2023年体操ニッポンの顔は誰だ パリ五輪を見据えて

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体操ニッポン,トップ選手たちが集結

5月20日に女子,21日に男子の第62回NHK杯が東京体育館(渋谷区千駄ヶ谷)で開催される。この大会は,NHK杯のタイトルをかけた戦いだが,同時に,今年開催される第52回世界体操競技選手権大会,第19回アジア競技大会の2つの国際大会の日本代表を決める3試合(全日本個人4月・NHK杯5月・全日本種目別6月)のうちの2戦目となる。世界選手権代表に関しては,一部の選手がこのNHK杯で選ばれるので,タイトル争いと並行して進む2023年体操ニッポンの顔となる戦いも楽しめる。何よりも体操競技選手にとって大きな目標となるオリンピックが翌2024年に控えていることを考えれば,いつも以上にその価値は高い。
男女とも4月に開催された全日本個人総合選手権決勝に出場した選手がNHK杯においても出場権を得ている。男子は個人総合で30名,そしてそれ以外に種目別の成績により各種目6名の選手が演技を行う。一方,女子は24名が決勝に出場。しかし,その決勝の競技中に山田千遥(Mizutori Sports Club)と山口幸空(米田功体操クラブ/星槎中学校)が残念ながら負傷棄権したため,今大会はその二人を除く22名による戦いとなる。
世界選手権の代表選考方法はいたってシンプルだ。男子はすでに内定している世界チャンピオンの橋本大輝(順天堂大学)を除く個人総合上位2名,女子は個人総合上位4名が代表となる。なお,この個人総合の順位には,4月に開催された全日本個人の得点が加算されている。NHK杯のタイトル争いも同じく持ち点が加えられた総合得点で決まるため,代表争いとタイトル争いの順位は一致しているのでわかりやすい。なお,今大会のゼッケン番号は男子の種目別選手を除いて全日本選手権時の個人総合の順位になっているので,観戦する際にそれを参考にできる。

第62回NHK杯 【Japan Gymnastics Association】

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女子の見どころ(5月20日)

 平均台の世界チャンピオン渡部葉月(筑波大学)は,この冬でパワーと自信をつけて全日本個人初優勝を果たした。大きなミスなく取り組めたその全日本と同じ波に乗れれば,日本代表として必要な選手としての存在感を高めることができるだろう。一方,2位につけている宮田笙子(順天堂大学),そしてシニアデビュー年となる3位の岸里奈(戸田市スポーツセンター)は,それぞれ落下などの大過失を出しての順位となっている。落下が1点の減点であることを考えると,NHK杯のタイトルを含めて十分に代表入りの可能性の高い位置にいると言えよう。宮田は2月に右足を負傷していたものの,順調に回復していれば大活躍した昨年の世界選手権のような演技を期待できるだろう。また,岸は,跳馬でユルチェンコ2回ひねり,ゆかではシリバス(後方かかえ込み2回宙2回ひねり)や前宙1回ひねり~前宙2回ひねりといった跳躍系で世界トップの技を持っており,両者とも段違い平行棒と平均台のできが重要になるだろう。

渡部葉月選手(全日本1位) 【アフロスポーツ/JGA】

その中にあって段違い平行棒で強さをみせている深沢こころ(筑波大学),メリハリのある演技の坂口彩夏(日本体育大学)は,世界選手権という大舞台の経験を自信につなげられれば今大会でもいい演技が期待できる。
 畠田千愛(セントラルスポーツ)は安定した試合運びで5位につけ,ようやく代表入りを争う位置につけた。また,2月下旬のW杯コトブス大会平均台で優勝した岡村真(相好体操クラブ)はミスを出したものの7位で踏みとどまり代表圏内にいる。いずれにしても女子は4種目なので,1つの取りこぼしが他者との差に影響するため,競技の日に合わせた心身の調整が鍵となる。

宮田笙子(全日本2位) 【アフロスポーツ/JGA】

一方,年齢制限でシニアの代表争いには関係しないが,第2回世界ジュニア体操競技選手権大会(トルコ・アンタルヤ)団体で金メダル,個人総合でも優勝した中村遥香(なんば体操クラブ-ngc),全日本9位の川上紗輝(ZERO体操クラブ/ふじみ野高校)らは,代表入りする順位に名を連ねておけば,来年のシニアデビューに向けて大きなアピールになるだろう。
男子は昨年の第51回世界選手権(イギリス・リバプール)で団体メダルを獲得してパリ五輪の団体出場権を獲得したが、女子は今年の世界選手権でその獲得を目指している。すでに出場権を獲得したアメリカ、イギリス、カナダを除く、予選において団体上位9位に入る必要がある。このNHK杯において4名の代表が決まり、その選手たちがチームの軸となるので、日本代表になることだけが目的ではなく、その先にある厳しい戦いを勝ち抜く覚悟を保つ必要がある。

岸 里奈(全日本3位) 【アフロスポーツ/JGA】

男子の見どころ(5月21日)

注目は、やはり昨年の世界選手権の個人総合覇者で4月の全日本個人でも優勝した橋本大輝。冬の時期に怪我をしたために練習が詰めず,本調子ではないとはいえ、技を控えめにしても第一人者の貫禄を見せた。3月中旬にドイツのシュツットガルトで開催された国際大会に出場し、鉄棒では新しく構成した「カッシーナ〜コールマン(G難度+E難度)」を成功させ、さらなる進化を見せているので今大会ではその挑戦を楽しみにしたい。

橋本大輝(全日本1位) 【アフロスポーツ/JGA】

2位につけた萱和磨(セントラルスポーツ)は,昨年の世界選手権の代表を逃しはしたが、安定感のある雰囲気を取り戻し、強さを見せている。頼れる柱としてその存在は見逃せない。
一方,3位以下は混沌としている。2019年にナショナル入りした杉本海誉斗(相好体操クラブ/日体ク)がようやく代表争いに加わってきた。平行棒を得意とし、前半で構成する前振り上がりひねり倒立(E難度)は高い習熟度を示している。それに続くセントラルスポーツの谷川航,谷川翔、三輪哲平、そして川上翔平(徳洲会体操クラブ/星槎大学)らもそれぞれの得意種目で取りこぼしなく乗り切れば代表入りもみえてくる。

萱 和磨(全日本2位) 【アフロスポーツ/JGA】

ダークホース的存在なのが,岡慎之助(徳洲会体操クラブ/鹿児島県スポーツ協会)だ。全日本個人決勝で85.365を叩き出し,その日だけで考えれば橋本に次ぐ2位につけた。何よりも2019年世界ジュニアチャンピオンは,昨年の大会で膝を負傷したが,さらにたくましさを増しての早期復活に,新しい期待が膨れ上がった。復活に向けての本人とその関係者の労をねぎらいたい。
その他,杉野正尭(徳洲会体操クラブ/鹿児島県スポーツ協会)は,今年のW杯ドーハ大会と全日本個人でもあん馬で見事にH難度の最高難度技(ベルトンチェリ1080度コンバイン)を成功させた。今のところ世界的に競技会で成功させた選手を見たことがないので「Sugino」と呼んでいい気がする。

杉本海誉斗(全日本3位) 【アフロスポーツ/JGA】

ゆかの南一輝(エムズスポーツクラブ)も見逃せない。今年のW杯ドーハ大会で前人未到の「後方かかえ込み2回宙返り3回半ひねり」の大技に挑戦した。転倒などはなかったが大過失(0.5減点)があると命名されない規則があるため「ミナミ」となるのか国際体操連盟の判断を待つところだが,2回転の宙返りに3回を超えるひねりを加える技はゆかでは史上初の快挙だった。全日本個人ではその挑戦はなかったがそれ以上に完成度と難度の高い演技は非常に魅力にあふれている。特に最初の「後方かかえ込み2回宙返り2回半ひねり~前宙1回ひねり」の組み合わせは類を見ない難易度と完成度を兼ね備えており必見だ。
以上,男女の主な選手を示したが,言えばすべての選手が注目するに値する。例えばこのNHK杯にて個人総合10位までに入るとナショナル選手に指定される。ナショナル選手制度とはその年に強化選手として指定するものだが,新しく指定された選手には新たに番号が割り振られる。一度割り振られた番号は変わることはなく,その選手の実績として語り継がれる。男子No1を遠藤幸雄,女子No1を池田敬子とし,続けられているこの制度も現在,男子は226,女子は253にまで達している。新たにナショナル入りするのは誰かという注目点もある。

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また,今回代表に選ばれなくても最後の枠に選ばれるために各種目で高得点を得ておく必要がある。4月の全日本での各種目の最高得点獲得選手は次の通り。個人総合で上位にいなくても種目別で貢献する選手の代表入りも考えられるので,それぞれの種目の基準点として観戦しても面白いだろう。
男子ゆか 南一輝(エムズスポーツクラブ)15.200
あん馬 杉野正尭(徳洲会体操クラブ/鹿児島県スポーツ協会)14.900
つり輪 金田希一(鹿屋体育大学)14.466
男子跳馬 米倉英信(徳洲会体操クラブ)15.233
平行棒 谷川翔(セントラルスポーツ)15.300
鉄棒 橋本大輝(順天堂大学)14.733
女子跳馬 岸里奈(戸田市スポーツセンター)14.433
段違い平行棒 深沢こころ(筑波大学)14.100
平均台 山口幸空(米田功体操クラブ/星槎中学校)14.200
女子ゆか 岸里奈(戸田市スポーツセンター)13.600
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