戦型ゴミ拾いゲーム「Pick & Shoot!」。子どもも大人も、どの国の人も笑顔で取り組んだ 【写真提供:FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会】
自分の世界はもっと広げられる、そのきっかけに
FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会・広報PR部会マネージャーの中澤さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
それと同時に、自身も2児の母である中澤さんが語った、W杯を通じて次世代の子どもたちに残したいレガシー。それは「世界の広さをリアルで感じてもらう」ことだった。
「(普段の生活では)子どもたちは『外の世界』があるという実感があまりないと思いますし、沖縄から出たことがないという子どもも多いと思います。今回のW杯では世界中から選手だけではなく、ファンがたくさん来ますので、『外の世界』と触れてもらって、世界はこんなに広いんだということをリアルに、肌で感じてもらいたいですね。こういう機会はなかなかありませんから、そこで良い刺激をたくさんもらって、自分の世界はもっと広げられるんだと思ってもらえるきっかけになればすごくいいなと思っています」
先述の『DREAM BIG OKINAWA』では、オンラインでの海外の人との交流も。世界を感じる場が、バスケットボールW杯をきっかけに沖縄にたくさんもたらされている 【写真提供:FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会】
笠原さん、中澤さんがともに描くバスケットボールと沖縄、そして子どもたちの未来と可能性。W杯をきっかけとした大きな希望、あるいは変化が、沖縄全島に降りそそぐ太陽のように広がっていくことを期待せずにはいられない。
子育てと仕事に全力投球。内外で「多様性」を重んじる組織が描く未来
うち4割ほどは女性職員。「確かに女性は多いですが、組織委員会内では男性だから、女性だからというのはあまり考えていないですね」と中澤さん。ただし、「シンプルに発想がいろんな角度から出てくるという意味では、凝り固まった組織にはなりづらいというのが非常に大きなメリットだったと思います。私も含め、みんな色々と立場が違いましたから」と、スポーツの組織によくある縦割りではなく、みんなが横並びでマルチタスクをこなしたからこそ、様々な視点からアイデアが出てきたのだろう。
少数でも個々が最大限に力を発揮できれば、大きなことを成し遂げられる。日本組織委員会で働く2人の表情には充実感がにじむ 【photo by Tomoaki Kudaka】
「私は大会期間中はメディアオペレーションマネージャーという、いわゆるメディアを仕切るトップの立場になるのですが、まさか子どもを2人抱えた状態でそんな責任のある仕事を任されるなんて……。プレッシャーは感じますが、それ以上にやりがいを感じています。組織やメンバーに本当に恵まれているので、その感謝の気持ちから、期待に応えたい、組織のために頑張ろうというモチベーションもわきます。また、かつての私と同じようなジレンマを感じている女性はきっといると思うので、周囲の理解とサポートがあれば力をもっと発揮できる女性がたくさんいるということが伝わればと思っています」
仕事にも全力で取り組む母の姿は、愛娘2人の目にも輝かしく映っていることだろう 【photo by Adventurous】
text by Atsuhiro Morinaga(Adventurous)
photo by Tomoaki Kudaka
※本記事はパラサポWEBに2023年9月に掲載されたものです。
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