「カギは最初に相手の出足を止めること!」GR東葛コーチ陣が語るラストスパートへの決意
松尾健、権丈太郎両コーチが見た今季の成長と課題とは?
1勝もできなかった昨季に比べれば成長した部分もあるが、第13節の東京サントリーサンゴリアス戦がそうだったように、前半をいい形で戦いながら、後半に点差を開けられて敗れるゲームも多い。
これから、今季最後となる柏の葉公園総合競技場でのホストゲーム2連戦――横浜キヤノンイーグルス戦(4月9日 14時30分キックオフ)、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦(16日 14時30分)を控えて、グリーンロケッツ東葛は課題をどう修正し、どのような戦いで来季へつなげる手応えをつかもうとしているのか――。
ここでは、ディフェンスのシステムを担当する松尾健、コンタクト局面でのタックル等のスキルを教える権丈太郎の両コーチに、今季の手応えや最後のホストゲームに臨む意気込みを語ってもらった。
権丈太郎コーチ 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
権丈太郎(以下 権丈) 僕は昨季の途中からチームに戻ってきたのですが(注・その前は母校の早稲田大学でラグビー部のコーチを務めていた)、今季は、まず全員がディフェンスで同じ絵を見ることにフォーカスしています。
つまり、「こういう場合はこう対処する」、「こういう場合はこうだよね」と、全員が把握することを徹底しようと思っているのです。昨季はそこに曖昧な部分があった、というのが僕の第一印象でした。だから、みんなが同じ絵を見て、あとはタックルするだけ、みたいな状況を作ってあげようとしているのです。その部分の理解度は、今季は確実に上がったと思います。
ただ、今季の始めからずっとディフェンスに取り組んでいるものの、シーズン当初は良いときもあったのですが、第10節のリコーブラックラムズ東京戦辺りから良くない部分が出た。
これは、システムの問題というよりも、連戦で身体に疲れが溜まったり、さまざまな要因で個人のタックルや実行力が落ちてきたところに原因があると思います。
だから、まずはタックルのスキルを再確認しています。タックルは、スキルが伴っていれば、たとえ体格差があっても必ず倒せるからです。選手たちは、もともとできないわけではないので、コーチ側から何が良くなくてタックルを決められなかったのかを指摘して、どう修正すればいいのかを提示してあげる作業が大切になるのです。
もうひとつは、相手の脅威となる選手が来る位置に、こちらも強いタックラーがポジショニングして対応すること。つまり、適材適所が大切になります。そのために、タックル以前の立ち位置やディフェンスラインの幅、前に出るスピードといったところも修正しています。
そして、そうしたきちんとしたディフェンスをセットプレーから3フェイズはやり続けること。
これは、今季勝った花園近鉄ライナーズ戦や、三菱重工相模原ダイナボア―ズ戦をレビューしたデータに基づいているのですが、最初の3フェイズで相手を前に出さず、しっかり止めているとターンオーバーになる確率が高くなっています。だから、どんな相手に対しても、最初の3フェイズは相手を前に出さないことに集中しようと指導しているのです。
松尾健コーチ 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
実際、ダイナボア―ズ戦は、かなりの確率で相手を3フェイズ止め続けることができて、その大半がターンオーバーにつながっていた。
だからこそ、最初の3フェイズのディフェンスをコンプリートすれば、相手はボールを蹴ってくれるし、ターンオーバーにもつながるんだよ、と選手たちに伝えています。
前節の東京サントリーサンゴリアス戦では、少しその片鱗が出ましたが、対戦相手はどこもセットプレーから強いランナーにボールを持たせてアタックしてきます。でも、そのランナーを止めて前に出さなければ、次のラックでは、今季のスローガンである「Win the Race」で、相手より早く到達して、相手がアタックの陣容を整える前に、こちらのディフェンスの準備ができる。
シーズンも残り少なくなりましたが、これはしっかりやり続けないといけないポイントです。
クルーのみなさんには、ぜひ注目していただきたいですね。
権丈 選手たちに、いかに自信を持ってグラウンドに立ってもらうか。それが、僕たちがやらなければならない仕事だと思っています。
その上で、勝ち点をもぎ取るためには、セットプレーから3フェイズ以内に相手の勢いを止めることが、必ず必要になります。いかにそこが大切かを、もう一度練習を通して選手たちに伝えたい。その点は少しずつ良くなっているので、ずっとフォーカスし続けたい。
急には変われないと思いますが、いかに選手たちが3フェイズをしっかり守ることがマストだと考えて、それをしっかりやり切ってくれるか。それがカギだと思います。
あとは、勝つためには、いかに相手陣に入るかが大事になります。そして、少ないチャンスを、モールや、スクラムからの準備したプレーで防御を崩して、しっかりとモノにする。
そのためには、まず前半の立ち上がりにしっかりと試合に入って、できれば前半をリードして折り返す。たとえリードされても、メンタル的に「まだまだ行けるぞ」と思える点差でハーフタイムを迎えること。それが必要だと思います。
上位チームと対戦するときに、すべての局面で勝とうとすると、大きな挑戦のように考えてしまいがちですが、そうではなくて、まずセットプレーからの最初の3フェイズ、次に最初の10分間と、試合を細かく分解して、その1つひとつで自信を積み重ねていけば、「よし、次に行こう」と前向きに考えられるようになる。
たとえトライを獲られても、「じゃあ、次のキックオフに集中だ」、「よし、3フェイズを抑えてペナルティを獲得したぞ」、「敵陣に入ってモールだ」――というように、目の前の1つひとつにフォーカスして自信を積み重ね、その結果、前半を終わって10対14くらいならハーフタイムに、「負けているけど全然行けるぞ!」という気持ちを持つことができる。
そういうプロセスを重ねていけば、最後のワンチャンスで逆転勝利を狙えるところまでエネルギーが残っているのではないかな。
つまり、1回できた。よし、次もできた。でも、次はできなかった。じゃ、また次を頑張ろう……そういうふうに1つひとつに集中して、短い時間で修正点を話し合うことが必要ですね。
松尾 補足すれば、すべての局面で相手に勝とうとするからハードルが上がってしまうんです。そうではなくて、最終的に1点でもいいからスコアで上回れば勝てるんだ、と考えることが大切でしょうね。
ラインアウトからのモールを得意としているチームに、モールからトライを獲られても、それはある意味、仕方のないことと割り切って、次にトライを獲り返すことへと気持ちを切り替える。
相手の強みでトライを獲られたことを、必要以上に「強い」と思うのではなく、それよりも、いかにゴール前で相手ボールのラインアウトを減らすか――そのためには反則をしないことが必要だ、と考えていく。
もっと言えば、最初の3フェイズをしっかり止めれば、そういう状況をなくすことができる。そういう次への準備がしっかりできれば、最後の最後まで競った試合をできるのではないかな。
これから対戦するイーグルスも、スピアーズも、最初の対戦では前半はいい勝負ができていました(それぞれ前半は12対19、7対14)。でも、行けるんじゃないかと臨んだ後半に、相手にトライを獲られて気持ちが切れ、ズルズルとスコアが開いてしまった(最終スコアは12対36、7対40)。今回はそうしたことを繰り返さないために、自分たちにできたこと、そして、それから上積みしたことを、繰り返し選手たちに言い続けていきたい。
そうすれば、ロースコアのまま最後まで戦えるのではないか。
シーズン終盤の今、選手たちのスキルが飛躍的に向上することはあまり考えられないけれども、そうやって自信を持てば、今の自分たちの力で十分に太刀打ちできる――そういうマインドセットを持てるように、選手たちにアプローチしたいですね。
――どうもありがとうございました。
(取材・文:永田洋光)
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