B1優勝クラブ分析—BMC史上初、全4分野においてB1トップとなった琉球ゴールデンキングス

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2021年シーズンにおけるBMCのB1部門で、圧倒的な成績を残して連覇を果たした琉球ゴールデンキングス(以下、琉球)。日本ではまだ数少ない本格的なアリーナである沖縄アリーナ完成の追い風も受け、競技面でも過去最高となるチャンピオンシップ準優勝という結果を残し、今最も波に乗っているクラブの1つです。
琉球はBMC史上初となる、マーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の全4分野においてB1トップの成績をたたき出すというパフォーマンスで、後続に影も踏ませないほどの差をつけた圧勝劇での連覇を達成しています。創業時から「沖縄をもっと元気に!」という信念の経営を続けてきた木村達郎前社長の集大成ともいえる結果でもありますが、今回は2022年6月に、その木村前社長から経営を引き継いだ白木享代表取締役社長(以下、白木社長)に現状の琉球の状況も踏まえてお話を伺い、デロイト トーマツ グループ独自の目線で分析しました。

琉球のコア・コンピタンス

「今回の受賞はまさに優秀なスタッフの活躍が生み出した成果だと思っています。」白木社長からの第一声、このようなコメントをいただきました。経営を引き継いで日が浅いにも関わらず、露出の多い競技成績に関する視点ではなく外からは見えにくい内部人材にスポットを当てたコメントは、白木社長の経営センスと琉球のコア・コンピタンスを的確に示していると感じました。

近年、日本のビジネス界では「人材不足」に悲鳴を上げている組織が少なくありません。これは、単なる頭数やマンパワーだけの問題ではなく、厳密にいえば、「自ら考え、行動できる人材の不足」という意味であるといわれています。

特にコロナ禍という世界的な環境変化が起こり、従来機能していた様々な仕組みや、制度が機能不全に陥りました。また、コロナ禍は経済だけではなく、社会や人々の考え方や行動様式すらも大きく変化させることになりました。これほど大規模な環境変化は頻繁に起こるものではなく、誰もが正解のない課題に直面する結果となりました。

このような環境下では、これまで我々が当たり前に取り組んできた、過去の経験を生かしたビジネスの効率化という考え方では成果が出にくく、外部環境の変化を読み取り、小さなTry & Errorを高速で積み重ねることで自ら正解を導き出すような人材が、まさに必要とされているわけです。多くのクラブが先の読めない環境下で苦しんでいる中、ビジネス面で圧倒的な成果を残した琉球の成功要因として「優秀なスタッフの存在」を第一に指摘した白木社長のコメントは、非常に納得感のあるものでした。

経営理念の承継

白木社長と琉球との接点は、白木社長の出身母体企業である株式会社プロトソリューションが2013年から琉球のオフィシャルパートナーとなったことでした。同社は株式会社プロトコーポレーションのグループ会社ですが、沖縄の宜野湾市で創業し、以来沖縄においてITソリューションの提供と現地雇用の創出に大きな貢献をしている企業の1つです。

パートナーシップに至ったきっかけは、創業時期が琉球の設立時期と重なっていたことも縁だったそうですが、スポーツ不毛の地と思われていた沖縄においてスポーツコンテンツで沖縄をもっと元気にしようと真正面からチャレンジしていた当時の木村前社長へのリスペクトも大きな理由だったようです。実は白木社長は社長就任までは琉球の経営にはほとんど関与していなかったということでしたが、琉球との接点を持って以降、木村前社長の経営理念を間近で見ながら伴走してきたことで、琉球というクラブの理念や強みについては十分に熟知しているようでした。その意味では、クラブの経営哲学や企業風土をいたずらに崩すことなく、スムーズに経営を引き継ぎ、さらに上乗せを積み上げることができる数少ない適任者の1人であったといえるでしょう。

一方で白木社長は自らのマネジメントとしての役割について、「優秀なスタッフたちが自主的に生きいきと活動できる環境を整備すること」であるとコメントしています。実はこの経営ポリシーは、木村前社長が昨年の我々のインタビューでコメントしていた「経営者の仕事は、事業のステージを変えていくこと」に通じるものがあると感じました。経営者はミッションドリブンで組織のエンパワーメントを重視し、細かい現場の戦略は優秀なスタッフに信頼して任せられる環境をつくることに注力する、というスタンス。これは木村前社長と白木社長の共通項であり、琉球の組織風土としてしっかりと承継されています。そして琉球というクラブ経営の最も重要な成功要因であると同時に、今後さらに琉球の組織としての価値を増大させていくコア・コンピタンスになるものと考えられます。

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成功を引き寄せるガバナンス体制

もう1つ、琉球のクラブ経営上注目すべきは、やはり「クラブとアリーナの一体経営」にあります。琉球はクラブ運営を担う沖縄バスケットボール株式会社と、そのグループ会社であり指定管理者としてアリーナ運営を担う沖縄アリーナ株式会社が密接に連携しながらクラブ経営を推進しています。そのため、ソフト面、ハード面の様々なBM施策が柔軟に検討・実行できる体制が整っています。加えて、沖縄バスケットボール株式会社は株式会社プロトソリューションのグループ会社となったことから、プロトグループの人事評価制度が導入され、フロントメンバーの労働環境のアップデートも着々と進んでいるようです。その結果、琉球が誇る優秀なスタッフたちが躍動し、コロナ禍のような外部環境の変化にも柔軟に対応する形で様々なチャレンジが実行されてきました。

協賛企業とは、これまでの広告露出重視のスポンサーシップからの転換を図り、クラブの持つアセットを有効活用したアクティベーション重視のパートナーシップへのシフトを実現し、経営課題や社会課題をともに解決して「沖縄をもっと元気に!」する共同の取り組みを増加させています。また、ファンとも、これまでのようなクラブからの提供型の関係をさらに前進させ、UGC(User Generated Contents)戦略を採用したコンテンツの共同創出型の関係構築に取り組んでいます。

これらの取り組みを通じて、協賛企業もファンも、さらにはクラブスタッフも含めたステークホルダーの多くが、琉球というクラブを自分事化して考えられるようになり、今まで以上にクラブに愛情を持って接してくれるようになっていると白木社長も感じているようです。

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琉球への期待

今回のインタビューを通じて、近年の琉球のクラブ経営におけるハイパフォーマンスは偶然ではなく、発揮されるべくして発揮されているものであると感じました。

創業者が積み上げてきたクラブ哲学とそれを承継し加速できるマネジメントの出現、そのクラブ哲学に共鳴して集まり成長してきた優秀なクラブスタッフ、彼らの様々なチャレンジを可能にするソフト・ハードのクラブアセット。もちろん偶発的な外部要因も無かったわけではありませんが、今の琉球にはクラブ経営の成功にとって必要な要素がきれいに揃っている状況であると考えられます。そして、その強力な経営基盤に支えられることで、競技面で戦うチームも安定したパフォーマンスを発揮し続けることができています。

Bリーグは間もなく、リーグレギュレーションを変更させて、エクスパンション制に移行することになっています。クラブはコロナ禍に続き、またしても大きな外部環境の変化に直面することになりますが、そのような環境下で、琉球が今後どのようなインパクトをバスケ界に、スポーツビジネス界にもたらしてくれるのか、非常に楽しみです。

次回はB2部門のランキング結果を分析していきます。
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著者プロフィール

デロイト トーマツ グループは、財務会計、戦略、マーケティング、業務改革など、あらゆる分野のプロフェッショナルを擁し、スポーツビジネス領域におけるグローバルでの豊富な知見を活かしながら、全面的に事業支援を行う体制を整えています。またコンサルティング事業の他、国内外のスポーツ関連メディアへの記事寄稿などを通し、スポーツ業界全体への貢献も積極的に行っています。

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